
ヒアリングシートとSPIN話法をAIで作る。商談のヒアリングを仕組みにする
2026/08/03
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
ヒアリングシートは、商談で聞く項目を「現状」「課題の深さ」「判断の構造」「予算」「競合と代替案」の5分類に分け、15〜20項目に絞った1枚です。
商談の前にこの1枚を作っておけば、聞き忘れが減り、1回目と2回目で聞く内容も分けられます。
作り方は、先方の会社名と分かっている情報をAIに渡して項目を出させ、SPIN話法の4つの質問に当てはめて直す、という手順がいちばん簡単です。
営業成績の差は、話し方の巧拙より「聞けている情報」の差として表れやすいものです。
予算の目安、決裁の経路、検討の時期、社内で誰が反対しそうか、という4つを、成績の良い営業は1回目の商談で押さえています。
そうでない営業は、3回目でも把握していないことがあります。
何を聞くかが事前に決まっていれば、商談の場でも聞けるからです。

営業の工程全体への当てどころは、営業のAI活用を型にする。企業研究から商談振り返りまでの標準セットにまとめてあります。
営業以外の職種も含めて、どの仕事のどこにAIを当てるかの見取り図は、職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころが入口になります。
ヒアリングシートをAIで作る手順
ヒアリングシートは、次の5つの手順で1枚にできます。
1. 先方の会社名と、分かっている情報(業種・規模・商談のきっかけ)を用意します
2. 会社名と情報をAIに渡し、事前に調べられる情報と、今回聞くべき項目を出してもらいます
3. 出てきた項目を、「現状」「課題の深さ」「判断の構造」「予算」「競合と代替案」の5分類に振り分けます
4. 項目を15〜20に絞り、「1回目で聞く」と「2回目以降で聞く」に分けます
5. 商談のあとに、聞けた項目へチェックを付けます
AIに渡すプロンプトは、次のような形です。
会社名や業種を、実際の商談に合わせて書き換えます。
次の会社との初回商談で使うヒアリングシートを作ってください。
会社は、従業員200人の製造業のA社で、営業の見積もり業務に課題があるようです。
聞く項目を「現状」「課題の深さ」「判断の構造」「予算」「競合と代替案」の5分類に分け、合計15〜20項目にしてください。
各項目に「1回目で聞く」か「2回目以降で聞く」かを付け、質問の例も1つずつ添えてください。
プロンプトの書き方は全社共通のプロンプト作法を決める。押さえるべき7つの基本に、業務でそのまま使える例はプロンプトテンプレートの例文集。業務でそのまま使える10本と社内での配り方にまとめています。
先方の会社を事前に調べる作業そのものは、取引先を調べる力を標準化する。営業前調査と与信の目線で扱っています。
ヒアリングシートのテンプレート
5分類のテンプレートを、次の表にまとめました。
聞き方の例は、説明用に作ったものです。
分類 | 聞くこと | 聞き方の例 | 聞く回 |
|---|---|---|---|
現状 | いまどうやっているか、何に困っているか | 「いまの見積もりは、どんな流れで作っていますか」 | 1回目 |
課題の深さ | 困りごとで実際に何が起きているか。金額や時間で語れるところまで | 「その作業に、月にどれくらいの時間がかかっていますか」 | 1回目 |
判断の構造 | 誰が決めるか、いつ決めるか、何を基準に決めるか | 「導入を決めるときは、どなたの承認が必要ですか」 | 2回目以降 |
予算 | 費目、規模、確定の時期 | 「予算は、どの費目から出ることになりますか」 | 2回目以降 |
競合と代替案 | ほかに検討しているもの、何もしない場合の想定 | 「ほかに比べているものはありますか」 | 2回目以降 |
この5分類で、項目は15〜20に収まります。
それ以上は、商談の中で聞ききれません。
「1回目で聞く項目」と「2回目以降で聞く項目」も、表のように分けておきます。
初回で予算と決裁を全部聞こうとすると、相手が引くからです。

SPIN話法の4つの質問とヒアリングシートの関係
SPIN話法は、ニール・ラックハム氏が著書『SPIN Selling』で示した、4種類の質問を順に使う聞き方です。
4つは、状況を聞く質問(Situation)、問題を聞く質問(Problem)、その問題が続いたときの影響を聞く質問(Implication)、解決したときの効果を聞く質問(Need-payoff)です。
ヒアリングシートの5分類と、SPIN話法の4つは、次のように重なります。
質問の例は、説明用に作ったものです。
SPINの質問 | 重なるシートの分類 | 質問の例 |
|---|---|---|
状況 | 現状 | 「いまの見積もりは、どんな流れで作っていますか」 |
問題 | 課題の深さ | 「その中で、いちばん時間がかかるのはどこですか」 |
影響 | 課題の深さ、予算 | 「それが続くと、月末の締めにどんな影響が出ますか」 |
解決の効果 | 判断の構造、競合と代替案 | 「その確認が半分になったら、誰の仕事が楽になりますか」 |
4つを1回の商談で全部聞く必要はありません。
ただ、シートの項目ごとに、どの種類の質問で聞くかを決めておくと、聞き方がそろいます。
AIには、「この項目について、SPINの4種類の質問を1つずつ作ってください」と頼めば、質問の案が出てきます。
作らずにすぐ使うなら、AI Portalizeの業務アプリにそろっているものを手直しして使う方法もあります。
ヒアリングシートの準備が効く3つの理由
ここからは、シートを組織で回すための話です。
準備が効く理由は、聞き忘れの減少、聞く深さの設計、次の提案の精度の3つです。
「予算はいくらですか」で終わるか、「その予算はどの費目から出るのか、いつ確定するのか」まで聞くかは、準備の段階で決まります。
話し方には個人差が残りますが、聞く項目は共通の型にできるので、ここが組織として手を打てる部分です。
型を起こし、準備を整え、測る3つの段階
導入は、言語化、準備の標準化、測定という順に進めます。
最初の段階は言語化で、成績の良い営業3人に、直近の受注案件を時系列で聞いていきます。

「何を聞いたか」ではなく、「実際の商談で何が起きたか」を聞くのがコツです。
「ここで提案の方向を変えたのは、何を聞いて決めたんですか」という問いに、型の核心があります。
話してもらった内容をAIに渡し、聞いていた項目と判断の基準を抽出させると、本人が意識していなかった項目が出てきます。
3人分を重ねて、共通する項目をシートに入れます。
1人だけの項目は、その人固有の可能性があるので、あとから判断します。
この段階の成果物はヒアリング項目の一覧1枚で、期間の目安は2〜3週間です。
手順や判断の言語化そのものは、仕事の手順をAIに覚えさせる。社内の「型」を資産化する考え方で扱っています。
次の段階は準備の標準化で、訪問先の企業名と分かっている情報を渡して、3つを出させます。
出させるのは、事前に調べられる情報、今回の商談で聞くべき項目、想定される反論とその場での返し方です。
反論は、「予算がない」「時期が悪い」「他社を検討している」といったものです。
この反論への備えが、実務でいちばん効きます。
準備していなければその場で考えることになりますが、準備してあれば落ち着いて対応できるからです。
準備の時間は15分と決めておきます。
これ以上かけると、準備そのものが負担になって続きません。
効果の目安は、準備が30分から15分になることです。
ただ、準備をしていなかった商談に準備が入るほうが、効果としては大きいはずです。

準備の標準化そのものは提案前の準備を30分に短縮する。顧客リサーチとFAQ準備の標準化にまとめてあります。
最後の段階は測定で、測るのは「聞けている項目の割合」です。
商談の記録にチェック欄を置き、商談後に埋めてもらいます。
受注率と並べて、聞けている項目が多い案件と少ない案件で差が出ているかを見ると、差が出れば型を広げる根拠になります。
全員が同じ項目を聞けていない場合、その項目は聞きにくいということなので、聞き方を工夫するか項目を分割します。
「予算」がいちばん聞けない項目になるのが普通なので、聞き方の型を別に用意しておきます。
振り返りを個人任せにしない設計は、商談の振り返りを個人任せにしない。トップセールスとの差分を可視化で扱っています。
潜在ニーズは、現状の具体を聞くと掘れる
ヒアリングでいちばん難しいのは、相手がまだ言葉にしていない課題を掘るところです。
「困っていることはありますか?」と聞くだけでは、出てきません。
相手が課題として認識していないものは、質問しても答えられないからです。
効くのは、現状の具体を聞く聞き方です。
「いまその作業は、誰が何分くらいかけてやっていますか」「その確認は月に何回発生しますか」といった質問になります。
具体を聞くと、相手が自分で気づきます。
「言われてみると、けっこう時間かかってますね」という、この瞬間が課題の顕在化だと思います。

SPIN話法でいえば、問題と影響を聞く質問にあたります。
シートに入れるのは質問そのものではなく「聞くべき具体の項目」で、作業の頻度、関わる人数、かかっている時間、発生している手戻りです。
ただし、どの業務を聞くかの判断は人がします。
提案のストーリーに落とすところは、提案が刺さらないを減らす。顧客に伝わるストーリーを組織で共有するで扱っています。
商談中はAIを使わず、準備と振り返りに使う
商談の場でAIを使うのは、避けたほうがいいのではないかと思います。
理由は2つあり、ひとつは相手との対話が途切れることです。
画面を見ている時間は、相手を見ていない時間になります。
もうひとつは、準備の薄さが見えてしまうことで、その場で調べる姿は、準備していないことの証拠になります。
使うのは前と後だけと決め、準備と振り返りに集中させます。
この線を配布物に明示しておくと、現場が迷いません。
もちろん、相手の了解を得て一緒に画面を見る場合は、対話の一部なので例外です。

崩れやすいパターンは5つあります。
ヒアリング項目を30個以上作ること、1回目で全項目を聞こうとすること、「困っていることはありますか」と聞くこと、準備に30分以上かけること、型を配って測らないことです。
どれも、15〜20項目に収め、1回目と2回目以降を分け、現状の具体を聞き、15分に収め、聞けている項目の割合を見れば防げます。
型を現場に定着させる支援
型を作っても、配るだけでは使われません。
営業は自分のやり方を持っているので、外から渡された型を採用する動機が薄いからです。
成績が出ている人には、変える理由もありません。
逆に、定着だけを進めても、型が実務に合っていなければ意味がありません。
推進担当が想像で作った型は、現場では使われないはずです。
必要なのは、現場のトップセールスから型を起こし、その人の名前で配り、使われているかを測って改善するという流れです。
私たちが提供しているデジタル系企業向けのAI導入支援では、こうした業務の型化から現場への定着までを一緒に進めています。
型は作ったが使われない、という状態で止まっている場合は、進め方の参考になるかもしれません。
聞ける情報の差は、シートと定着がそろって縮まる
営業成績の差は、話し方の巧拙より「聞けている情報」の差で、その差は準備の差です。
ヒアリングシートは5分類・15〜20項目に収め、1回目で聞く項目と2回目以降で聞く項目を分けておきます。
進め方は3つの段階で、トップセールス3人から型を起こし、準備の工程を作り、聞けている項目の割合を測って受注率と並べます。
使うのは準備と振り返りだけで、商談中はAIを使いません。
受注案件を時系列で聞き取ったチームほど、ヒアリングの型が現場に残っています。
参照した情報(2026年11月2日に確認)
すぐ使える業務アプリが300以上
開いてそのまま使えて、AIで自社用にも直せます。15の分野から、やりたい作業で探せます。業務アプリを見る
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
お知らせ・組織AI推進ナレッジ一覧










