
営業のAI活用を型にする。企業研究から商談振り返りまでの標準セット
2026/08/24
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
営業部門にAI活用を広げると、他の職種より個人差が大きく出ます。
うまく使っている人は訪問前の準備が30分から5分になり、提案書の作成も半分になっています。
一方で、同じチームにまったく使っていない人もいます。
原因は意欲の差ではなく、営業の業務が工程に分かれていて、どの工程で何を使うかが決まっていないからです。
今回は、営業のAI標準セットの作り方を整理していきます。
職種別に工程へAIを当てる全体像は職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころにまとめてあります。

営業のAI活用は個人差が出やすい
なぜ差が出るのでしょうか?
理由は3つあります。
まず、新規開拓中心の人と既存顧客の深耕が中心の人とでは業務の中身が違うので、汎用の活用事例が当てはまりません。
次に、営業のやり方は個人に委ねられている部分が大きく標準化されていないので、「こう使う」という型を渡す土台がありません。
もうひとつが、成果が数字で見えるので変えるリスクを取りにくく、今のやり方で数字が出ている人には変える動機がない点です。
本質になるのは裁量の大きさで、業務が標準化されていないところに道具だけ配っても使われません。
手順を言語化して型にする進め方は仕事の手順をAIに覚えさせる。社内の「型」を資産化する考え方で扱っています。
営業に限らず、同じチームで使う人と使わない人に分かれる原因は、生成AIの社内浸透が止まる原因で整理しています。
営業プロセスを5工程に分ける
型を作るには、まず業務を工程に分けます。
営業のプロセスは5つに分けられます。
「対象を選ぶ」工程は、どの企業にアプローチするかを決めるところです。
「事前に調べる」工程は、企業の状況・担当者・課題の仮説を押さえるところです。
「商談」の工程は、対話そのものなので人の仕事です。
「記録して振り返る」工程は、何が語られたか、次に何をするかを残すところです。
「提案を作る」工程は、提案書・見積・資料が該当します。
この5つのうち、AIが効くのは事前調査・記録と振り返り・提案作成で、対象選びは判断が入るので部分的、商談は人の仕事のままです。
また、事前調査が最も効果が大きいのに最も手を付けられていない工程で、準備に時間をかけられていない営業が多いからです。
効く3工程|事前調査・記録と振り返り・提案作成
この3つの工程を、それぞれ見ていきます。
何を、どう頼めばいいのでしょうか?

事前に調べる工程では、企業名を渡して事業内容・直近の発表・想定される課題・押さえるべき論点を出させます。
出させる項目を固定するのがコツで、毎回同じ4項目にすると比較でき、準備の質もそろいます。
あわせて「出典を添えてください」「分からない項目は分からないと書いてください」を入れておくと、不確かな情報を持って訪問する事態を防げます。
過去の提案を参照させる工程も足し、「同じ業界への過去の提案で使った切り口」を出させるとゼロから考える時間が消えます。
もちろん、過去の資料が参照できる状態に置かれていることが前提になります。
参照先の整え方はファイルサーバをAIの参照先にする。ドライブ整理はAI活用の前提工事にまとめてあります。
効果の目安は、30分の準備が5〜10分になることです。
ただ、準備をしていなかった訪問に準備が入るようになるほうが、実質的な効果だと思います。
記録して振り返る工程では、商談の録画または自分の口頭の記録を渡します。
相手が課題として語ったこと・こちらが約束したこと・次回までの宿題の3つを抽出させます。
あわせて「聞けていない情報」を挙げさせると、予算・決裁の経路・検討の時期・競合の状況といったところが返ってくるので、次回の準備に直結します。
効果の目安は記録の作成が10分から2分になることで、記録が残っていなかった商談に記録が残るようになります。
この工程は移動中に音声で回すのが最も現実的で、会社に戻ってから書く作業をなくせます。
音声を前提にした業務の組み方は入力が面倒で止まる人を減らす。音声入力を前提にした業務設計で扱っています。
提案を作る工程では、商談の記録と企業の情報を渡して提案の骨子を3案出させ、そこから選んで本文を書かせます。
構成を選ぶのは人の仕事で、ここを任せると提案の中身に自分の判断が入らず説明できなくなります。
素材を渡しておくことも欠かせず、実績の数字・事例・他社との違いがないとそのまま一般論の提案になってしまいます。
効果の目安は、提案書1本あたり2時間が1時間になるところです。
補足として、対象を選ぶ工程も部分的には効き、リストの企業について事業の規模・直近の動き・既存顧客との類似性といった優先度の判断材料を並べさせます。
判断のほうは人がやり、優先度そのものを決めさせると営業の勘が入らないので材料を揃えるところまでにしておきます。
なかでも効くのが既存顧客との類似性で、「受注できた顧客と似た特徴を持つ企業」という切り口はリストの優先度を変えます。
トップセールスの使い方を全員に配る
型を作るときの最も効率的な方法はこれだと思います。
うまく使っている人の依頼文をそのまま集めるやり方で、ゼロから設計するより速く実務にも合っています。
集め方は3人に30分ずつ聞くことで、「どの工程で何を使っているか」「使っている依頼文をそのまま見せてほしい」という聞き方になります。
そのうえで3人の共通点を取っていき、3人が同じ工程で同じような使い方をしていればそれが型になります。
もちろん、1人だけの使い方は、その人固有の可能性があります。
配るときはそのまま貼れる形にしておき、解説は不要で工程ごとに依頼文が並んだ1枚を作るだけで足ります。
効くのは「〇〇さんの使い方です」と名前を出すことで、成果を出している人の使い方だと分かると試す動機が生まれます。

導入初月にやることと、定着を測る指標
展開のほうも設計しておきます。
1か月で、何をどこまで進めればいいのでしょうか?
Week1は、3人にヒアリングして依頼文を集めます。
Week2は、工程ごとの依頼文を1枚にまとめ、5工程のうち効く3つ、事前調査・記録と振り返り・提案作成に絞ります。
Week3は、チーム会議で15分使って事前調査の工程を1回全員でやってみます。
次の訪問先の企業名を入れて、その場で試してもらいます。
「その場でやる」のが要点で、持ち帰りにすると試されません。
Week4は、記録と振り返りの工程を試し、直近の商談について記録を作ってみます。
1か月で事前調査と記録が回れば十分で、提案作成は個人差が大きいので次の月に回します。

定着を測る指標は、3つ見ておきます。
ひとつが事前の準備をした訪問の割合で、準備の記録が残っているかどうかで、ここが増えていれば事前調査の工程が定着しています。
次が商談の記録が残っている割合で、記録と振り返りの工程の定着を見ます。
最後が提案書の作成時間で、実測は難しいので担当に聞く形で足ります。
これらを受注率と並べて見て、準備をした訪問としていない訪問とで受注率に差があるかどうかで、ここに差が出れば型を広げる根拠になります。
準備をした訪問の割合が最も本質的な指標だと思っていて、AI活用の指標というより営業活動の質の指標であり経営にも説明しやすいからです。

つまずきやすいのは5つで、汎用の活用事例集を配ること、提案作成から始めること、構成を任せること、型をゼロから設計すること、持ち帰りで試してもらうことです。
どれも工程ごとに渡して事前調査から始め、構成は人が選び、うまく使っている人から集め、会議の場で15分使えば避けられます。

職種別の標準セットを全員に届ける仕組み
ここまで書いてきたとおり、型を作ること自体は難しくありません。
難しいのは、それが全員の手元にある状態を維持することです。
配布物として配ると半年後には誰の手元にあるか分からなくなり、依頼文を改善しても改善版のほうが届きません。
新しく配属された営業には、そもそも届いていないということも起きます。
さらに営業の中でも新規開拓と既存深耕で使うものが違い、役割に応じて必要なものが違うので全員に同じものを配ると自分に関係ない部分が混ざります。
必要なのは、職種と役割に応じていま使うべきものが提示される状態で、配布ではなく必要な人が必要なものにたどれる形です。
型を全員に届ける場として、当社の組織のAIポータル「AI Portalize」では、社内で作ったGemやCanvasアプリを登録すると全社に公開され、新しく配属された人もそこから探せます。
「型は作ったが行き渡らない」という状態で止まっている場合は、考え方の参考になるかもしれません。
標準セットは、更新と横展開があって初めて機能する
営業のAI活用に個人差が出るのは、業務が人によって違い標準化されておらず、変えるリスクを取りにくいからです。
標準化されていないところに道具を配っても使われません。
工程は、対象を選ぶ・事前に調べる・商談する・記録して振り返る・提案を作るの5つです。
AIが効くのは後ろの3つで、事前調査が最も効果が大きいのに最も手を付けられていない工程です。
事前調査は出させる項目を4つに固定して出典を求め、過去の提案を参照させます。
記録と振り返りでは商談の記録から3つを抽出して「聞けていない情報」を挙げさせ、提案作成では構成そのものを人が選びます。
型はゼロから設計せず、うまく使っている3人から依頼文を集めて共通点を取り、配るときは名前を出すのが効きます。
導入初月は3人にヒアリングして1枚にまとめ、会議の場で15分使って事前調査をその場でやり、記録と振り返りを試すという流れで、持ち帰りにすると試されません。
指標は事前の準備をした訪問の割合・記録が残っている割合・提案書の作成時間で、受注率と並べて見ます。
準備をした訪問の割合が最も本質的な指標です。
自チームでうまく使っている人を1人つかまえて、30分だけ聞いてみてください。
すぐ使える業務アプリが300以上
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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