組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

仕事の手順をAIに覚えさせる。社内の「型」を資産化する考え方

仕事の手順をAIに覚えさせる。社内の「型」を資産化する考え方

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

どの組織にも際立って成果を出している人がいますが、その人の業務手順はたいてい言語化されていません。
標準化しようという話が出ても、本人に聞くと「特別なことはしていない」で終わります。
手順を追ってみると、確認の順番も判断の基準も、押さえる情報の範囲もはっきり決まっています。
手順として存在しているのに、本人がそれを意識していないだけです。

この手順を取り出して、誰でも再現できる形にする。
「仕事の手順をAIに覚えさせる」とは、要するにそういう作業です。

今回はその進め方を整理していきます。
業務を工程に分けて並べるところは業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順にまとめてあります。

仕事の手順をAIに覚えさせる3つの作業。手順を文章にする言語化、AIが読める形に整える、使い回せる場所に置く。言語化が全体の8割の労力を占め、残り2つは方法さえ決まれば早く進む。言語化できていれば人間向けの手順書としても使える

「手順を覚えさせる」とは何をすることか

技術的な話に聞こえますが、中身は3つの作業に分けられます。
何をどこまでやれば終わりなのでしょうか?
まず全体像を見ておきます。

まず、手順を文章にします。
どういう順番で、何を確認し、何を基準に判断するかを書き出す作業です。

次に、AIが読める形に整えて、依頼文として、あるいは参照させる文書として渡せる形にします。
もうひとつが、使い回せる場所に置く作業で、一度書いた手順を誰でも呼び出せる状態にしておきます。
なかでも言語化が全体の8割の労力を占め、残り2つは方法さえ決まれば早く進みます。

つまり施策の本体は言語化のほうで、AIの機能そのものではありません。
そのうえ言語化さえできていれば、それ自体が人間向けの手順書としても使えます。
AIに渡せなくても損はしないというのが、この取り組みの良いところです。

フェーズ1|手順は本人に書かせず、1件の案件から掘る

いちばん難しいところから始めます。
ここでのやり方を間違えると、後の工程がすべて空振りします。

やってはいけないのが、本人にヒアリングして書かせることです。
「あなたの仕事の手順を書いてください」と依頼すると、たいてい抽象的な答えが返ってきます。
「顧客の状況をよく理解する」「相手の立場で考える」。
こうした記述は、手順とは呼べません。

効くのは1件の案件を追いかけるほうで、直近で完了した案件を1つ選んで時系列で聞いていきます。
誰に何を聞いたか、どの資料を見たか、どこで判断が変わったか、そのなかでも判断の分かれ目を深く掘ります。
「ここでこう決めたのは、何を見て決めたんですか」。
この問いのところに、手順の核心があります。

この聞き取りは1件あたり30〜60分で、3件やると共通する型が見えますが、1件だけではその案件固有の話と区別がつきません。

手順を取り出す進め方の図。やってはいけないのは、本人に手順を書いてもらうことと、1件だけで型を作ること。効くのは、直近で完了した案件を1つ選んで時系列で聞き、判断の分かれ目を深く掘り、3件やって共通する型を見ること

それでも出てこない場合は3つあります。
まず、「その都度違うので手順はない」と言われる場合です。
本当に手順がないこともありますが、多くは判断の分岐が多いという意味になります。
対処としては、分岐を書き出して「こういう場合はこうする」という形に落とし込みます。

次に、本人が説明できない場合です。
経験で判断していると、言葉になっていません。

対処は、AIに聞き取りをさせることです。
「いまの仕事の進め方を説明してください」とAIに向かって話してもらうと、人が聞くよりしつこく掘れます。

もうひとつが、時間を取れない場合で、これが最も多い理由です。
優秀な人ほど忙しいので、対処はやっているところを録画することです。
画面の操作と発話を記録して手順を書き出せば、本人の追加の負担は話しながら作業してもらう分だけで済みます。

聞き取りでも手順が出てこない3つの場合と対処を左右に並べた図。「その都度違うので手順はない」と言われたら分岐を書き出し、本人が説明できないならAIに聞き取りをさせ、時間を取れないならやっているところを録画する。時間を取れないのが最も多い理由

フェーズ2|書いた手順は5項目に整え、呼び出し方を決める

言語化ができたら、次は形式を整える番です。
ここで詰める項目と、呼び出す形を先に決めておきます。

書く項目は5つです。
何のための手順か、入力は何か、手順そのもの、判断の基準、そして出力の形です。
このなかで判断の基準が最も価値を持ち、手順だけなら誰でも書けますが判断の基準は経験がある人にしか書けません。

手順は3〜5工程に収めます。
10工程の手順は渡しても途中で崩れるので、長い業務は複数の手順に分けます。

手順を整えるときに書く5項目。何のための手順か、入力は何か、手順そのもの、判断の基準、出力の形。判断の基準が最も価値を持ち、経験がある人にしか書けない。手順は3〜5工程に収め、長い業務は複数の手順に分ける

整えた手順をどう呼び出すのでしょうか?
3つの形から選びます。

まず、依頼文として保存する形です。
最も簡単で、AIボットとして固定しておけば、使う側は入力を渡すだけで済みます。

次に、参照文書として渡す形です。
手順書を資料として参照させて、「この手順に従って進めてください」と依頼します。
手順が長い場合や、複数の手順を切り替えて使う場合に向きます。

もうひとつが、手順の集合として置く形です。
業務ごとの手順をまとめて置き、AIが状況に応じて該当分を参照します。
組織の型を資産として持つならこの形になりますが、最初からここを目指す必要はありません。
どの手段に寄せるかの判断軸はNotebookLM・Gem・Canvasの使い分け。目的別の判断基準で扱っています。

順序は依頼文として保存する形から始め、数が増えてきたら参照文書に移すのが現実的です。
手段の選択より、言語化された手順が何本あるかのほうが重要です。

整えた手順を呼び出す3つの形。最も簡単な、依頼文として保存してAIボットとして固定する形から始め、数が増えたら手順書を参照させる形に移し、最終的に業務ごとの手順をまとめて置く形がある。手段の選択より、言語化された手順が何本あるかのほうが重要

フェーズ3|全社で使い回すには、更新の担当まで決める

手順が数本たまったら共有する段階に入りますが、誰が更新するかまで決めて初めて仕組みとして回ります。
まずカタログに載せて、何の業務の手順か、誰が書いたか、いつ更新されたかを並べておきます。
置き場所と更新の設計は社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方にまとめてあります。

次に更新オーナーを決めます。
業務のやり方が変われば手順も直す必要があるので、元の担当者が持つのが基本で、異動する場合は引き継ぎ先を先に決めておきます。

更新の担当が決まらないまま古い手順が残ることは、社内のAIツールが共有されない原因の1つとしても挙げています。

手順に沿わなかった場合の扱いも決めておきます。
手順は強制ではなく、現場が「この案件は当てはまらない」と判断することもあります。
ここを守らせる方向にすると手順そのものが敬遠されるので、「迷ったら参照するもの」という位置づけにしておきます。

そのうえで、手順が使われているかを見ます。
四半期に一度、参照された回数を眺めるだけでも判断はできます。
使われていない手順は業務の実態と合っていない可能性が高いので、書いた人に確認して直すか外すかを決めます。

副次効果として、新任者の立ち上がりが速くなる

ここまでは狙って作る効果でしたが、想定していなかった副産物も3つ出てきます。
どれも、AI活用そのものの成果とは別の顔をしています。

まず、新任者の立ち上がりが速くなります。
判断の基準が書かれた手順があると、経験のない人でも最初の数件を回せるようになります。

次に、属人化のリスクが下がります。
成果を出している人が抜けたときの影響が小さくなり、完全に代替できなくても手順が残っていれば再現の出発点があります。

もうひとつが、外部に発注するときの要件を書けるようになることです。
手順が言語化されていると、外に出す部分の指示が具体的になります。

なかでも新任者の立ち上がりは、経営にいちばん説明しやすい効果です。
AI活用の成果としてではなく、教育と引き継ぎの改善として報告できます。

手順を言語化したことで出てくる3つの副産物。新任者の立ち上がりが速くなることが経営にいちばん説明しやすく、ほかに、属人化のリスクが下がることと、外部に発注するときの要件を書けるようになることがある

よくある失敗の型も挙げておきます。
本人に「手順を書いて」と依頼すること、1件だけで型を作ること、判断の基準を書かないこと、手順を10工程にすること、手順を守らせようとすることです。
どれも、1件を3件ぶん追いかけて基準を書き、3〜5工程に収めて「迷ったら参照するもの」に位置づければ防げます。

業務分解は、社内だけで進めると言葉が省かれる

ここまで書いてきたとおり、この取り組みの本体は言語化です。
ただ、言語化は社内だけだと進みにくいという性質があります。

なぜ進みにくいのでしょうか?
理由は2つあります。
ひとつは、同じ社内の人が聞き取ると「言わなくても分かること」が省かれてしまうからです。
前提の共有があるほど、暗黙のまま残る部分が増えます。

もうひとつは、聞き取る側にも時間の制約があるからです。
推進担当が忙しい月に、優秀な人の時間を60分×3件もらう調整は簡単ではありません。
優先順位が下がり、そのまま止まるというのが最も多い結末です。

私たちが提供しているデジタル系企業向けのAI導入支援では、業務の分解と手順の言語化から入って、AIに渡せる形にするところまで一緒に進めています。
属人化を解きたいが手が付かない、という状態なら、進め方の参考になるかもしれません。

言語化さえ終われば、残りは形式の作業でしかない

「仕事の手順をAIに覚えさせる」の中身は、言語化・AIに渡せる形に整える・使い回せる場所に置く、の3つです。
労力の8割は言語化なので、施策の本体はそこにあります。
言語化は本人に書かせるのではなく、1件を時系列で追いかけて判断の分かれ目を掘り、3件やると型が見えてきます。
出てこない場合は分岐を書き出す・AIに聞き取りをさせる・作業を録画する、のいずれかで進めます。

整える形は目的・入力・手順・判断の基準・出力の5項目で、手順は3〜5工程に収め、価値があるのは判断の基準のほうです。
手順は強制せず、「迷ったら参照するもの」に位置づけます。
副産物としては、新任者の立ち上がりが速くなることが、最も報告しやすい効果になります。

自部門で成果を出している人の直近の案件は、時系列で聞くとどこが違って見えるでしょうか。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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