組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方

社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

「規程はドライブのどこかにあるはずなのに、結局いつも総務の人に聞いている」。
社内ナレッジをAIで活用したいという相談は、たいていこうした場面から始まります。

社内ナレッジにAIを使うやり方は、大きく3つに分かれます。
ナレッジ管理ツールを入れるか、RAGと呼ばれる仕組みを作るか、Gemini Notebook(旧NotebookLM)のような手持ちのAIで作るかです。
ただ、どれを選んでも、入れる資料と更新する人と置き場所が決まっていないと、同じところで止まります。

この記事では、3つのやり方の違いと公開されている事例、選び方の観点を見ていきます。
後半は、入れてよい文書の区分と、部門で試してから全社に広げる進め方を扱います。

社内ナレッジをAIで活用するやり方が、ナレッジ管理ツールを入れる、RAGの仕組みを作る、Gemini Notebookのような手持ちのAIで作るの3つに分かれることを示した図。どれを選んでも、入れる資料、更新する人、作ったAIの置き場所が決まっていないと、同じところで止まる

AI推進の全体の順番から見たい場合は、AI推進の進め方。組織にAIを定着させる10の段階と着手順が入口になります。

社内ナレッジをAIで活用すると、資料を探す代わりに質問すれば答えが返ってきます

最初に、「社内ナレッジをAIで活用する」が何を指すのかと、似た言葉との違いを押さえておきます。

社内ナレッジは、規程やマニュアル、過去の提案書、議事録のように、社内にたまっている知識のことです。
これまでは、フォルダをたどるか、社内Wikiで検索するか、詳しい人に聞いて引き出してきました。
AIを使うと、「出張の日当はいくらですか?」と聞くだけで、資料の該当箇所をもとにした答えが返ってきます。

ナレッジベースは、知識をためて探せるようにした置き場そのものを指します。
RAGは、質問に合う箇所を資料から探し、その箇所をもとにAIが答えを作る仕組みの名前です。
一言でいうと、ナレッジベースの資料をAIに引かせている状態が、社内ナレッジのAI活用です。

組織にとってのメリットは、主に次の4つです。

  • 「どこにあったっけ」と資料を探す時間が減る

  • 総務や情シスのように、同じ質問に答え続けていた人の手が空く

  • 詳しい人しか知らなかった手順も、資料にしておけば誰でも引ける

  • 新しく入った人が、人に聞く前に自分で調べられる

もちろん、AIが答えられるのは、入れた資料に書いてあることだけです。
資料が古ければ古い答えを返し、資料に無いことをもっともらしく補うこともあります。
この記事で、ツールの比べ方より資料と運用の話に字数を使っているのはそのためです。

社内ナレッジの引き出し方を、これまでとAIを使った場合で左右に並べた図。これまではフォルダをたどる、社内Wikiで検索する、詳しい人に聞くという方法だった。AIを使うと、「出張の日当はいくらですか?」と聞くだけで、資料の該当箇所をもとにした答えが返る。ただし答えられるのは入れた資料に書いてあることだけで、資料が古ければ古い答えを返し、資料に無いことを補うこともある

やり方は、ツールを入れる・仕組みを作る・手持ちのAIで作るの3つに分かれます

社内ナレッジをAIで引き出すやり方は、何を使うかで3つに分けられます。
先に表で並べてから、それぞれの中身を見ていきます。

やり方

すること

向いている組織

ナレッジ管理ツールを入れる

AI機能の付いたナレッジ管理やAI検索の製品を契約し、資料を移すかつなぐ

社内Wikiや問い合わせ窓口を1か所にまとめ直したい

RAGの仕組みを作る

開発会社などが、取り込み・検索・回答の画面・権限を自社用に組む

回答の正確さや社内システムとの連携に強い要件がある

手持ちのAIで作る

Gemini Notebook・Gem・ChatGPT・Copilot など契約中のAIに資料を渡す

部門ごとに小さく始めたい

ナレッジ管理ツールは、資料の置き場所ごと新しくしたいときに向いています。
Wikiと検索とAIの回答が1つの製品にまとまるので、使う人の入口は分かりやすくなります。
その代わり、資料を移すかつなぐ作業が要り、全社で使えば人数分の利用料もかかります。

RAGの仕組みを作るやり方は、質問に合う箇所を社内の資料から探してから答える仕組みを、自社用に組むものです。
資料を細かく分けて検索できる形にしておき、質問が来たら近い箇所を取り出して、その箇所だけをもとに答えさせます。
答えと一緒にどの資料のどこを使ったかを出せ、見せる範囲や画面も自社の都合で決められます。

一方で、作るにも直すにも開発の手が要り、検索の精度を上げる作業は作ったあとも続きます。
社内文書をAIで検索する仕組みの中身と、作らずに始めるやり方は、別の記事で詳しく扱います。

手持ちのAIで作るやり方は、すでに契約しているAIに資料を渡して答えさせるものです。
新しいツールを入れずに始められ、部門の人が自分で作って直せる点が、ほかの2つと違います。

Google Workspace の会社なら、Gemini Notebook がいちばん始めやすいと思います。
2026年10月時点のGoogleのヘルプでは、Business Starter・Standard・Plus や Enterprise のエディションでコアサービスとして提供されています。
規程やマニュアルを入れると、その資料をもとに答え、どこを使ったかも示します。
仕事用のアカウントでは、フィードバックを送らない限り、資料やチャットはモデルの学習に使われないとされています。

また、同じ Gemini の Gem も使えますが、こちらはスキルへの移行が決まっています。
2026年10月時点のGoogleのヘルプでは、Workspace の Business・Enterprise では2027年3月に Gem の提供が終わる予定です。

ChatGPT では、OpenAIが2025年10月23日に「社内ナレッジ」の機能を発表しました。
Slack・SharePoint・Googleドライブなどにつないで横断して答え、回答には引用元が付きます。
2026年10月時点のヘルプでは、使えるのは Business・Enterprise・Edu で、本人がもともと見られる情報にしか届きません。

Microsoft 365 の会社では、Microsoft 365 Copilot が候補になります。
2026年10月時点の Microsoft の説明では、アドオンのライセンスがあれば、メールやファイルなど組織のデータを Microsoft Graph 経由で自動で答えに使います。
ライセンスの無い Copilot Chat は主にWebの情報で答え、社内の資料はアップロードなどで渡す必要があります。

手持ちのAIで社内ナレッジを使うときの候補を、契約しているサービスで分けた図。Google Workspaceの会社ならGemini Notebookで、規程やマニュアルを入れるとどこを使ったかも示して答える。ChatGPTのBusiness・Enterprise・Eduなら社内ナレッジの機能で、Slack・SharePoint・Googleドライブなどにつなぎ、本人が見られる情報だけで答える。Microsoft 365ならMicrosoft 365 Copilotで、アドオンのライセンスがあれば組織のデータを自動で答えに使う。GemはWorkspaceのBusiness・Enterpriseで2027年3月に提供が終わる予定

公開されている事例では、3つのやり方がそれぞれ使われています

やり方の違いは、各社が公開している発表や事例で見ると分かりやすくなります。

ツールを入れた例では、丹青社が2023年7月27日に、アサヒビールのR&D部門で社内情報の検索システムの試験運用が始まったと発表しています。
ナレッジマネジメントツール「saguroot」に Azure OpenAI Service を組み合わせ、検索結果に約100字の要約を出す仕組みです(丹青社の発表)。

仕組みを作った例では、パナソニック コネクトが2023年6月28日に、社内AI「ConnectAI」を自社の公式情報にも答える形に広げると発表しました。
公式サイトの約3,700ページなどを対象に試し、回答の引用元を出して真偽を確かめられるようにする、としています(パナソニック コネクトの発表)。

手持ちのAIの例は、Google の公式ブログにあります。
ワークマンでは、倉庫部門が業務マニュアルをNotebookLM(今の Gemini Notebook)に入れ、新人やパートのスタッフが疑問を自分で解決できる環境を作っていると紹介されています(Google Cloud 公式ブログ、2025年4月23日)。
船井総研グループは、社内のスクリプトやリリース情報をNotebookLMに集め、「誰でもすぐアクセス可能なナレッジベース」にしました。
書式がばらばらで精度が出なかったので、Gemini で読みやすい形に整えてから入れ、安定して動くようになったそうです(Google Workspace 公式ブログ、2025年8月20日)。

つまり、ここで挙げた例は、どれも全社の全資料から始めたものではありません。
R&D部門、公開している情報、倉庫部門のマニュアル、特定の業務の情報のように、範囲を絞ったところから始めています。

社内ナレッジにAIを使った公開事例を、やり方と始めた範囲で並べた図。アサヒビールのR&D部門はナレッジマネジメントツールにAzure OpenAI Serviceを組み合わせた検索を試験運用した(丹青社の発表)。パナソニック コネクトは社内AIを公式サイトの約3,700ページなど自社の公式情報に答える形に広げた。ワークマンは倉庫部門の業務マニュアルを、船井総研グループは社内のスクリプトやリリース情報をGemini Notebook(当時はNotebookLM)に入れた。どの例も全社の全資料からではなく、範囲を絞って始めている

どれを選ぶかは、資料の置き場所と権限を先に確かめると絞れます

どのやり方が合うかは、製品の比較より先に、自社の資料と体制を見ると絞れます。
確かめる観点を、表にしておきます。

観点

確かめること

判断の目安

資料の置き場所

規程やマニュアルがドライブ・SharePoint・ファイルサーバ・紙のどこにあるか

ドライブなら Gemini Notebook、SharePoint なら Copilot が近い

出典

答えと一緒に、資料のどこを使ったかが出るか

規程や手続きの質問なら、出典が出るものにする

権限

質問した人が見てよい資料だけで答えるか

人事や経営の資料が混ざるなら、権限を引き継ぐ仕組みか、相手ごとに分けて作る

料金

1人あたりの利用料か、作る費用と保守の費用か

手持ちのAIは今の契約に含まれていれば追加の費用なしで始められる

直す人

資料の差し替えを部門の人ができるか

資料がよく変わる業務なら、部門で直せるやり方にする

迷ったら、手持ちのAIで1部門分を作って試すのが早いと思います。
試すと、資料の置き場所や権限のどこで困るかが具体的に見えてきます。

手持ちのAIで足りなくなったら、ツールか作るやり方に移ります。
例えば Gemini Notebook の1冊に入れられるソースは、2026年10月時点のヘルプで標準50件までです。
「全社の資料を1か所から引きたい」「社内システムのデータも使いたい」となったら、移る時期です。

入れてよい文書は、3つの区分と更新日で先に分けておきます

社内ナレッジをAIに入れようとすると、必ず「この資料は入れていいのか」と聞かれます。
ここで止まらないように、区分と、入れる前に見る点を先に決めておきます。

  • そのまま入れてよいもの:社内向けの規程や手順書、すでに公開している資料

  • 加工すれば入れてよいもの:顧客名や取引条件、個人名を含む資料(名前を伏せる、該当箇所を抜く)

  • 加工しても入れないもの:認証情報、マイナンバーなどの特定個人情報、他社から秘密保持契約のもとで預かったデータ

とくに気をつけたいのは、他社から預かっているデータです。
受託や制作の仕事が多い組織では、社内文書の中に顧客の情報が混ざっています。
資料を選ぶ段階で混入を確かめる工程を挟み、迷ったときの相談先も決めておきます。

区分の次は、資料が更新されているかを見ます。
3年前から直していない規程を入れると、AIはその内容を今のルールとして答えてしまいます。
重要度より「最近更新されているか」で選ぶほうが、役に立つ答えが返ってきます。

社内ナレッジとしてAIに入れてよい文書を3つの区分に分けた図。加工しても入れないものは、認証情報、マイナンバーなどの特定個人情報、他社から秘密保持契約のもとで預かったデータで、とくに預かったデータに気をつける。加工すれば入れてよいものは、顧客名や取引条件、個人名を含む資料で、名前を伏せるか該当箇所を抜く。そのまま入れてよいものは、社内向けの規程や手順書、すでに公開している資料。区分の次は、最近更新されているかで選ぶ

入れる前には、次の点も確かめておきます。

  • スキャンした画像のPDFは文字の情報を持たないので、AIからは白紙に見える

  • Gemini Notebook では、ドライブから入れた資料は数分ごとに同期されるが、パソコンからアップロードした資料はコピーなので、元を直したら入れ直す(2026年10月時点のヘルプ)

  • 共有した相手は中の資料も読めるので、見せたくない資料は入れない

また、答えは出典を開いて原本で確かめる、という使い方も最初に決めておきます。
資料に無い質問には「資料には書かれていません」と返すよう指示しておくと、補いすぎも減らせます。

進め方は、1つの業務で試してから、全社で探せる場所に置くまでが一続きです

ここからは、実際に始めるときの順番です。
一度に全社の仕組みを作ろうとすると設計だけで時間が過ぎるので、1つの業務から広げます。

1. 課題を決める:経費精算や入社の手続きなど、同じ質問が何度も来ている業務を1つ選ぶ
2. 資料を選ぶ:その業務の資料を、3区分と更新日で絞る
3. 小さく試す:1部門で作り、実際に来た質問をそのまま聞いて、答えと出典を確かめる
4. 直す:答えられなかった質問を記録し、資料を足すか書き直す
5. 全社に広げる:作ったAIを全社で探せる場所に置き、使われ方を見る

では、最初の1つは誰が作るのでしょうか?
現場は忙しいので、推進担当が作って「これ、使ってみてください」と渡すほうが進みやすいと思います。
動いているものを渡されたほうが、部署の人も直す側に回りやすくなります。

そこから先は、部門ごとに作り手を1人決めます。
全員が作れる必要はなく、1人いれば、その人が周りの要望を聞いて資料を足していきます。
作る手順はGemini Notebook(旧NotebookLM)で社内チャットボットを作る方法。規程に答えるまで、答えられなかった質問から育てる運用は社内FAQをAIで作る方法。登録型とRAG型の違いと、質問の記録で育てる運用にあります。

資料の更新を誰が持つかも、このときに決めます。
「経費精算の運用ルール」は経理の誰か、というように、文書ではなく業務に担当を置くと自然に決まります。
問い合わせが来たら答えると同時に資料も直す運用にしておくと、古い答えが残りにくくなります(古い情報で答えるAIを作らない。社内ナレッジの更新体制のつくり方)。

全社に広げる段階では、置き場所が問われます。
決めておかないと、作ったAIは本人のブックマークにだけ残り、ほかの部署は「そんなものがあったのか」と知らないままです。
名前、何に答えるか、作った人を並べた一覧を、誰でも見られる場所に置きます。

一覧ができたら、どれが使われているかも見ます。
Gemini Notebook には、過去7日間のユーザー数と質問の数を見るアナリティクスがあります(自分以外の4人以上と共有していることなどが条件)。
使われていないものは、作った人と理由を話してから片づけます。
組織で広げる進め方は、Gemini Notebook(旧NotebookLM)の社内活用。部門の一次対応から全社に広げる進め方で詳しく見ています。

部署の外で知られない、答えが古くなるといった止まり方は、作った社内AIが使われない原因として5つに分けています。

社内ナレッジのAIを1つの業務から全社に広げるときに決めておくことを並べた図。最初の1つは推進担当が作って渡す。そこから先は部門ごとに作り手を1人決め、周りの要望を聞いて資料を足してもらう。資料の更新は文書ではなく業務に担当を置き、問い合わせに答えると同時に資料も直す。名前・何に答えるか・作った人を並べた一覧を誰でも見られる場所に置き、使われていないものは作った人と理由を話してから片づける

社内ナレッジとAIについて、よく聞かれる質問に答えます

最後に、社内ナレッジにAIを使うときによく出る質問に、短く答えておきます。

「無料で始められますか?」
Google Workspace の多くのエディションでは、Gemini Notebook がコアサービスに含まれているので、今の契約の範囲で始められます。
ただし、会社の資料は個人のアカウントではなく、会社が管理するアカウントで扱います。

「ChatGPTに社内の資料を貼れば足りますか?」
毎回貼るやり方は、資料が増えたときや、ほかの人と同じ答えを使いたいときに続きません。
続けて使うなら、法人プランの社内ナレッジ機能か、Gemini Notebook のように資料を置いておけるものを使います。

「ナレッジの共有が定着しないのはなぜですか?」
「見つからない」「資料が古い」「使われているか分からない」が重なっていることが多いです。
AIを入れても、置き場所と更新の担当が決まっていなければ、同じ理由で使われなくなります。

「AIの答えはどこまで信用できますか?」
資料が正しければ答えも資料に沿いやすいですが、読み違えや補いすぎは起こります。
規程や手続きに関わる答えは、出典を開いて原本で確かめてから使います。

作ったAIが全社で探せて、使われ方まで見える状態にしておきます

部門ごとの Gemini Notebook や Gem が10、20と増えると、一覧の手入れや利用状況の書き写しは続きにくくなります。
私たちの組織のAIポータル「AI Portalize」では、Gemini Notebook や Gem をAIツールとして登録すると、名前・説明・タグで全社から探せて、ツールごとに使われた回数と使っている人が見えます。
資料を読んで答えるのは Gemini Notebook や Gem の側で、AI Portalize はそれを全社に届けて、使われ方を見える形にする役目です。

最初の1つは、問い合わせの多い業務の資料だけで作れます

社内ナレッジをAIで活用するやり方は3つあり、資料の置き場所と権限を見れば絞れます。
どれを選んでも、資料の区分と更新の担当、作ったAIの置き場所を決めるところは変わりません。

まずは、同じ質問がいちばん多く来ている業務を1つ選び、その資料だけで試してみてください。
答えられなかった質問を書き留めておけば、次に足す資料が分かります。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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