
業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順
2026/08/05
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
「AI化できる業務が見つからない」という声を、推進担当の方からよく聞きます。
ツールは配ったし研修もやった、それでも現場から手が挙がらない。
仕方なく推進担当が自分でネタを探し始めて、そこで止まっているケースです。
これは業務が存在しないのではなく、探し方のほうの問題です。
個人に「何かAI化できることある?」と聞いても、まず出てきません。
理由は後述しますが、聞き方を変えるだけで候補は大量に出てきます。
この記事では、業務のAI化の進め方を、棚卸しから実装までの5ステップで整理していきます。
シリーズの段階3にあたる回です。

全体の順番を先に見たい場合は、AI推進の進め方。組織にAIを定着させる10の段階と着手順から読んでいただくとつながりが見えます。
なぜ個人に聞くと出てこないのか
出てこないのには理由があります。
3つに分けて見ていきます。
まず、自分の業務を工程に分解して見たことがないからです。
人は自分の仕事を「請求書処理」といった塊で認識しているので、塊のままだと「これはAIには無理」で終わります。
「メールから添付を取り出す→内容を転記する→金額を照合する→承認に回す」と分解すれば、AIに任せられる工程が見えてきます。
次が、AIで何ができるかを知らないからです。
できることの範囲を知らない状態で「何ができそうか」を考えるのは、かなり難易度の高い依頼です。
職種ごとにどの工程へAIを当てるかは職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころにまとめてあるので、聞く前にこれを見せてしまうほうが早いです。
もうひとつが、言うと自分の仕事が増えると思われているからです。
ここは組織の空気の問題です。
「効率化した時間を何に使うか」を先に示しておかないと、正直な棚卸しは出てきません。
つまり必要なのは、分解した状態で、具体例を見せながら、時間の使い道を示して聞くやり方になります。
候補が決まらないときの原因と対策は、AI化する業務が決まらない原因と、洗い出しから選び方までの手順にまとめています。

ステップ1|工程に分解すると、候補が出てくる
最初にやるのは、業務を工程に分解して一覧にするところです。
シートに並べる項目は4つで足ります。
業務名/工程/頻度/1回あたりの所要時間で、ここに「AI化の見込み」を後から足します。
頻度×所要時間で月間の投下時間が出るので、これがそのまま優先順位の材料になります。
集め方のコツは、部門の定例に30分の枠をもらってその場で書いてもらうことです。
宿題にすると、まず返ってきません。
あわせて、推進担当が「うちの部門ではこう分解しました」という記入済みの例を1つ持ち込みます。
ゼロから書かせないかどうかが、回収率を左右します。
この段階で網羅を目指す必要はなく、主要部門の主要業務が並べば十分です。
ステップ2|フロー図は書けなくても、録画なら残せる
棚卸しで候補が出たら、着手する業務のフローを可視化します。
ただ、多くの組織がここで止まります。
フロー図を書ける人が、社内にほとんどいないからです。
現実的な解き方は、その業務をやっている人にPC画面を録画してもらうやり方です。
5分の録画をAIに渡すだけで操作手順の文書とフロー図の下書きが起こせるので、書ける人を社内で探すより、録画を依頼するほうがはるかに早く進みます。

可視化して初めて分かることが2つあります。
工程の数が想像より多いことと、同じ作業を別の部署も別のやり方でやっていることです。
後者が見つかると、AI化より先に標準化するべきだと判断できるので、これは大きな収穫になります。
ステップ3|着手するのはインパクト大・難易度低だけ
候補が並んだら、2つの軸で4象限に置いていきます。
ここで着手先を1つに決めます。
インパクト=月間投下時間×関わる人数。
難易度=扱う情報の機密性・判断の複雑さ・関係部署の数。
着手すべきは「インパクト大・難易度低」の象限です。
ここが最優先で、しかも成功事例として社内に見せやすくなります。
「インパクト大・難易度高」は、最初に手を出すと失敗して全体が止まるので後回しにします。
「インパクト小・難易度低」は、現場が自分で作る練習台として渡すのがよいと思います。
着手は3件以内に絞ります。
5件を並行させると、たいてい全部が中途半端に終わります。

ステップ4|1つの工程だけ作って、2週間で渡す
「何で作るか」の判断基準と費用設計は、AIによる業務自動化の全体像。手段の選び方とコスト設計で個別に書いています。
ここでは、作る大きさの話をします。
優先順位が決まったら、1つの業務の、1つの工程だけをAI化して実際に動かしてみます。
ここでの失敗はほぼ決まっていて、業務全体を一度に自動化しようとするパターンです。
工程が10ある業務を丸ごと自動化する仕組みは作るのに時間がかかりますし、途中で1つ仕様が変わると全部が止まります。
最小単位で作れば、2週間以内に現場へ渡せます。
現場が使い始めると、こちらが想定していなかった要望が出てきます。
この要望が次に作るものを決めてくれるので、先に全部設計するより結果的に速いというのが実感です。
完璧な仕様を待たないのも重要です。
暫定運用を許すために、範囲・期限・撤退基準の3つを先に決めておくと、稟議のほうも軽くなります。
ステップ5|使われたら広げる、使われなければ捨てる
作ったものを2週間から1か月ほど動かして、使われているかどうかを見ます。
この判断を軽くしておくのがこの段階の肝です。
使われていれば、隣の工程に広げるか、別の部署に横展開します。
横展開のときは、処理の構造を抜き出してデータを入れ替える形にしておくと、業務が違っても同じ仕組みが使えます。
使われていなければ、捨てます。
ここがいちばん難しく、作った労力が惜しくて残しがちなのですが、使われないものが並んでいると全体の信頼が落ちます。
捨てる判断を軽くするために、最初から最小単位で作っておきます。

失敗するのは、全部やる・大きく作る・棚卸しを飛ばす
進め方の失敗にも、はっきりした傾向があります。
多いものを3つ挙げます。
まず、全部やろうとするパターンです。
棚卸しで100件出てきたので全部に手を付けてしまい、結果としてどれも終わりません。
次が、大きく作るパターンです。
業務全体を一気に自動化しようとして、作るのに3か月かかり、完成する前に仕様のほうが変わります。
もうひとつが、棚卸しを飛ばすパターンです。
自動化ツールのほうが面白いので先に手を出してしまい、作ったものが誰の業務も楽にしていない結果になります。

棚卸しシートは4列でいい
シートの設計を凝ると、記入する側の負担が増えて回収できなくなります。
実際の形を見ておきます。
業務名 | 工程 | 頻度 | 1回の所要時間 |
|---|---|---|---|
請求書処理 | メールから添付を取り出す | 月80件 | 2分 |
請求書処理 | 内容を台帳に転記する | 月80件 | 5分 |
請求書処理 | 金額を発注データと照合する | 月80件 | 4分 |
請求書処理 | 承認に回す | 月80件 | 1分 |
この例だと月間で約16時間になります。
ここまで分解して初めて「転記と照合はAIに寄せられる」という判断ができます。
塊のまま「請求書処理」と1行で書かれていたら、この判断はできません。
同じ業務名で複数行になるのが、正しい状態です。
1業務1行で埋まっているシートが返ってきたら、分解の説明が足りていないサインだと考えて、記入例を見せて書き直してもらいます。
「AI化の見込み」の列は、現場には書かせないほうがよいと思います。
できるかどうかの判断は推進側の仕事です。
現場には事実(工程・頻度・時間)だけを書いてもらいます。
ここを混ぜると、「無理そうだから書かない」が起きます。
AI化しないと決めるのも、棚卸しの成果
可視化していると、AI化に進むべきでない業務も見つかります。
判断の目印を3つ挙げます。
まず、同じ業務を部署ごとに違うやり方でやっている場合です。
この状態でAI化すると、やり方の数だけ仕組みを作ることになるので、先に統一したほうが結果的に安く済みます。
毎回同じ前提を書かせずに済ませる工夫は毎回同じ前提を書かせない。組織の共通前提をデフォルト化するで扱っています。
次が、例外処理が全体の3割を超えている場合です。
例外が多い業務はAIに任せても人の確認が毎回入るので効果が出ません。
まず例外のルールを言語化して減らすほうが先になります。
もうひとつが、担当者しか手順を説明できない場合です。
手順が言語化されていない業務は、AIに渡す指示そのものが作れません。
可視化の成果物である手順書を作るところまでが、この業務のゴールになります。

つまり可視化の結論が「AI化しない」でも、それは失敗ではありません。
標準化すべき業務が特定できたなら、その回の棚卸しは成功しています。
正直に書いてもらえるかは、時間の使い道を先に示せるか
棚卸しの精度は、現場が正直に書いてくれるかどうかで決まります。
書いてもらうための前提を整理します。
正直に書いてもらえない理由は、たいてい効率化した先に何があるか分からないところにあります。
そこで依頼するときに、先に3つを伝えておきます。
削減した時間を何に使ってほしいか(新しい業務か、質を上げる方向か)、人を減らす目的ではないこと、書いた業務が必ずAI化されるわけではないこと。
過剰な期待も混乱を生むので、最後の1つも外せません。
もう1つ効くのが、推進担当が自分の業務を先に棚卸しして公開するやり方です。
自分の仕事を分解して「ここは任せられそう」と晒している人が言えば、それは通ります。
順番を逆にすると、たいてい形式的なシートが返ってきます。
90日で1件、現場で使われていれば上出来
目安としては、最初の90日をこの配分で進めるのをおすすめしています。
Week 1-2:棚卸しシートの設計と、記入済みサンプルの作成。
Week 3-6:部門ごとの棚卸しと、着手候補のフロー可視化。
Week 7-8:インパクト評価と着手3件の決定。
Week 9-12:1件目を最小単位で実装して現場に渡し、使われるかを見る。
90日で「1件が現場で使われている」状態になれば上出来です。
ここまで来ると社内の見方が変わって、次からは現場のほうから候補が出てくるようになります。

候補が過小に出るのは、粒度と思い込みのせい
棚卸しは自社だけでも進められますが、詰まりやすいところが2つあります。
分解の粒度と、「これはAIには無理」という思い込みです。
どちらも社内だけで見ていると気づきにくく、結果として候補が過小に出てきます。
私たちが提供しているAI導入支援では、業務の棚卸しとAI化の種の発掘から入り、業務分解・ワークフローの実装まで一緒に手を動かしています。
候補が出てこない状態で止まっている場合は、進め方の参考になるかもしれません。
探すのではなく、分解して並べる
業務のAI化は、対象を「探す」のではなく、分解して並べるところから始まります。
工程に分けて頻度と所要時間を書き、インパクトと難易度で優先順位をつけて、着手は3件以内に絞ります。
実装は最小単位で、2週間で現場に渡します。
使われたら広げて、使われなければ捨てます。
この回し方を1周させると、次からは現場が自分で候補を出してくるようになります。
まずは1件、現場で実際に使われ続ける状態をつくることを、当面の目標にしてください。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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