組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

毎回同じ前提を書かせない。組織の共通前提をデフォルト化する

毎回同じ前提を書かせない。組織の共通前提をデフォルト化する

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

「結局、みんな同じ前提を毎回書いている」。
社内でAIの利用が広がった組織に、共通してよく見る状態です。

例えば「当社は中小企業向けにAI活用の支援をしている会社です。読み手は経営者層です。敬語で、専門用語は避けて、断定は控えめに」。
Geminiのカスタム指示に一度置いておけば済むこの説明を、200人が毎回手で打っています。
書き忘れた人の成果物だけトーンが違うという、個人の記憶に頼った運用ができあがります。

ここでは、この共通前提をデフォルト化するやり方を整理します。
情報の置き場所をどう分けるかはAIは前の会話を覚えているのか。情報の置き場所を決める3分類にまとめてあります。

共通前提の持ち方。全社共通のデフォルトは事業・顧客・トンマナ・禁止事項の4つで15行以内、部門別の前提は営業・マーケティング・人事・経理ごとに別のテンプレとして、部門の人が書いて10行以内で配る図

毎回同じ前提を書く運用で、時間より重い代償が積み上がる

この運用で失っているのは、時間だけでしょうか?
品質とトーンのほうが、後になって効いてきます。
時間は、1回あたり1分だとしても200人が1日3回書けば、月に数十時間になります。
品質のばらつきは、書く内容が人によって違うので成果物のトーンが揃わず、書き忘れた分だけ明らかに違うものが出てくる形で表れます。

前提の陳腐化も見逃せません。
各自が頭の中に持っている前提は更新されないので、サービス名が変わっても古い名前のまま説明され続けます。

実害として大きいのは、品質のばらつきと前提の陳腐化のほうです。
時間の損失は分かりやすい一方で、後から効いてくるのはこの2つだからです。

毎回同じ前提を書く運用で失うものを、時間、品質のばらつき、前提の陳腐化の3つに分けた図。時間の損失は分かりやすいが、実害として大きく後から効いてくるのは品質のばらつきと前提の陳腐化

前提が古くなる問題は、社内で共有する情報すべてに起きるもので、更新まで含めた考え方は社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方で通して見ています。

共通前提は、事業・顧客・トンマナ・禁止事項の4つに絞る

デフォルトに置く情報は、4つの要素に整理できます。
ここを欲張ると、かえって使い物にならなくなります。
事業は、何をしている会社か、誰に何を提供しているかを3〜5行で書きます。
顧客は、主な読み手が誰かを役職・規模・前提知識の水準まで書きます。

トンマナは、使う言葉の水準、敬語の程度、避ける表現、文章の長さの目安です。
対外文章の基準そのものは「AIが書いた感」を組織として許容しない。対外文章の品質基準を決めるで扱っています。

禁止事項は、断定してはいけないこと、使ってはいけない表現、入力してはいけない情報です。
入れてよい情報の線引きは生成AIに入れてはいけない情報とは。社内ルールを3段階で線引きするにまとめてあります。
この4つだけに絞るのが要点で、製品の詳細や業務の手順まで入れると、関係のない作業にまで前提が効いてしまいます。

もちろん、経理の集計作業をしているときに「読み手は経営者層です、敬語で」という前提が働けば、余計な整形が入ります。
共通前提は、どの作業に効いても害がないものだけに限ります。

前提は作っていくとどんどん長くなるので、ここに歯止めを入れておきます。
目安は全社共通で15行以内、部門別で10行以内です。

これを超えると2つの問題が起きます。
前提が長いと今回の指示との優先順位が曖昧になり、「今回だけ」の指定が反映されない事故につながります。
もう一つが更新の停止で、長い文書は見直すのに気力が要るので、そのまま古い内容で放置されがちです。

ただ、足すときは削ると先に決めておきます。
1行足したら1行削らないと、前提は必ず膨らんでいきます。

部門別の前提は、部門の人が書いてこそ実務に合う

全社共通の4要素に加えて、実務では部門ごとの前提も要ります。
ただし、ここは共通のデフォルトには入れず、別のテンプレとして配ります。

営業なら、想定する商談の相手、提案の型、価格の伝え方、競合に言及するときの作法です。
マーケティングなら、発信の媒体ごとのトーン、使う表現の水準、実績の書き方の制約になります。

人事なら、応募者への文面のトーン、制度の説明で押さえること、個人情報の扱いです。
経理なら、数字の扱いの原則、社外に出す資料の様式、確認が必要な項目です。
職種ごとの標準セットの決め方は職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころで扱っています。

配る形は、コピーして貼れる文章にしておくことです。
「営業向け前提」という見出しで、そのまま使える段落を用意すれば、解説は要りません。

部門別の前提は、部門の中の人が書きます。
推進担当が書くと、どうしても実務と合わないものになるからです。
推進担当がやるのは、様式を決めて書いてもらうところまでにとどめます。

配って終わりにせず、更新と効果測定まで設計する

デフォルトに置いた前提には、更新の設計もあわせて要ります。
ここを決めずに配ると、半年後には形骸化します。

更新のオーナーは1人だけ決めておきます。
全社共通の4要素は推進チームの誰かが持ち、部門別は部門の担当が持つという形です。

更新のきっかけも決めておきます。
サービス名の変更、主要な顧客層の変化、対外的な表現方針の変更が起きたら前提を見直す、という手続きを1項目として入れておきます。

配布のほうは上書きの形にします。
各自が自分の設定にコピーして使う運用だと、更新がまったく反映されないからです。
「最新版はここ」という場所を1つ決めて、そこから貼り直してもらいます。
更新が追えなくなる問題は古い情報で答えるAIを作らない。社内ナレッジの更新体制のつくり方でも扱っています。

あわせて、更新したことも知らせます。
「前提を更新しました。設定を貼り直してください」を、月1回の通知に入れる程度で足ります。
ここがいちばん回りにくい部分で、各自の設定に散った前提を後から一括で更新する手段がないことが多いからです。

共通前提の更新の手順。サービス名などが変わるきっかけが起きたら、オーナーが見直し、最新版を1か所に置き、月1回の通知で貼り直してもらう。貼り直しが最も回りにくい

配っただけで終わらせず、効いているかどうかも見ます。
まず同じ依頼を複数人に投げてもらい、返ってきた成果物のトーンが揃っているかを見る方法です。
揃っていなければ、前提が設定されていない人がいる証拠です。

次が成果物のレビューで見る方法で、差し戻しの理由に「トーンが違う」が含まれているかを見ます。
ここが減っていれば、効いているといえます。

もう一つが、設定の有無を聞く1問だけのアンケートです。
「共通前提を設定していますか」と聞けば実施率が分かり、設定していない人が多ければ手順書のほうを作り直します。
いちばん実態を掴めるのは最初の方法で、5人に同じ依頼をしてもらうだけなので負荷も小さくて済みます。

共通前提が効いているかを確かめる3つの方法。いちばん実態を掴めるのは、同じ依頼を5人に投げて成果物のトーンが揃っているかを見る方法。ほかに、成果物のレビューで見る方法と、設定の有無を聞く1問のアンケート

一方で、前提をデフォルトに置くと不都合が出る場面もあります。
社外の視点を求めたいのに自社の前提が効いていると、自社目線の答えが返ってきます。

別の相手向けの文書を作るときも同じです。
いつもは経営者向けでも今回は現場向け、という場合に前提が邪魔をします。
事実だけを確認したいときも同様で、トーンの指定が効くと余計な整形が入ります。

ただ、前提を一時的に外す方法も手順書に書いておきます。
「今回は共通前提を無視してください」と依頼に書けば足りる場合が多いのですが、その一文を知らない人はそこで詰まります。

共通前提がデフォルトに置かれていると不都合が出る3つの場面。社外の視点を求めたいとき、別の相手向けの文書を作るとき、事実だけを確認したいとき。依頼に「今回は共通前提を無視してください」と書けば外せる

失敗は、4要素からはみ出すか、配って終わるかのどちらかに集まる

起きやすい失敗を、あらためて並べておきます。
自社はどこが当てはまりますか?

前提に製品の詳細や業務の手順まで入れてしまうと、関係のない作業にまで効いて余計な処理が入るので、4要素だけに絞ります。
前提を長くしてしまうと、指示との優先順位が曖昧になるうえ更新もされなくなるので、15行以内にとどめます。
部門別の前提を推進担当が書いてしまうと実務と合わないので、様式を決めて部門に書いてもらいます。

配布して終わりにすると、各自の設定に散って更新が反映されなくなるので、最新版の場所を1つ決めて貼り直してもらいます。
外す方法を伝えないと、社外の視点を求めたいときにそこで詰まるので、「無視してください」の一文を先に共有しておきます。

共通前提は作るより、全員に行き渡らせるほうが難しい

ここまで見てきたとおり、共通前提を作ること自体はまったく難しくありません。
4要素を15行で書けば終わります。
難しいのは、それを全社に行き渡らせて、更新を反映し続けるほうです。
各自が自分の設定にコピーしている状態だと、更新のたびに全員に貼り直してもらう必要がありますし、貼り直したかどうかも確認できません。

結果として、半年後には新旧の前提が混在した状態になります。
これは前提がない状態よりも読みにくく、成果物のトーンが3種類に分かれてしまいます。

必要なのは、前提を含んだ形でボットとして配り、更新すれば全員に反映される構成です。
つまり、個人の設定のほうに依存させない設計です。

前提を含んだボットの配り先として、当社の組織のAIポータル「AI Portalize」では、社内で作ったGemやGemini Notebookを登録すると全社に公開され、使われた回数や使った人数も作った人に返ってきます。
前提を配ったが更新が追えない状態で止まっている場合は、考え方の参考になるかもしれません。

前提はボットに含めて配ると、更新が全員に届く

ここまでの内容を、あらためて整理します。
全員が毎回同じ前提を書いている状態は、時間の損失だけでなく品質のばらつきと前提の陳腐化を生みます。
実害として大きいのは、時間よりも後ろの2つのほうです。

デフォルトに置くのは事業・顧客・トンマナ・禁止事項の4要素だけで、製品の詳細や業務の手順を入れると関係のない作業にまで効いてしまいます。
分量は全社共通で15行以内に収め、足すときは削ります。

部門別の前提は共通デフォルトに入れず、コピーして貼れるテンプレとして配ります。
書くのは部門の中の人で、推進担当が書くとどうしても実務と合わなくなります。

更新はオーナーを1人決め、きっかけを手続きに入れ、最新版の場所を1つに決めて貼り直してもらいます。
効いているかは、同じ依頼を5人に投げてトーンが揃うかどうかで確かめます。

まずは自社の共通前提4要素を15行で書いてみるところから始めてはどうでしょうか?

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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