組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

取引先を調べる力を標準化する。営業前調査と与信の目線

取引先を調べる力を標準化する。営業前調査と与信の目線

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

取引先を調べる作業は、部門ごとに別々にやっていることが多いかと思います。
営業は商談の前に調べ、経理は与信のために調べ、経営は提携の検討で調べます。
つまり、同じ会社を3回別々に調べていることになります。
しかも見る項目が違うので、出てくる結果も揃いません。

今回は、企業調査をAIに任せる範囲を決めて、調べ方そのものを標準化する設計について書いていきます。
推進担当としての情報収集と経営判断の全体像は、AI推進担当者の情報収集と経営判断。リサーチとROIの設計にまとめてあります。

取引先を調べるときの二層の設計を示した図。下の層は全員が先に調べる共通の4観点で、法人の基本情報・業績・リスク・従業員の推移。上の層は営業・経理・経営が目的に応じて後から足す項目

調べ方が人によって違う

調べ方は、なぜ人によって違うのでしょうか?
理由は3つあり、見る項目が決まっていない、情報源が決まっていない、目的が違う、が重なっています。
見る項目が決まっていなければ、各自が気になった点を調べる状態になります。
情報源が決まっていなければ、どこを見るかが人によって違うので結果も違ってきます。

目的が違うのは、営業は提案の材料、経理はリスク、経営は事業の可能性を見ているためで、これは正当な違いです。
目的が違えば見るべき項目も違うので、そろえる必要はありません。
ただ、対処としては、前の2つをそろえて目的の違いで使い分けることになります。
共通の項目を先に調べ、目的別の項目を後から足す形にすれば、同じ会社を何度も調べ直す重複も減ります。

調べ方が人によって違う3つの原因と対処を左右に並べた図。見る項目が決まっていない、情報源が決まっていないのはそろえる。目的が違うのは営業・経理・経営それぞれの正当な違いなので、そろえずに使い分ける

共通で見る観点は、4つに整理できる

共通で見る観点は、どう整理すればいいのでしょうか?
法人の基本情報(所在地、設立、資本金、事業内容、拠点)、業績(売上の推移、利益を公開されている範囲で)、リスク(訴訟、行政処分、報道されている問題)、従業員の推移(人数の変化、採用の動き)の4つです。
最も見落とされる観点は「従業員の推移」で、そのぶん、ここから分かることも多くあります。

人数が増えているなら成長していますし、減っているなら縮小しています。
募集している職種を見れば、相手がいま何に投資しているかまで読め、しかも公開情報から取れます。
採用のページや求人の情報を見ればよいので、特別な調査は要りません。
また、非上場だと業績が公開されていない場合が多いので、そこでは従業員の推移が代替の指標になります。

共通で見る4観点、法人の基本情報、業績、リスク、従業員の推移を、見る中身と注意点で比べた表。従業員の推移が最も見落とされるが、公開情報から取れて、非上場では業績の代わりになる

観点ごとに何を見るか

観点ごとに、見る中身と注意点が変わります。

法人の基本情報は、公開情報から基本の項目を集めます。
出典は必ず求め、公式のサイトや公開されている登記の情報で裏が取れる形にしておきます。
拠点の数と場所を見れば事業の規模と対応できる範囲が分かり、事業内容は相手が名乗っている公式の表現のまま取ります。
自社の理解で言い換えると、そこで情報がずれてしまうからです。

あわせて、親会社や関連会社といったグループの構成を確認しておくと、意思決定の構造が見えてきます。
ここは最も確実に取れて変わりにくい情報なので、一度調べればしばらく使えます。

業績は、上場企業なら決算の資料や投資家向けの資料から取れます。
投資家向けの資料が最も情報量が多く、今後の計画まで書かれているからです。

とはいえ非上場の場合は公開されている範囲と報道された内容に限られるので、そこで推測はしません。
「おそらくこの規模」という推測を、確定情報として扱わないということです。
分からない場合は「分からない」と記録して、従業員の推移のほうで代替します。
単年の数字より、3年の推移と増減の傾向を見ます。

裏取りの型そのものはAIの回答をファクトチェックする5分の型。全社の標準動作にするにまとめてあります。

リスクは、訴訟、行政処分、報道された問題、取引先の集中(特定の相手への依存)の4つを確認します。
ここでも出典を必ず求め、出典が不明な情報をリスクとして扱いません。
事実と推測は分けます。
「訴訟が報道されている」は事実ですが、「経営が不安定」は推測だからです。

また、判断はさせません。
「取引してよいか」を判断させるのではなく、「材料を揃える」ところまでにします。
見つからなかったことも記録し、「調べたが、特に注意すべき情報は見つからなかった」という記録を残します。
調べていないのと、調べて見つからなかったのはまったく違うからです。

従業員の推移は、公開されている従業員数、採用のページ、求人の情報の3つを見ます。
特に募集している職種から、何に投資しているかが読めます。
開発職を多く募集しているなら製品の開発に投資しており、営業職なら拡大の段階、管理部門なら組織の整備の段階、というように読み分けます。

募集が止まっているなら縮小か、あるいは十分に揃った状態です。
提示している給与の水準まで見ると採用市場での競争力も分かり、これが最も実務的な情報だと考えています。

募集している職種から相手の状態を読み分ける図。開発職が多ければ製品の開発に投資、営業職なら拡大の段階、管理部門なら組織の整備の段階、募集が止まっていれば縮小か十分に揃った状態

営業・経理・経営で、見る項目が変わる

営業・経理・経営では、それぞれ何を足せばいいのでしょうか?
営業は、4観点に加えて想定される課題、既に使っている可能性のあるもの、意思決定の構造の3つを見ます。
最も重要なのは「想定される課題」で、相手の事業内容と規模から起きていそうな課題を推測しておきます。

ただし推測であることは明示し、商談では「一般的にこういう課題があると思うのですが」と聞く形にします。
「意思決定の構造」はグループの構成から推測でき、同じ業界・規模への過去の提案と、そこで使った切り口も参照しておきます。
調査にかける時間は10分で、これを超えると準備そのものが負担になります。

商談前の準備の型は提案前の準備を30分に短縮する。顧客リサーチとFAQ準備の標準化で扱っています。

経理は、4観点のうち業績とリスクを中心に見て、支払の条件の妥当性と取引の規模に対するリスクを足します。
判断の基準は先に決めておき、例えば設立から3年以内、業績が公開されていない、取引の規模が一定額を超える、リスクの情報が見つかった、といった条件です。

もちろん、基準に当たった場合の手順も決めておき、追加の確認、条件の変更、上位者の承認というように進めます。
調査の結果はいつ何を確認したかを記録しておけば後から説明でき、主要な取引先については年に一度見直します。

経理側の型そのものは経理のAI活用を型にする。集計・照合・チェックの標準セットにまとめてあります。

経営は、事業の方向性、自社との補完関係、組む場合に想定される課題の3つを足します。
事業の方向性は投資家向けの資料や採用の動きから推測でき、補完関係については自社の強みと相手の強みが補完するのか、それとも競合するのかを見ます。
想定される課題としては、文化の違い、意思決定の速度、利害の対立といったところが出てきます。
ここでも判断はさせず、複数の候補を同じ項目で比較する「表」にするところまでにします。

新規事業側の初期検討は新規事業の初期検討を高速化する。海外事例・展示会・共催先を調べ切るで扱っています。

営業・経理・経営が共通の4観点に足す項目を比べた表。営業は想定される課題・既に使っている可能性のあるもの・意思決定の構造、経理は支払の条件の妥当性と取引の規模に対するリスク、経営は事業の方向性・補完関係・想定される課題

項目を固定すれば、比較できるようになる

運用では、何が最も重要になるのでしょうか?
4観点と目的別の項目を固定するのが最も重要で、項目が違うとそもそも比較ができないからです。
調査の結果は1箇所に蓄積します。
同じ会社を複数の部門が別々に調べる重複が、そこで減るからです。

あわせて調査の日付を記録し、1年以上前の調査は再確認します。
状況が変わっているからです。

蓄積すると、業界の傾向が見えてきます。
同じ業界の複数社を調べると共通する特徴が出てくるので、そのまま顧客像の設計の材料になります。

結果を営業・経理・経営で共有すれば、重複が減るだけでなく視点も広がります。

情報収集そのものを定常業務にする話は競合・市場の情報収集を組織の定常業務にするにまとめてあります。

よくある失敗は7つあり、見る項目を決めずに調べる、従業員の推移を見ない、推測を確定情報として扱う、「見つからなかった」を記録しない、判断までさせる、調査の結果を蓄積しない、調査の日付を記録しない、です。
どれも、項目を固定して採用の動きまで見て、分からないと書いて見つからなかったことも残し、材料を揃えるところで止めて1箇所に蓄積し、日付を残せば避けられます。

取引先の調査でよくある7つの失敗を避けるための確認項目。見る項目を決める、従業員の推移を見る、推測を確定情報にしない、見つからなかったことを記録する、判断させない、1箇所に蓄積する、日付を記録する。項目の固定が最も重要

調べる項目を固定したGemは、当社の組織のAIポータル「AI Portalize」に登録すると全社に公開され、使われた回数と使った人数が作った人に返ってきます。

項目をそろえて蓄積すれば、調べる力は標準化できる

調べ方が違うのは、見る項目が決まっていない、情報源が決まっていない、目的が違う、の3つが原因です。
目的が違うのは正当な違いなので、前の2つをそろえて目的の違いで使い分けます。

共通の観点は4つで、法人の基本情報(最も確実で変わりにくい)、業績(非上場では限られるので推測しない)、リスク(「見つからなかった」も記録する)、従業員の推移です。
従業員の推移は最も見落とされて最も実務的な観点で、募集している職種から何に投資しているかが分かります。
目的別の追加は、営業(想定される課題、既に使っている可能性、意思決定の構造を10分で)、経理(判断の基準を先に決め、結果を記録し、年に一度見直す)、経営(事業の方向性、補完関係、組む場合の課題)です。

いずれも判断はさせず、「材料を揃える」ところまでにします。
項目を固定して結果を1箇所に蓄積すれば、重複が減り、蓄積すると業界の傾向が見えて、顧客像の設計の材料にもなります。
調査の日付を記録して、1年以上前のものは再確認します。

主要な取引先3社について、4観点の項目を固定して調べた組織は、与信判断の目線がぶれなくなります。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

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