
Gemの移行と棚卸し。反復はアプリ、往復はスキルに移す判断基準
2026/10/31
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
「Gemがなくなるらしい」
この話が出たとき、社内で使われているGemをどう扱うかを、推進担当者はすぐに決めなければなりません。
その後、Googleは公式ヘルプで、GemをGeminiの「スキル」に切り替えると発表しました。
企業向けのWorkspaceアカウントでは、2027年3月にGemが使えなくなります。
発表の中身とスキルの仕組みは、GeminiのGemは2027年3月に終了。スキルへの移行で企業が今から決めておくことで整理しています。
私たちの社内では、噂の段階でGemを棚卸しし、153件のGemを110本のCanvasアプリに移しました。
始める前は「半分も移せないだろう」と思っていましたが、1件ずつ見ていくと、想像よりずっと多くを再現できました。
ここでは、その経験をもとに、Gemをアプリとスキルのどちらに移すかの判断基準と、移すのを急がない仕事の見分け方を整理します。

社内AIボットを作って共有し、改善していく全体の流れは、社内AIボットを共通資産にする。作成・共有・改善のサイクルにまとめています。
期限が決まったので、棚卸しと中身の保存を先に進める
ベンダー側の機能の変更は、組織の都合とは関係なく決まります。
社内で使ってもらっているものが急に無くなると、業務がそのまま止まります。
Googleの案内では、Gemは終了のときに自動でスキルとして作り直され、対応している形式の知識ファイルも一緒に移されます。
ただ、自動で移されるのを待つだけでは、使われていないGemまでそのまま残り、WordやExcelのように対応していない形式のファイルは抜け落ちるおそれがあります。
そのため、まず社内にどんなGemがあり、どれが業務に組み込まれているかを洗い出しておきます。
あわせて、各Gemの中身である指示文と参照ファイルを、手元に保存しておきます。
作り直すことになっても、中身さえ残っていれば移し先は後から選べます。
社内のAI資産を一覧にする考え方は、共有したのに使われない。社内AI資産をカタログ化するで扱っています。
保存しておいた指示文を、移行のあともGeminiで使い続けるときの置き場所は、Geminiのプロンプト保存方法。Gem・スキル・保存された情報の使い分けで扱っています。
判断の軸は、賢さではなく「反復するか」と「何往復するか」
では、どのGemをアプリに移し、どれをスキルにすればいいのでしょうか?
まず、GemとCanvasアプリは得意なことが違います。
Gemは、毎回ちがう問いに対話で答えるもので、調べる・考える・往復する仕事に向いています。
反面、同じ作業を頼んでも、毎回すこし違うものが返ってきます。
Canvasアプリは、毎回おなじ作業を決まった形で終わらせるもので、入力して実行すると決まった形式で結果が出ます。
速くてぶれませんが、往復の対話には向きません。

つまり、判断の軸は「どちらが賢いか」ではなく、その仕事を反復するかどうかです。
月に1度の調査なら対話で進めるスキル、毎日30回やる転記ならアプリ、という分かれ方になります。
Gemの後を継ぐスキルは、どのチャットからでも呼び出せて、会話を続けながら使えるので、対話や往復が前提の仕事の移し先になります。
新しく作るときの手段の選び方は、NotebookLM・Gem・Canvasの使い分け。目的別の判断基準に整理しています。
アプリに移すと、かえって良くなる仕事がある
153件を1件ずつ仕分けると、移して効果が大きかったのは、「起動して」と言うたびにAIがツールを作り直していたGemでした。
こうしたGemは11件あり、常設のアプリにすると待ち時間もなくなり、品質のぶれもなくなりました。
数える・照合する仕事も、アプリにすると精度が上がりました。
AIに数を数えさせると間違えますが、コードで数えれば間違えません。
個人情報のマスキングのように機密データを扱うものは、AIを使わない作りにしたので、データが外に出なくなりました。
さらに、110本のうち23本は、AIをまったく使っていません。
計算・整形・変換・照合だけで済むなら、AIを外したほうが速く、データも外に出ません。
一言でいうと、Gemとして作られていたもののかなりの部分は、毎回AIに考えさせる必要のない「決まった手順の反復」でした。

Deep Researchと法令の参照は、移し先を決めてから動かす
一方で、アプリではどうしても再現できないものもありました。
いちばん多かったのがDeep Researchを使うもので、30件前後ありました。
アプリからは、指定したURLの読み取りや検索まではできても、調べた結果を見てさらに調べ直す多段の探索ができません。
しかも、Googleの公式ヘルプによると、スキルは今のところDeep ResearchやCanvasとは組み合わせられません。
こうしたGemは、スキルが対応するのを待つのか、Workspace StudioのステップからDeep Researchを呼び出す形に切り替えるのかを、仕事ごとに決めてから動かします。
法令のナレッジを参照するものも5件、アプリへの移行の対象から外しました。
法令データを参照することが機能の本体なので、中途半端に作ると「チェックした気になる」分だけ危険です。
スキルには参照ファイルを一緒に入れられるので、法令のナレッジはスキルに移す候補になります。
ただ、入れられるのはテキスト形式・PDF・画像で、WordやExcelは対応していないので、先に形式を確かめます。
ドライブの中のファイルを読んで集計するような処理も、認証が必要になるので、アプリではなくGASの仕事になります。

対話・壁打ちは、1往復で終わるかどうかで切る
判断にいちばん迷ったのが、対話や壁打ちに使うGemで、40件ほどありました。
技術的には作れても、使ってもらえないものです。
Canvasアプリは状態を保存しないので、2往復目には最初から全部を入力し直すことになり、「答えを出さずに問い返す」タイプの対話とはかみ合いません。
そこで、「何往復するか」で切りました。
1往復で終わるなら、元が対話型のGemでもアプリにできます。
例えば議事録の構造化やスカウト文の生成は、対話型のGemでしたが、1往復で終わるのでアプリに移して問題ありませんでした。
2往復以上が前提のものはアプリにせず、スキルに移す、というのが最終的な線引きです。
スキルへの一本化は、どこで呼んでも精度が出ると確かめてから
移し先が決まっても、すべてを一度に切り替えるのは控えます。
同じ指示でも、通常のチャットで呼ぶのか、Workspace Studioのフローに組み込むのかで、精度や使われるモデルが変わることがあります。
Studio側でGemをつなぐときは、モデルを選べないという制約もあります。
そのため、「Gemではできていたのに、スキルに作り直したらできなくなった」ということは十分に起こり得ます。
スキルでは、Gemで使えた動画の作成やガイド付き学習なども、今のところ使えません。
2027年3月までは時間があるので、よく使うGemから順にスキルで試し、どこで呼んでも一定以上の精度が出ると確かめてから切り替えていきます。

社内のGemを、一覧から棚卸しできる状態にする
棚卸しは、社内にどんなAIボットがあり、誰にどれだけ使われているかが見えていないと始められません。
当社の組織のAIポータル「AI Portalize」では、使われていないツールやアカウント、よく使われているツールが分かるので、どのGemから移すかを決める材料になります。
移行の期限が迫る中で、どのGemから手を付けるかを決められない場合は、考え方の参考になるかもしれません。
Gemの移行は、AIにやらせていた仕事を見直す機会になる
移行の話がなければ、この棚卸しはおそらくやっていませんでした。
移した先で品質が落ちたものはほとんどなく、計算や照合はむしろ良くなっています。
反復するならアプリ、2往復以上ならスキル、計算や照合だけならAIを外す、の順に見ていけば、移行の判断はそれほど迷いません。
Gemがなくなる期限が決まった今は、社内のGemを業務に合った置き場所へ移し直す、ちょうどよいきっかけになります。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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