組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

ナレッジとは。ノウハウとの違いと、頭の中の知識をAIで書き残す方法

ナレッジとは。ノウハウとの違いと、頭の中の知識をAIで書き残す方法

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

ナレッジとは、仕事に役立つ知識や経験、事例のことで、ノウハウはその中の「どうやるか」にあたるやり方やコツを指します。
社内で使える形に残すには、1件ごとに場面・やり方・理由・例外をそろえて書きます。
本人の頭の中にしかないものは、最近の1件を話してもらい、その文字起こしをAIで下書きにすると残せます。

同じ会議で「ナレッジ」と言っても、ある人は過去の提案書を、別の人はベテランの段取りのコツを思い浮かべています。
言葉の指すものがそろっていないと、「ナレッジを共有してください」と頼まれた人は、議事録を貼るのか、自分のコツを書くのかで迷います。

社内でナレッジと呼ばれているものを並べた図。過去の提案書や議事録、トラブル対応の記録のような事例、規程の読み方や製品の仕様のような知識、経験から分かっている注意点、仕事の段取り、資料を早く仕上げるコツがあり、どれもナレッジと呼ばれる。このうち段取りとコツが、どうやるかにあたるノウハウの部分。ナレッジを集めようと呼びかけるときは、どれを集めたいのかを先に伝える

ナレッジの意味

ナレッジは英語の knowledge から来た言葉で、辞書では「知識」「情報」と説明されています。
デジタル大辞泉には、企業などの組織にとって役に立つ知識や経験、事例、ノウハウといった、付加価値のある情報という意味も載っています。
ビジネスで「ナレッジ」と言うときは、たいていこちらの意味です。

社内でナレッジと呼ばれているものを挙げると、次の4つに分かれます。

  • 事例

  • 知識

  • 経験から分かっている注意点

  • 段取りとコツ

事例は、過去の提案書や議事録、トラブル対応の記録です。
知識は、規程の読み方や製品の仕様のように、調べれば分かる中身を指します。

注意点は「この取引先は月末に決裁が止まりやすい」のような、経験から分かっている話です。
段取りとコツは、仕事の進め方や、資料を早く仕上げる工夫にあたります。

どれも誰かが仕事の中で得たもので、ほかの人が使えば同じ仕事を進めやすくなります。
逆に言うと、使う場面が思い浮かばない記録は、どれだけ集めてもナレッジとしては使われません。

ナレッジとノウハウの違い

言葉を使い始めた組織では、「ナレッジとノウハウは何が違うの?」という声が上がります。

デジタル大辞泉では、ノウハウ(know-how)は、専門的な技術やその蓄積、技術の競争で強みになる情報や経験と説明されています。
仕事の場面では、物事をうまく進めるやり方やコツの意味で使われることが多い言葉です。
一言でいうと、ナレッジのほうが広い言葉で、ノウハウはその中の「どうやるか」の部分です。

同じ取引先の話で、情報・ナレッジ・ノウハウの3つを分けると次のようになります。

指すもの

例(同じ取引先の話)

情報

事実や記録そのもの

A社の決裁者は部長で、契約の更新は4月

ナレッジ

仕事に使える知識・経験・事例

A社は月末に決裁が止まりやすいので、見積もりは20日までに出す

ノウハウ

ナレッジの中のやり方とコツ

見積もりの前に、担当者と金額の幅をすり合わせておく

表の例は、言葉の違いを説明するために作ったもので、実在の取引先の話ではありません。
また、この線はきっちり引けるものではなく、「20日までに出す」をノウハウと呼ぶ人もいて、どちらも間違いではありません。

そのため、社内で「ナレッジを集めよう」と呼びかけるなら、集めたいのが事例なのか、コツなのか、規程の知識なのかを先に伝えておく必要があります。
そうすると、集まってくるものの粒がそろいます。

暗黙知と形式知

ナレッジを残そうとすると、すぐに書けるものと、なかなか書けないものがあります。
その違いを説明するときによく使われるのが、暗黙知と形式知という言葉です。

野村総合研究所の用語解説では、暗黙知は言葉や数字で表現しにくい技能やノウハウ、形式知は言葉や数式で表現できる知識と説明されています。
マニュアルや規程、手順書に書かれているのは形式知で、ベテランの勘や段取りの組み方は暗黙知の側にあります。

暗黙知と形式知を左右に並べた図。暗黙知は言葉や数字で表現しにくい技能やノウハウで、ベテランの勘、段取りの組み方、なんとなく危ない案件の見分け方などがある。形式知は言葉や数式で表現できる知識で、マニュアル、規程、手順書がある。暗黙知を言葉や図表にする作業は、SECIモデルの表出化にあたり、この記事で扱う残す作業は主にこの部分。出典は野村総合研究所の用語解説

同じ解説によると、経営学者の野中郁次郎氏は、この2つが組織の中で行き来しながら新しい知識が生まれると論じ、その考え方は「SECIモデル」として知られています。
暗黙知を言葉や図表にする「表出化」は、その4つのプロセスの1つで、ここで扱う「残す」作業は主にこの表出化にあたります。

とはいえ、暗黙知は全部を言葉にできるわけではありません。
ベテランが「この案件はなんとなく危ない」と感じる見分け方は、本人にも理由をすぐには言えない場合があります。

それでも、どの案件でそう感じたか、そのとき何を見たかを1件ずつ聞いていくと、言葉にできる部分が少しずつ出てきます。
当社では、全部を書くより、ほかの人が同じ場面で迷ったときの手がかりになる程度まで残すのをおすすめします。

ほかの人が使えるナレッジの書き方

書き残したナレッジが使われるかどうかは、書いた量より、1件に何が入っているかで変わります。

「A社の見積もりは早めに出しておいて」という一言は、言った本人には十分なナレッジです。
ただ、初めてA社を担当する人には、いつまでに出せばよいのか、なぜ早めなのかが分かりません。

当社では、1件に次の項目をそろえる書き方をおすすめしています。

  • 場面

  • やり方

  • 理由

  • 例外

  • 根拠

  • 書いた人と確かめた日

先ほどの一言なら、場面は「A社の見積もりを出すとき」、やり方は「毎月20日までに出す」です。
理由は「月末は決裁が止まりやすく、翌月に回ると納期がずれる」で、例外は「急ぎの案件は、先方の担当者に決裁の予定を聞く」になります。

根拠には、納期がずれた案件の記録のような元の事例や資料を書きます。
書いた人と確かめた日があれば、誰に聞けばよいか、いつの時点の話かが分かります。

この中で抜けやすいのが、理由と例外です。
理由が書いていないと、条件が変わったときにそのまま使ってよいのか判断できません。
例外がないと、当てはまらない場面でも同じやり方が繰り返されます。

本人の一言「A社の見積もりは早めに出しておいて」を、ほかの人が使える1件のナレッジに書き直した例の図。場面はA社の見積もりを出すとき、やり方は毎月20日までに出す、理由は月末は決裁が止まりやすく翌月に回ると納期がずれる、例外は急ぎの案件は先方の担当者に決裁の予定を聞く、根拠は納期がずれた案件の記録、書いた人と確かめた日は誰に聞けばよいかといつの時点の話か。抜けやすいのは理由と例外

ナレッジの種類ごとの残す形

項目がそろっても、すべてを同じ書式に入れると、かえって読みにくくなります。
ナレッジの種類ごとに、残す形を選びます。

残したいナレッジを種類で分け、残す形を選ぶ図。決まった順番で進める仕事は手順書にし、画面や書類の名前と順番を並べて迷う所にだけ注意を書く。判断が要る仕事は条件と理由つきの事例にし、この条件のときはこうしたという1件を増やす。何度も聞かれることは質問と答えにし、質問は聞かれたときの言葉のまま書く。役に立つ過去の資料は見本にし、どこを差し替えて使うかを1行添える

決まった順番で進める仕事なら、手順書にします。
画面や書類の名前と順番を並べ、迷いやすい所にだけ注意を書き添えます。

判断が要る仕事なら、前の節の項目をそろえた事例として残します。
「この条件のときはこうした」という1件を、条件と理由ごとに増やしていきます。

同じ話を何度も聞かれるなら、質問と答えの形にします。
質問は聞かれたときの言葉のまま書いておくと、探す人が同じ言葉で見つけられます。
規程やマニュアルからのFAQの作り方は、規程やマニュアルからFAQを量産する。問い合わせ対応の元データ作りにあります。

過去の資料そのものが役に立つなら、見本として残します。
提案書や報告書は、どこを差し替えて使うかを1行書いておくだけで、次の人がそのまま使い始められます。

頭の中のナレッジをAIで書き残す手順

いちばん手がかかるのは、本人の頭の中にしかないナレッジを言葉にする作業です。
本人に「書いておいてください」と頼むと忙しさで後回しになりやすいので、聞き取りとAIで本人の手間を減らします。

当社がおすすめする手順は、次の5つです。

1. その人によく聞きに来る質問を1つ選ぶ
2. 直近の案件で何を見てどう決めたかを話してもらい、文字起こしを残す
3. 文字起こしをAIに渡し、項目ごとの下書きにしてもらう
4. 違うところと言い足りないところを、本人が直す
5. その仕事の経験が浅い人に読んでもらい、同じ場面で動けるかを聞く

一般論で聞くと「ケースバイケースです」で終わりやすく、具体的な1件で聞くと「このときは、ここを見た」が出てきます。
会議の録音を文字にするやり方は、AIで文字起こしをする方法。会議の録音を話者ごとに分けて文字にする手順と、GeminiのCanvas機能で文字起こしアプリを作るやり方にまとめています。

3でAIに渡すプロンプトは、例えば次のような形です。

次の文字起こしは、営業担当に最近の見積もりの進め方を聞いたものです。

話の中から、場面・やり方・理由・例外・根拠にあたる部分を抜き出し、項目ごとに分けてください。

話に出てこない内容は補わず、足りない項目には「聞き取りが必要」と書いてください。

最後に、経験の浅い人が読んで迷いそうな点を3つ挙げてください。

業務でそのまま使えるプロンプトの例は、プロンプトテンプレートの例文集。業務でそのまま使える10本と社内での配り方に、プロンプトの書き方のコツは全社共通のプロンプト作法を決める。押さえるべき7つの基本にまとめています。

AIは話の中から理由や例外を拾って項目に振り分けるところまで任せられますが、話していない内容をもっともらしく補ってしまう場合もあります。
そのため、本人が直す工程は省かず、下書きにない話を足してもらう時間として使います。

本人の頭の中にあるナレッジを残す手順の図。1は残すテーマを選ぶ(その人によく聞きに来る質問を1つ)、2は最近の1件を話してもらう(直近の案件で何を見てどう決めたかを聞き、録音か文字起こしを残す)、3はAIに下書きさせる(場面・やり方・理由・例外・根拠に分ける)、4は本人が直す(違うところと言い足りないところ。AIは話していないことを補うことがあるので省かない)、5はほかの人に読んでもらう(経験が浅い人が同じ場面で動けるか)。文字起こしは会社が使ってよいと決めているAIに渡し、分からないと言われた所が次に聞き取る点になる

文字起こしには顧客名や金額が入ることが多いので、渡す先は、会社が使ってよいと決めているAIにしてください。
どのAIにどこまで入れてよいかの最終判断は、社内の情報システムの担当に確かめてください。
最後に読んだ人から「これだけでは分からない」と言われた所が、次に聞き取る点になります。

書いた人と確かめた日の欄

残したナレッジは、書いた時点から少しずつ古くなります。
取引先の担当者が替われば、さっきのA社の「20日まで」も当てはまらなくなるかもしれません。

書いた人と確かめた日が1件ごとに付いていれば、読む人は、いつの話なのか、誰に聞けばよいのかが分かります。
誰がいつ直すかを業務ごとに決めるやり方は、古い情報で答えるAIを作らない。社内ナレッジの更新体制のつくり方で扱っています。

AIに読ませるときは、この古さがそのまま答えに出ます。
入れた資料をもとに答えるAIでは、古いナレッジからは古い答えが返ってきます。
社内の資料をAIで引き出すやり方の選び方は、社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方にまとめています。

資料に答えるAIを作ったのに部署の外で使われない、答えが古くなる、といった止まり方は、社内の資料に答えるAIを作っても、全社で使われないのページで原因と対策に分けています。

よく聞かれる業務で残し方を回す伴走支援

ここまでの残し方は、1つの業務で一度回すと、誰に聞くか、どの項目が要らないかが自社に合わせて決まってきます。

AI活用の伴走支援では、この残し方を、よく聞かれる業務の1つで実際に回します。
聞き取りの文字起こしをAIで項目に分け、経験の浅い人が読んで動けるかを確かめるところまでが、1回分の流れです。

ナレッジは、ほかの人が同じ場面で使えたときに組織のものになる

ナレッジは仕事に使える知識・経験・事例のことで、ノウハウはその中のやり方とコツです。
言葉の指すものを社内でそろえたら、次は1件ずつ、場面・やり方・理由・例外がそろった形で残していきます。

全部を書き残す必要はありません。
よく聞かれる質問を1つ選んで最近の1件を聞き、経験の浅い人が読んで同じ場面で動けたなら、そのナレッジは個人の頭の外に出ています。

参照した情報(2026年10月29日に確認)

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執筆:寺田昇平

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