
発注・指示の共通言語をそろえる。専門用語リストを組織資産にする
2026/09/11
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
制作物の修正を依頼するときに、「もう少し余白が欲しい」と伝えることがあります。
ところが返ってきたものが、期待とはまったく違います。
どこの余白を、どれだけ広げるのかが伝わっていないからです。
そこから往復が発生して、3回ほどのやり取りを重ねて、そこでようやく意図が伝わります。
今回は、デザインの指示で使う用語をそろえて、組織の共通言語にしていく話を書いていきます。
品質を組織でそろえる全体像はAIアウトプットの品質を組織でそろえる。標準化とレビュー体制にまとめてあります。

指示が曖昧だと、出てくるものも曖昧になる
そこでは、何が起きているのでしょうか?
曖昧な指示の例としては、「もう少し目立たせて」「バランスを整えて」「見やすくして」といったところです。
受け取る側はその言葉を自分なりに解釈しますが、目立たせる方法は複数あって、大きくする、色を変える、位置を変える、余白を取る、どれも当てはまるからです。
解釈が違っていると、そこで初めて往復が発生します。
さらに、その往復のたびに時間がかかり、外注が絡む場合であれば1往復で1〜2日かかることもあり、3往復もすれば、それだけで1週間が消えます。
だからこそ、意図を正確に伝える言葉のほうを使うところが、この記事で書く対処の方向になります。
そもそもなぜ用語が効くのかというと、理由は3つあります。
「余白」ではなく「行間」「文字間」「要素の間隔」と言えば対象が特定され、「目立たせる」ではなく「コントラストを上げる」「サイズを上げる」と言えば操作が特定され、制作者が使っている言葉なので相手と共通の理解になる、この3つです。
これは、AIに指示する場合もまったく同じで、専門用語を使いさえすれば意図のほうがそのまま伝わりますし、用語を知っていると自分の意図のほうも明確になります。
「なんとなく違う」という感覚が「行間が狭い」という認識に変わることが、最も価値のあるところです。
覚えるべき用語を絞る。自社版の用語リストを作る手順
そもそも、すべての専門用語を覚える必要はなく、絞る基準になるのは「指示で使う頻度」で、制作物への指示でよく使う用語は20語程度に収まります。
その20語を、分野ごとに整理しておきます。
配置に関するもの(余白(マージン、パディング)、整列、間隔、位置)、文字に関するもの(書体、サイズ、太さ、行間、文字間、揃え)、色に関するもの(色調、彩度、明度、コントラスト)、構造に関するもの(階層、グループ、区切り、優先順位)です。
各用語には自社での使い方を添えておき、一般的な定義ではなく自社の指示のなかでどう使うかのほうを書きます。

作り方も、全部で4段階になります。
まず過去の指示を集めます。
直近3か月の修正指示を、メール・チャット・修正の記録から集める作業です。
次に、曖昧な表現を抜き出しますが、「もう少し」「バランス」「見やすく」といった表現で往復が発生した指示を優先します。
次に、それぞれを正確な言葉に置き換え、「もう少し余白が欲しい」を「要素の間隔を広げてほしい」に直します。
最後に、曖昧な表現と正確な表現の対応を並べた置き換えの対応表を作り、この対応表が、そのまま配布物になります。
期間の目安は1週間で、20語程度なら十分に作れます。
ただ、制作を担当している人には必ず確認してもらい、用語の使い方が実務と合っているかどうかを社内の制作担当か外注先に見てもらいます。
用語を現場の言葉に翻訳する話はRAG・エージェント・ワークフローを現場の言葉に翻訳するにまとめてあります。

「曖昧な表現との対応表」にする。数値で指定できるものは数値にする
配布物の形も、ここでは重要になり、用語の定義集ではなく対応表の形にしておきます。
理由は、使う側が「正確な用語」のほうを知らないからです。
定義集を渡したところで、そもそも引く言葉が分からないからです。
対応表の形は、左に「よく使ってしまう曖昧な表現」、右に「正確な表現」を並べる形です。
よく使ってしまう曖昧な表現 | 正確な表現 |
|---|---|
もう少し余白が欲しい | 要素の間隔を〇pxから〇pxに広げる |
目立たせて | サイズを上げる/色のコントラストを上げる/位置を上に移す(このどれかを選ぶ) |
バランスを整えて | 要素の間隔を均等にする/左右の余白をそろえる |
見やすくして | 文字サイズを上げる/行間を広げる/情報を減らす |
そこに選択肢を並べておくのが要点で、曖昧な表現には複数の意図が含まれてしまっているので、そのどれかを選ばせます。
もう一段進めると、用語のほうで対象を特定したら、その次は数値になります。
「間隔を広げる」より「間隔を24pxにする」と書くほうが、そこで往復が消えるからです。

そのためには数値の基準を決めておき、自社の制作物で使う値として「間隔は8の倍数」「文字サイズは14/16/20/24」といった形にします。
この基準があるからこそ、指示に「24pxに」と書けるようになります。
さらに、その基準がそのままガイドラインになります。
一方で「数値で指定できないもの」は区別しておき、色の印象、写真の選び方、全体の雰囲気といったところは言葉で伝えるしかありません。
数値で指定できないものには参考例を添え、「このような雰囲気で」として実例を1つ渡すという形にします。

デザイナー側の型はデザイナーのAI活用を型にする。トンマナ統一と素材加工にまとめてあります。
制作会社・外注先との共通言語にする。リストの更新と共有
外注が絡む場合の設計についても書いておくと、やることは用語リストのほうを外注先と共有することです。
もちろん、相手が使っている用語のほうに合わせ、自社で作った用語より制作の業界で実際に使われている用語を使います。
確認の方法としては、外注先に「この指示で伝わりますか」と聞いて、そこで相手が使っている言葉を教えてもらいます。
さらに、発注のときに用語リストを添えておき、「当社ではこの言葉をこの意味で使います」という形で、特に自社固有の呼び方がある場合には必須にします。
数値の基準のほうも、あわせて共有すると、「間隔は8の倍数で」といった基準のことが、最も往復を減らしてくれます。
さらに、修正を依頼するときの様式も決めておき、そこに入れるのは対象、現状、期待する状態、理由、という4項目です。
「理由」を入れておくのが、要点になります。
理由が書かれていると、相手のほうからより良い方法を提案してもらえるからです。

運用の設計としては、四半期に一度、リストを見直します。
追加の材料は2つで、往復が発生した指示と、外注先から教えてもらった用語です。
伝わらなかった表現は、そのまま対応表に追加していきます。
追加のための受け口も作っておき、「この表現が伝わりませんでした」という報告を受け付ける形にしておきます。
また、使われていない用語のほうは外していきます。
リストが膨らんでしまうと参照されなくなるので、20語程度を維持しておきます。
更新のオーナーのほうも、決めておきます。
制作の依頼を最も多く出している部門が持つ形にしておきます。
新しく担当になった人にも、渡しておきます。
入口に置き続けていれば、2年で社内の標準になるからです。
修正指示そのものの出し方はディレクター・PMのAI活用を型にする。指示・差分確認・UX分析にまとめてあります。
用語を使いすぎない。指示と説明では言葉を使い分ける
注意点も書いておくと、社内向けの説明では、専門用語を使わないほうがよい場面があります。
原則は「指示のときは用語を使い、説明のときは使わない」です。
指示の相手は制作者やAIなので、用語がそのまま通じます。
一方で説明の相手は決裁者や他部門なので、そこでは用語が通じません。
だから、同じことを2つの言葉で言えるようにしておきます。
指示では「行間を1.8にする」、説明では「文字が詰まって読みにくいので、行の間隔を広げます」というようにです。
決裁者への説明で用語を使うと、判断のほうが止まります。
「よく分からないもの」として扱われてしまうからです。
この使い分けを意識しておくと、指示と説明の両方が円滑になります。
資料の質をそろえる話は提案資料の質を組織でそろえる。AIスライド生成の2段階プロセスにまとめてあります。
否定形の言い換えは「〜しないで」が精度を下げる。伝わる指示の書き方を教育に組み込むにまとめてあります。
避けておきたい失敗は7つあって、用語の定義集を作ること、すべての用語を網羅すること、選択肢を並べないこと、数値の基準を決めないこと、自社で用語を作ること、リストを更新しないこと、決裁者への説明で用語を使うこと、この7つです。
用語リストを組み込んだGemを作った場合は、組織のAIポータル「AI Portalize」に登録すると全社に公開され、「いいね」の数や使われた回数が作った人に返ってきます。
曖昧な指示は往復を生み、用語は往復を消す
曖昧な指示は往復を生みますし、外注が絡むと1往復で1〜2日かかります。
3往復もすれば、それだけで1週間が消えます。
専門用語が効くのは、対象が特定される、操作が特定される、相手と共通の理解になる、この3つです。
「なんとなく違う」という感覚が明確な認識に変わることが、最も価値があります。
覚えるのは20語程度で足り、配布物は定義集ではなく「曖昧な表現との対応表」にします。
使う側は正確な用語を知らないので、定義集では引く言葉が分からないからです。
そこには、選択肢を並べておきます。
「目立たせて」という表現には、複数の意図がまとめて含まれているからです。
用語で対象を特定したら、その次は数値です。
「間隔を24pxに」と書ければそこで往復が消え、数値の基準を決めればそれがそのままガイドラインになります。
外注先とは、相手が使っている用語のほうに合わせます。
数値の基準を共有して、修正の依頼の様式を4項目(対象、現状、期待する状態、理由)で決めておきます。
四半期に一度、往復が発生した指示から追加していきます。
そのうえで、常に20語程度を維持していきます。
指示のときには用語を使い、決裁者への説明では使いません。
同じことを、2つの言葉で言えるようにしておきます。
まずは直近3か月の修正指示を見て、往復が発生した表現を5つ抜き出してみてください。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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