組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

RAG・エージェント・ワークフローを現場の言葉に翻訳する

RAG・エージェント・ワークフローを現場の言葉に翻訳する

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

ベンダーの提案書やAI関連の記事には、RAG、エージェント、ワークフロー、ファインチューニングといった言葉が並びます。
推進担当はこれを読み込んで理解する立場なので、いつのまにか自分の語彙になっていきます。
それを社内説明でそのまま使ってしまうと、現場が引くのはまさにその瞬間です。
「うちには関係ない、難しそうな話だ」と判断されると、その後どれだけ有用な内容を話しても届きません。

ということで、RAGのような応用的なAI用語を業務の言葉に翻訳する方法を整理していきます。
基礎用語のほうはAI用語がわからないまま会議が進む。社内の共通言語をつくるにまとめてあります。

専門用語「RAGを構築します」を、現場向けには「社内の資料を読ませてから答えさせる仕組み」と業務の言葉に、稟議向けには手段の名前を消して対象業務と効果で書く例を示した図

用語で説明した瞬間に、聞く側が降りる

なぜ専門用語は拒否されるのでしょうか?
聞いた人が、自分が判断する話ではないと解釈するからです。
技術の話に聞こえた時点で「情シスの領域だ」「詳しい人が決めればいい」という受け取り方になりますが、これは無関心ではなく役割の線引きとして自然な反応です。

逆に業務の言葉で説明されると、自分の仕事の話として聞きます。
「議事録を書く時間が減る」「取引先を調べる時間が半分になる」は、誰にとっても自分の話だからです。
つまり翻訳の目的は分かりやすくすることではなく、聞く側を判断する立場に置くことです。

ここを意識すると、言い換えの方向が決まります。

応用語は対応表で翻訳し、「エージェント」は特に言葉を選ぶ

実務でよく出てくる語を、業務の言葉に置き換えていきます。
RAGは直訳的な説明を避けて、「社内の資料を読ませてから答えさせる仕組み」と言います。
効果は「AIが一般論ではなく自社の話をするようになる」で、これで現場は用途を想像できます。
参照先そのものの設計は社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方で扱っています。

エージェントは「指示を出したら、途中の手順まで自分で考えて進めるAI」で、従来との違いは1回のやり取りで終わらず複数の工程をこなす点です。

ワークフロー、あるいは自動化フローは「人が起動しなくても、決まった順番で処理が走る仕組み」と言います。
時刻やメール受信をきっかけに動くと説明すると通じます。
全体像はAIによる業務自動化の全体像。手段の選び方とコスト設計にまとめてあります。

ファインチューニングは「AIそのものを自社向けに作り替えること」で、あわせて「費用と手間が大きいので、多くの業務では不要」と付けます。
ここを付けないと、必要だと誤解されて話が重くなります。

マルチモーダルは「画像や音声も一緒に扱えること」で、写真を読ませる、録音から議事録を作る、という具体例で足ります。
プロンプトエンジニアリングは「頼み方を工夫すること」です。
専門技能のように聞こえる語ですが、実態は依頼文の書き方なので、この訳のほうが正確です。

RAG・エージェント・ワークフロー・ファインチューニング・マルチモーダル・プロンプトエンジニアリングの6つの専門用語について、現場向けの訳と効果の言い方を並べた対応表

エージェントだけは、特に注意が必要です。
期待が過剰になりやすく、期待外れになったときの反動も大きいからです。
「AIが勝手に仕事をしてくれる」という説明は禁物で、この期待で導入すると思ったように動かない場面が必ず出て、「使えない」という評価になります。

正確に伝えるなら「手順が決まっている仕事を、途中の判断まで含めて任せられる」と言い、そのあとに「手順が決まっていない仕事や、責任の重い判断は任せられない」を続けます。
もう1つ添えたいのが、確認の工程は残るという事実です。
任せた結果を人が見る工程はなくならないので、ここを最初に言っておくと運用に入ってから揉めません。

「AIが勝手に仕事をしてくれる」という説明を、手順が決まっている仕事を途中の判断まで含めて任せられること、手順が決まっていない仕事や責任の重い判断は任せられないこと、確認の工程は残ることに言い直した例

期待値の調整も、翻訳の一部です。
訳が分かりやすいだけで、実現できる範囲を大きく見せてしまうと後から信頼を失います。

稟議では手段を消して言い換え、訳しすぎると誤解を生む

上に出す資料では、さらに一段変換します。
業務の言葉から、成果と費用の言葉に変えます。

たとえば「RAGを構築します」は「社内規程を読ませて、問い合わせ対応の一次回答を自動化します。年間X時間の削減見込みです」と言い換えます。
「エージェントを導入します」は「企業リサーチの工程を任せて、1件30分かかっていた作業を5分にします」。
「ワークフローを整備します」は「問い合わせメールの記録と担当割り振りを自動化して、取りこぼしをなくします」。

共通しているのは、手段の名前を消して、対象業務と効果だけを書く点です。
技術の選定は担当が責任を持つ範囲なので、決裁の判断材料には要りません。
聞かれたときに答えられるよう、別紙に置いておきます。

稟議に出す資料での言い換え例。「RAGを構築します」「エージェントを導入します」「ワークフローを整備します」という手段の書き方を、対象業務と効果の書き方に置き換える

ただ、簡略化しすぎると別の問題が起きます。
たとえばRAGを「AIに社内資料を覚えさせる」と訳すと学習との混同が起き、「覚えさせたら外に漏れるのでは」という不安につながります。
ここは「読ませてから答えさせる」と、その都度参照する形であることを残したほうがよいです。

同様にエージェントを「AIが自動でやってくれる」と訳すと、責任の所在が曖昧になります。
「任せられる」と「勝手にやる」は違うので、動詞を選びます。

翻訳のコツは、分かりやすさを求めて主体をぼかさないことです。
誰が何をするのかを残したまま、言葉を平易にします。
ここを守れば、後から前提が崩れません。

訳しすぎた例として、RAGを「AIに社内資料を覚えさせる」と訳すと学習と混同されて情報漏れの不安につながり、エージェントを「AIが自動でやってくれる」と訳すと責任の所在があいまいになることを示した図

訳し方ひとつで社内ルールの受け止め方まで変わるので、ルールそのものの組み立ては生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境で確認しておくと安心です。

翻訳役は推進チームの役割になり、提案も逆翻訳して読む

ここまでを個人の工夫にしておくと、担当が変わったときに失われます。
だから役割として明示します。

具体的には、推進チームの中に「社内向けの言い換えを持つ人」を置きます。
ベンダーや外部の情報を受け取り、社内向けの言葉に変換して配る役割です。
この役割は技術に強い人よりも、現場の業務を知っている人のほうが向きます。

成果物としては、対応表を1枚残します。
上で挙げたような「専門用語/現場向けの訳/効果の言い方」の3列の表で、推進チームの資料に置いて説明資料を作るときに参照します。

あわせて、同じ言葉は社内では常に同じ訳で使うことも重要です。
会議ごとに訳が変わると聞く側が混乱しますし、訳を固定することが共通言語を作る実態でもあります。

翻訳は社内向けだけでなく、外から来る提案を読むときにも必要です。
提案書に並んだ用語を「それでどの業務の何分が減るのか」に置き換えて読むと、中身の薄い提案が見分けられます。
用語が多いのに業務が特定されていない提案は、たいてい自社向けに考えられていません。

聞き返す質問は2つで足ります。
「当社のどの業務が対象ですか」「その業務は誰が何分やっていますか」。
答えられない場合は、導入後に効果が出ない可能性が高いと判断できます。
この読み方を推進チームで共有しておくと、比較検討の時間が大幅に短縮されます。

提案書に並んだ用語を「どの業務の何分が減るのか」に置き換えて読むための2つの質問。当社のどの業務が対象か、その業務は誰が何分やっているか。答えられなければ、導入後に効果が出ない可能性が高い

失敗するのは、だいたい同じ3つ

まず、推進担当が用語に慣れて社内でそのまま使ってしまいます。
自分が理解した言葉は難しく感じなくなるので、自覚しにくい失敗です。
資料を作ったら、AIに関わっていない人に一度読んでもらうのが確実です。

次に、用語集を配って解決したことにしてしまいます。
用語集は現場が調べるためのものであって、説明する側が言い換える責任のほうは残ります。

もうひとつが、分かりやすさのために主体をぼかすことです。
「自動でやってくれる」という訳は、責任の所在を曖昧にしてしまいます。

翻訳できる人は、社内にいないことが多い

ここまで書いてきたのは、要するに技術と業務の両方が分かる人が間に立つという話です。
この役割を担える人が社内にいない、というのが多くの組織の実情です。

情シスは技術は分かるものの業務の細部は知らず、事業部門は業務は分かるものの技術の適性が判断できません。
どちらか一方だけでは、翻訳が成立しません。

私たちが提供しているガイドライン策定から支援するAIコンサルは、外部のAI推進室としてこの間に立つ形をとっています。
手段の適性を判断して、現場の言葉に落とし、展開まで一緒に進めます。
社内で翻訳役を置けない状態の場合は、進め方の参考になるかもしれません。

翻訳の目的は、分かりやすさではなく判断する立場に置くこと

専門用語で説明すると、聞く側は「自分が判断する話ではない」と受け取ります。
だから翻訳の目的は分かりやすくすることではなく、聞く側を判断する立場に置くことです。

RAGは「社内資料を読ませてから答えさせる仕組み」、エージェントは「手順が決まった仕事を判断まで含めて任せられる」と訳します。
稟議に出すときは手段の名前を消して、対象業務と効果だけを書きます。

ただ、訳しすぎて主体をぼかさないことです。
「任せられる」と「勝手にやる」は違います。
また、翻訳役は個人の工夫ではなく推進チームの役割として置き、訳を固定します。

あわせて、外から来る提案も「どの業務の何分が減るのか」に置き換えて読みます。
用語が多いのに業務が特定されていない提案は、自社向けに考えられていません。
自社でよく出てくる用語5つについて、まず対応表を1枚作ってみれば、担当が変わっても同じ言い回しで説明でき、稟議や現場向け資料を作るたびに一から言葉を選び直す手間も、そのぶん減っていきます。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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