
AI用語がわからないまま会議が進む。社内の共通言語をつくる
2026/08/17
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
AI推進の会議で、こういう場面がよくあります。
担当者が「プロンプトの設計を見直して、トークンの消費を抑える方向で」と説明し、参加者はうなずいて解散します。
そのまま、何も進みません。
うなずいていた人の半分は、AI用語の意味をつかんでいません。
ただ、会議の場で「それは何ですか」と聞くのは気が引けるので、分かったふりで通過してしまいます。
結局、自分の業務には落とし込めないまま終わります。
ということで、AI用語を社内の共通言語にするための進め方を整理していきます。
RAGやエージェントといった応用寄りの語はRAG・エージェント・ワークフローを現場の言葉に翻訳するで別に扱っています。

「わかったふり」が推進を止める
この問題が厄介なのは、表面上は合意が取れているように見えることです。
反対されているなら、まだ議論ができます。
ただ、うなずかれた場合は、推進担当は伝わったと思って次に進んでしまいます。
その結果、実行の段階になって「結局よく分からない」という理由で止まり、原因が用語だったと気づくまでに数か月かかることもあります。

もうひとつの弊害が、判断が保留される点です。
意味が分からない提案に対して人は決められないので「もう少し検討しましょう」という結論になり、推進担当からすると慎重な組織に見えても、実際には言葉が通じていないだけというケースが少なくありません。
だから、用語をそろえる作業は教育ではなく推進の前提整備として扱ったほうがいいです。
前提整備という点では社内ルールを配る段取りとも重なるので、生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境とあわせて見ると、用語をそろえる作業をどこに差し込むかが決めやすくなります。
最低限そろえたいのは、10語程度の基礎用語
そもそも、最低限そろえておくべき語はどれくらいでしょうか?
全部を覚える必要はなく、会話についてこられる水準に必要なのは10語程度です。
まず、プロンプトはAIへの指示文で、「どう頼むか」で結果が変わるという事実とセットで伝えます。
具体的な作法は全社共通のプロンプト作法を決める。押さえるべき7つの基本にまとめてあります。
トークンは処理される文字のかたまりの単位で、費用と処理量の話をするときに必要になるため、金額の話をする人には欠かせない語です。
費用設計そのものはAI利用の従量課金をコスト設計する。予算とガードレールの決め方で扱っています。
ハルシネーションは、AIが事実と異なる内容をもっともらしく返すことで、「嘘をつく」ではなく「事実を判断していない」と説明したほうが正確に伝わります。
モデルはAIの本体にあたるもので、性能と費用が違うものが複数あり、その程度の理解で足ります。
コンテキストは一度に読み込ませられる情報の量と範囲で、長い資料を扱うときの制約として出てきます。
ファインチューニング(学習)はモデルそのものを調整することで、「入力した内容が学習される」という話と混ざりやすいので、分けて説明します。
契約形態ごとの違いはAIに入力した情報は学習される?無料版・法人版・APIの違いを整理で整理しています。

マルチモーダルは文章だけでなく画像・音声・動画も扱える性質で、APIは外部のプログラムからAIを呼び出す窓口として、開発の話に出てきます。
この8語に、自社で使っているサービスの名称を足せば十分です。
用語集は3ルールで作り、社員の入口に置き続ける
社内で用語集を作る場合、決めておきたいことが3つあります。
まず、正確さより通じることを優先し、技術的に厳密な定義を書くと読んだ人が理解できません。
「厳密には違うが、業務ではこう捉えて構わない」という水準で書き、専門部門から指摘が来たら注記を足す形で対応します。
次に、1語を3行以内に収め、定義1行・業務での意味1行・注意点1行とします。
これ以上長いと読まれません。
もうひとつが、具体例を自社の業務から取ることで、たとえば「プロンプトの例:競合を3社比較して表にしてください」のように、自社で本当にありそうな依頼を書きます。
一般的な例を借りてくると、自分の業務に結びつきません。
社内の呼び方をそろえる話は発注・指示の共通言語をそろえる。専門用語リストを組織資産にするで扱っています。
また、載せる語は30語以内に抑え、網羅した用語集は辞書として使われず結局読まれません。
用語集を作っても、既にいる社員が読むのは1回きりです。
継続して効かせるには、人が入ってくる経路に置くのが確実です。

新入社員研修と異動者の受け入れ資料に用語集を入れ、あわせて「うちの会社ではこのサービスを使っていて、この用途に使われている」という現状を1枚添えると、配属初日から会話に入れます。
これは地味な施策ですが2年経つと社内の標準になり、全社員に一斉に教える施策より入口に置き続けるほうが効きます。
読むだけでは定着しないので、演習も1回入れます。
とはいえ長い研修は組めないので、15分に収めます。
最初の5分でその回の用語を3語だけ説明し、10語を一度に扱うと残りません。
次の5分で実際にAIに触ってもらい、同じ依頼を「指示の書き方を変えて」2回試します。
プロンプトという言葉の意味が、体験として入ります。
最後の5分で自分の業務で使える依頼文を1つ書いてもらい、書いたものを共有すると他の人の使い方も見えます。
これを月1回、3語ずつ進めれば3か月で終わります。
朝礼や定例会議の枠に差し込める長さにすることが、実施できるかどうかの分かれ目になります。

陳腐化は仕組みで防ぎ、経営会議では逆に用語を言い換える
AIの分野は言葉の入れ替わりが速いので、作った用語集は放っておくと古くなります。
1年前の用語集に、いま現場で使われている言葉が載っていないという状態は普通に起きます。
やることは2つで、更新のオーナーを1人決めることと、追加の受け口を作ることです。
受け口はチャットのチャンネル1つで足り、「会議で出てきて分からなかった言葉」を投げてもらう場所を作ります。
ここに投げられた語を四半期ごとに拾って用語集に足すと、現場が実際に詰まった語だけが載るので、使われる用語集になります。
逆に、使われなくなった語は落とします。
載っている語が増え続けると読まれなくなるので、30語の上限のほうを守ります。
社内の共通言語を作る話と矛盾するようですが、経営会議に持っていく資料では専門用語を使わないほうがいいです。
理由は2つあり、ひとつは役員層が用語集を読む時間を取れない点です。
もうひとつが、意味の分からない言葉が入った提案は決裁されにくい点です。
判断する立場の人は、理解していないものに承認を出しません。
だから資料では、用語を成果の言葉に置き換えます。
「トークン消費を抑える」ではなく「処理費用を月X万円下げる」、「プロンプトを標準化する」ではなく「同じ依頼で誰でも同じ品質の成果物が出る状態にする」と言い換えます。
置き換えの作業は面倒ですが、ここを省くと稟議が1回余分に回るので、用語集は現場向け、成果の言葉は上向きと使い分けるのが実務的です。

また、用語集を配っても、会議中に「分かりません」と言える空気がなければ問題は残ります。
効くのは、推進担当が最初に自分で言うことで、「私もこの言葉、去年まで知りませんでした」と一度言うと場の空気が変わります。
逆に、推進担当が当然のように使い続けると、質問は出なくなります。
もう1つが、会議の最後に1分の確認枠を置くことで、「分からなかった言葉があれば、あとでチャットに投げてください」と毎回言います。
投げられた語がそのまま用語集の追加候補になるので、一石二鳥です。
用語が通じていない状態は、聞かなかった側の問題ではなく、伝えた側の設計の問題として扱ったほうが前に進みます。
失敗するのは、だいたい同じ4つ
まず、網羅的な用語集を作ってしまいます。
100語の資料は誰も読まないので、30語に絞り、足すときは落とす語を決めます。
次に、技術的に正確に書いてしまいます。
現場が理解できない定義は、載っていないのと同じです。
一回の研修で全社に配って終わりにしてしまうのも、同じ形の失敗で、半年後に入った人には何も伝わっていません。
入口に置き続ける設計にします。
もうひとつが、推進担当自身が用語を使い続けてしまう点です。
用語集を配ったからといって会議で専門用語を使ってよいわけではなく、説明する側が言い換えるのが基本になります。
担当者には、体系的に押さえるための一冊もある
ここまで書いてきたのは、社内の会話が通じる水準にそろえるための最小限です。
一方で、推進を担当する立場だと、用語だけでなく組織としての進め方を体系的に押さえておきたい場面が出てきます。
弊社代表が書いた『組織で成果を出す「AI推進」の教科書』では、用語の整理から推進体制の作り方、現場への浸透の順序までを一冊にまとめています。
断片的な情報を集めている段階の方には、地図として使いやすいかもしれません。
社内の共通言語づくりを研修に組み込みたい場合は、私たちのAI伴走支援で、現場の担当者と一緒に社内研修や推進体制づくりまで進めています。
AI用語は、教育ではなく推進の前提として整える
AI用語が通じていない状態は慎重な組織に見えて実は言葉の問題なので、用語をそろえる作業は教育ではなく推進の前提整備として扱います。
そろえるのは10語程度で足り、用語集は「正確さより通じること/1語3行以内/自社の業務から例を取る」の3ルールで作り、30語以内に抑えます。
そのうえで、一斉研修ではなく新入社員と異動者の入口に置き続け、あわせて月1回15分の勉強会で3語ずつ進めます。
経営会議に出す資料では逆に用語を成果の言葉へ置き換え、ここを省くと稟議が1回余分に回ります。
直近の会議で出てきた言葉を5つ書き出すと、そろえるべき語の多さに気づくはずです。
すぐ使える業務アプリが300以上
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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