
「〜しないで」が精度を下げる。伝わる指示の書き方を教育に組み込む
2026/09/11
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
指示がうまくいかないとき、禁止事項を足していくことがあります。
「専門用語を使わないで」「長くしないで」「曖昧に書かないで」。
どれも守られません。
そのうえ禁止事項が増えると、指示そのものが長くなって他の部分まで伝わりにくくなります。
今回は、プロンプトの否定形をどう言い換えるか、それを教育にどう組み込むかを書いていきます。
品質を組織でそろえる全体像はAIアウトプットの品質を組織でそろえる。標準化とレビュー体制にまとめてあります。

禁止事項は、なぜ並べても守られないのか
なぜ守られないのでしょうか?
人に依頼する場合も、まったく同じだと思います。
「〜しないでください」と言われたところで、では何をすればよいのかが分からないからです。
「専門用語を使わないで」と言われた人が考えるのは、どこまでが専門用語なのかであって、その判断の基準は示されていません。
判断が必要な指示は、依頼した人が想定する水準と受け取る側の判断がずれるので、必ず解釈が分かれます。
さらに、禁止事項が多いと優先順位が分からなくなります。
5つの禁止事項が並んでいると、そのうちどれが最も重要なのかが不明になり、結果としてそのどれもが守られなくなります。
もう一段掘ると、否定形が効きづらい理由は3つあります。
まず、目指す状態が示されていないことです。
「〜しない」というのは避けるべきものを示すだけで、何を目指せばよいのかが分かりません。
次に、判断の基準が必要になることです。
「長くしないで」はどこからが長いのかという判断を、相手に求めてしまいます。
もうひとつが、否定の対象そのものが曖昧なことで、「曖昧に書かないで」の「曖昧」が何を指しているのかそもそも不明です。
このなかで本質にあたるのは、目指す状態が示されていないという1つ目です。
もともと指示の目的は望む状態を伝えることにあるはずで、否定形はその望む状態を何も伝えていません。
だからこそ「望む状態のほうを書く」。
これが、この記事で書いていく原則になります。
肯定形への言い換えは、10個をそのまま配れる
言い換えは、どこまで具体的にすればよいのでしょうか?
そのまま配れる形で書いておきます。
「専門用語を使わないで」は「中学生にも分かる言葉で」に、「長くしないで」は「800字以内で」に、「曖昧に書かないで」は「数字と固有名詞を入れて」に言い換えます。
続けて、「一般論を書かないで」は「渡した素材の内容だけで書いて」に、「箇条書きにしないで」は「文章で。1段落3〜4文で」に言い換えます。
さらに、「推測で書かないで」は「情報がない項目は『不明』と書いて」に、「敬語を使いすぎないで」は「です・ます調で、二重敬語は避けて」に言い換えます。
さらに、「網羅的に書かないで」は「最も重要な3点に絞って」に、「同じ表現を繰り返さないで」は「各段落の書き出しを変えて」に、「断定しないで」は「『〜とされています』『専門家に確認が必要です』という表現で」に言い換えます。
この10個を1枚にまとめて、そのまま配ります。
そこに、自社でよく使われている否定形を追加していきます。
プロンプトの作法そのものは全社共通のプロンプト作法を決める。押さえるべき7つの基本にまとめてあります。

否定形が必要なのは、禁止と除外の2つの例外だけ
すべてを言い換えるべきなのでしょうか?
そうではなく、例外も書いておきます。
否定形が必要になるのは3つの場面です。
1つは、絶対に避けるべきことで、「個人情報を出力しないでください」といった指示は、肯定形にしようがありません。
2つ目は、既定の動作を止めたいときで、「補足の説明を加えないでください」といった、何もしないことを求める場合です。
3つ目は、選択肢から除外したいときで、「〇〇社については触れないでください」というものです。
このなかで1つ目と3つ目は、そのまま否定形で書きます。
無理に言い換えると、指示としてかえって弱くなるからです。
判断の目安は「望む状態が書けるかどうか」で、書けるのであれば肯定形にし、書けないのであれば否定形のままにします。

ただ、否定形を使うのは2つまでにします。
それ以上並べると、やはり優先順位のほうが分からなくなるからです。
教育の設計としては、この項目は演習がいちばん効きます。
時間は15分で、最初の3分が原則の説明で、「望む状態を書く」ということと言い換えの例を3つ扱います。
次の7分は、自分の指示を書き換えてもらう時間です。
「自分が使っている指示のなかで『〜しないで』と書いている箇所を探して、言い換えてください」と伝えます。
最後の5分は、書き換えた指示で試してもらい、結果の違いを見てもらう時間です。
結果の違いを体感してもらうのが、いちばん効きます。
説明を聞くより、自分の指示が改善して結果が変わることを見るほうが定着するからです。

さらに、書き換えた例を共有してもらいます。
他の人の言い換えが見えると、それ自体が参考になります。
この15分は、プロンプト作法の研修の一部として組み込みます。
単独でやる必要はありません。
分量の規格化そのものは報告書・議事録の分量を規格化する。読み手の時間を守るにまとめてあります。
社内テンプレの見直しは、「適切に」「適宜」がいちばん多い
既にあるものは、どう直せばよいのでしょうか?
社内で配られている指示のテンプレートを見直します。
探すのは3つです。
「〜しないで」という記述は言い換えます。
「〜に注意して」という記述も曖昧なので、「〇〇を確認して」に変えます。
「適切に」「適宜」という記述は、判断を求めてしまう表現なので、具体的な基準のほうを示します。
このなかでいちばん多いのは、「適切に」「適宜」です。
「適切な形式で」という指示は、実質的には何も伝えていません。

さらに、否定形が3つ以上並んでいるテンプレートを優先して直します。
ここが、いちばん効果の大きいところです。
直した記録のほうも残しておくと、何をどう直したかが分かり、同じパターンが他のテンプレートにも潜んでいることに気づけます。
この原則は、実は人向けの文書にもそのまま効きます。
AI利用のガイドラインが「禁止事項の一覧」になっていることがあるからです。
「機密情報を入力しないでください」「個人情報を入力しないでください」「業務外で使用しないでください」。
この手のガイドラインも守られません。
理由はまったく同じで、何をしてよいのかが書かれていないからです。
だから「使ってよい範囲のほうを、先に書きます」。
「この3つの用途は自由に使ってください」から始めて、そのあとに「ただしこの情報は入れないでください」を続けます。
順番を逆にするだけで、受け取り方そのものが変わります。
禁止事項のほうも3つまでにして、それ以上並べないようにします。
禁止の一覧のほかに、作ったあと見直されないことも生成AIのガイドラインが形骸化する理由の1つです。

この原則は、ルール・手順書・マニュアルといった社内文書全般に効きます。
ガイドラインの作り方そのものは生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境にまとめてあります。
効果は、否定形の数と結果の質の2つで確認する
改善できたかどうかは、どう測ればよいのでしょうか?
2つの指標で測ります。
1つは、指示の中の否定形の数です。
テンプレートと、実際に使われている指示の両方を見て、減っていれば原則が届いています。
もう1つは、差し戻しの回数や期待とずれた成果物の件数で見る結果の質です。
1つ目を測る方法は、月に数件、実際に使われている指示を見せてもらい、「〜しないで」の数を数えます。
さらに、うまくいっている人の指示を見ておきます。
たいてい否定形が少ないので、その指示を社内に共有していきます。
言い換えの例集にも追加していきます。
実際に使われている良い言い換えを集めると、例集そのものが育っていきます。
表の出力の作法は一覧や数値の出力を信頼できる形にする。AIの表出力の作法、用語をそろえる話は発注・指示の共通言語をそろえる。専門用語リストを組織資産にするにまとめてあります。
つまずきやすい失敗は6つです。
禁止事項を足していく、「適切に」「適宜」と書く、すべての否定形を言い換える、否定形を3つ以上並べる、説明だけで演習をしない、ガイドラインを禁止事項の一覧にする、の6つです。
どれも、望む状態を書き、基準を示し、絶対に避けるべきことは否定形のままにし、2つまでに絞り、自分の指示を書き換えて試し、使ってよい範囲を先に書けば避けられます。
指示の書き方を研修に組み込むところは、当社のAI伴走支援でも扱っており、ガイドラインづくりから定着のための研修までを現場の担当者と一緒に進めています。
禁止事項ではなく、望む状態を先に書く
禁止事項が守られないのは、目指す状態が示されていない、判断の基準が必要になる、否定の対象が曖昧、という3つが原因です。
原則そのものは1つで、「望む状態のほうを書く」だけです。
言い換えの例としては、「専門用語を使わないで」は「中学生にも分かる言葉で」に、「長くしないで」は「800字以内で」に、「推測で書かないで」は「情報がない項目は『不明』と書いて」に置き換えます。
ただ、絶対に避けるべきこと、既定の動作を止めたいとき、選択肢から除外したいときは例外です。
判断の目安は「望む状態が書けるかどうか」で、否定形を使うのは2つまでにします。
研修は15分で、原則の説明を3分、自分の指示を書き換えるのに7分、試すのに5分を使います。
結果の違いを体感してもらうのが、いちばん効きます。
既にあるテンプレートのほうも見直し、探すのは「〜しないで」「〜に注意して」「適切に」「適宜」で、このなかでいちばん多いのが「適切に」「適宜」です。
そして、この原則は人向けの文書にもそのまま効きます。
AI利用のガイドラインが禁止事項の一覧になっていると、まず守られません。
だから「使ってよい範囲のほうを、先に書く」。
測るのは、指示の中の否定形の数と結果の質の2つで、うまくいっている人の指示から良い言い換えを集めていきます。
まずは自分がよく使う指示を見て、「〜しないで」と書いている箇所がいくつあるか、探してみましょう。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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