
契約書レビューにAIを入れる。条項の抜けと不利な条項を洗い出す法務の使いどころ
2026/08/19
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
契約書レビューにAIを使うなら、契約書の本文を貼り、見てほしい観点を決めて頼み、出てきた指摘を原文で確かめます。
AIに任せられるのは、条項の抜けと、自社に不利になりうる条項を洗い出すところまでです。
受け入れるかどうかの判断は、法務が持ちます。

契約書は取引先との間で秘密にしている内容を含むので、入れてよいAIかどうかを最初に確かめます。
AIの指摘は下書きとして扱い、契約の最終判断は社内の法務や弁護士に確認してください。
契約書レビューをAIに頼む5つの手順
AIに貼る前の確認から始めて、法務に回すところまでを順に並べます。
1. 契約書を入れてよいAIか確かめる
2. 社名や担当者名など、レビューに要らない情報を伏せる
3. 契約の種類と自社の立場を伝え、観点を決めて頼む
4. 指摘された条項を、原文で開いて確かめる
5. 指摘の一覧を持って、法務か弁護士に回す
1つ目は、「使うAIの確認」です。
無料版と法人向けでは、入力した内容の扱いが違います。
「入力した内容は学習されるのか」という疑問への答えは、AIに入力した情報は学習される?無料版・法人版・APIの違いを整理にまとめています。
個人情報保護委員会は、2023年6月2日の注意喚起で、個人データを含む文章を生成AIサービスに入力し、応答の出力以外の目的で取り扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。
そのため、サービスの事業者がそのデータを機械学習に利用しないことなどを、前もって確かめるよう求めています。
契約書には署名者や担当者の氏名が入るので、この確認は契約書でも欠かせません。
取引先との秘密保持契約が外部サービスへの入力を制限している場合は、そちらが優先します。
2つ目は、「伏せる情報の判断」です。
条項の抜けや不利な条項を見るだけなら、社名や担当者名を「A社」「担当者」に置き換えても、レビューはできます。
置き換え方は個人情報のマスキング方法。AIに渡す前に名前や連絡先を伏せる手順を標準の工程にするで説明しています。
3つ目は、「依頼文」です。
次のような文を、契約書の本文の前に置きます。
次の契約書は、当社が発注側になる業務委託契約です。
条項番号を添えて、次の3点を表にしてください。
通常入っているのに入っていない条項/当社に不利になりうる条項とその理由/意味が曖昧で解釈が分かれそうな表現
良し悪しの判断はせず、気になる箇所を挙げるだけにしてください。
契約書の本文は、この下に貼ります。
一度で思いどおりの表が出ないこともあります。
まず試し、出てきた表を見て、観点を足したり絞ったりしながら直していきます。
プロンプトの例はプロンプトテンプレートの例文集。業務でそのまま使える10本と社内での配り方、書き方のコツは全社共通のプロンプト作法を決める。押さえるべき7つの基本にまとめています。
4つ目は、「原文との突き合わせ」です。
AIは、原文にない条項を挙げたり、内容を少し違う形に要約したりすることがあります。
条項番号を添えさせておくと、該当の条項を開いて確かめるのが早くなります。
確かめ方の型はAIの回答をファクトチェックする5分の型。全社の標準動作にするにあります。
5つ目は、「法務への回し方」です。
AIの指摘の一覧は、法務がリーガルチェックのために契約書を読む前に、手元へ置くメモとして渡します。
法務業務全体の型は法務のAI活用を型にする。契約書チェックと法令リスク調査にまとめています。
AIの契約書レビューのサービスを外から契約して使う場合は、弁護士法第72条との関係が論点になります。
法務省は、AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスと同条の関係について、2023年8月にガイドラインを公表し、2026年8月21日にはこれを補う新しいガイドラインを公表しています。
法務省のページに掲載されているので、サービスを選ぶ前に、法務と本文を読んでおきます。
AIに任せる範囲と、人が持つ範囲
手順を決めたら、AIが得意なことと苦手なことの線を、組織で共有しておきます。
得意なのは、網羅的に見て抜けを指摘することです。
この種類の契約に通常含まれる条項が入っていない、条項の内容が一般的な範囲から外れている、といった指摘は精度が出ます。
人が見落としやすいのはまさにこの部分なので、AIと人は補い合う関係になります。
苦手なのは、自社にとって受け入れられるかどうかの判断です。
取引先との力関係、案件の重要度、過去の経緯、社内の方針で決まる内容は、契約書の文面には書かれていません。
つまり導入の設計は、指摘までをAIに任せ、判断は人が持つという切り分けになります。
この線を最初に引かないまま導入すると、法務部門の抵抗が正当なものとして残ります。
位置づけは、一次スクリーニングです。
事業部門から回ってきた契約書を、法務が読む前に1回通します。
法務担当は、「抜けている条項」「注意すべき条項」「前回版との差分」の一覧を手元に置いて読み始めます。
読む時間そのものは大きく減りませんが、見落としが減り、確認の順番が整います。
ただ、この一覧を法務の判断に置き換えてはいけません。
事業部門が一覧を見て「問題なさそうなので進めます」と判断する運用にすると、法務を通さない契約が増えます。
契約書レビューで頼む3つの観点
依頼文に入れる観点は、大きく3つに分けられます。
目的が混ざると結果が散らかるので、何を見たいのかを分けて考えます。
1つ目は、「抜け漏れの確認」です。
秘密保持、期間と更新、解除の条件、損害賠償の範囲、管轄が入っているかを見て、抜けている項目を挙げさせます。
2つ目は、「リスク条項の抽出」です。
無制限の損害賠償、一方的な解除権、成果物の権利の帰属、競業禁止の範囲といった、自社に不利になりうる条項を挙げさせます。
該当箇所と理由は出させますが、判断はさせません。
3つ目は、「差分確認」です。
修正版が返ってきたときに、いちばん役に立ちます。
差分の抽出は機械的な作業なのに、人が最も見落としやすい場所だからです。
「何が変わったか」と「その変更が自社に不利に働くか」を分けて出させます。
最初に試すなら、判断を伴わない差分確認が向いています。
差分確認を業務として回す話はテキストを比較して差分を確かめる方法。WordとGoogleドキュメントで文章と資料の修正箇所を見るで扱っています。
手順3の依頼文は3つの観点をまとめて頼む形でしたが、結果が散らかるときは観点ごとに分けます。
用途ごとに依頼文を分けて用意し、案件の性質に応じて使い分けます。

契約書を入れる前に決める4つ
権限と保管場所の設計は、技術の話より先に決めておきます。
ここがあいまいなまま始めると、あとから回収できなくなります。
1つ目は、「保管場所」です。
個人の手元にダウンロードして処理する運用にすると、退職時に追えなくなります。
所定の保管場所を決めて、そこから読ませる形にします。
2つ目は、「閲覧権限」です。
契約書は社内でも閲覧範囲が限られる文書なので、AIに読ませる仕組みを作るときは、その範囲が契約書の閲覧範囲と一致しているかを確かめます。
ここがずれると、権限管理を迂回する経路ができます。
権限の設計そのものは内製環境の権限設定をどう整えるか。安全と速度を両立させるにまとめています。
3つ目は、「履歴の残り方」です。
入力した内容は、事業者側に一定期間残る前提で考えます。
契約形態ごとの違いは、手順1で触れた記事で確かめられます。
4つ目は、「対象外にする契約」です。
M&Aや人事に関わる契約は、未公表の重要事実を含む場合があるので、扱いを分けます。
ここを最初に除外しておくと後から線を引き直す必要がなくなります。

全種類の契約を一度に対象にするのも避けたほうがよく、取引の基本契約と業務委託から始めます。
作らずにすぐ使える業務アプリ
組織のAIポータル「AI Portalize」には、すぐ使える業務アプリが300以上あり、自社の業務に合わせて手直しして使えます。
契約書の下読みには、契約書チェッカーがあります。
詳しいページで、できることと使い方を紹介しています。
運用ルールに入れる「参考情報」の1行
運用ルールには、次の1行を入れておきます。
「AIの指摘は参考情報であり、契約の可否および条項の受諾は法務および決裁権者が判断する」。
この1行を入れる理由は2つあります。
1つは、事業部門が指摘一覧を根拠に進めるのを防ぐためです。
もう1つは、法務担当を使いやすくするためで、こちらは見落とされがちです。
判断を委ねられたと受け取ると、法務担当はAIを使いません。
責任が自分に来るのに、道具の精度を自分で保証できないからです。
「参考情報」と明文化されていれば、道具として気軽に使えるようになります。

法務部門との合意形成は、困りごとを聞くところから
導入の成否は、法務部門との合意形成で決まります。
推進担当が先に仕組みを作って持っていくと、ほぼ止まります。
順序としては、法務部門の困りごとから入るのが確実です。
案件が滞留する時期はいつか、どの作業に時間がかかっているか、どの種類の見落としが怖いかを聞いてから、用途を決めます。
最初に着手するのは、差分確認です。
判断を伴わない機械的な作業であること、法務担当が最も面倒だと感じている作業であること、精度の検証がしやすいことが理由です。
検証は、過去の案件10件を通して、指摘の当たり具合を法務担当自身が確認する形にします。
納得が得られれば、次の用途に進めます。
推進担当が精度を主張するのではなく、法務担当が自分で確かめる形にするのが要点になります。

法務の負荷を下げる経路はもう1つあります。
事業部門が回す前に、抜け漏れの確認だけを自分で行う形です。
リスク条項の判断まで事業部門に持たせると法務を通さない判断が生まれるので、渡す用途は絞ります。
責任分界を部門ごとに詰める作業
この領域の設計は、技術ではなく、権限と責任の線引きです。
法務部門の体制、事業部門の裁量の範囲、決裁権限の規程、取引先との契約に入っている制約の組み合わせで、どこまでAIに通してよいかが変わります。
汎用のガイドラインをそのまま当てても、実務では使えません。
自社の事情に合わせてガイドラインを組み立てる順番は、生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境に、法務がレビューに入る段取りも含めてまとめています。
当社の業務のAI化を伴走で進める支援では、こうした部門ごとの責任分界を詰めながら、利用ガイドラインの策定と実装まで一緒に進めています。
法務や情報管理の部門と話がかみ合わずに止まっている場合は、進め方の参考になります。
契約書レビューは、指摘までをAIに任せ、判断は法務が持つ
契約書レビューにAIを使うときは、入れてよいAIの確認、情報の伏せ方、観点を決めた依頼、原文との突き合わせ、法務への回付の順に進めます。
位置づけは一次スクリーニングに限り、観点は抜け漏れの確認・リスク条項の抽出・差分確認の3つに分けます。
保管場所、閲覧権限、履歴、対象外の契約種類は、技術より先に決めます。
運用ルールに「参考情報」と1行書くのは、事業部門を止めるためだけでなく、法務担当が道具として使いやすくするためでもあります。
最初の1件は、過去に法務が確認を終えた契約書を選び、AIの指摘と法務の指摘を並べて見るところから始めます。
参照した情報(2026年11月2日に確認)
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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