
法務のAI活用を型にする。契約書チェックと法令リスク調査
2026/09/03
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
法務部門は、AI活用の対象から外されがちです。
「判断が重いから」「間違えたときの影響が大きいから」というのが理由で、この警戒はもっともです。
ただ、判断を任せないという前提を置けば、使える領域は広いというのが実際のところです。
そして法務部門は、たいてい人手が足りていません。
事業部門からの依頼が滞留し、確認のほうが形式的になっていきます。
滞留しているほうがリスクが高いという状況が、実際には起きています。
今回は、法務のAI活用の設計について整理していきます。
職種別に工程へAIを当てる全体像は職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころにまとめてあります。

「使えない」ではなく「設計が必要」なだけ
自社の法務は、なぜAIの対象から外れているのでしょうか?
理由は3つあります。
判断を任せられない点、誤りの影響が大きい点、扱う情報が機密である点です。
契約の可否や条項の受諾は、法務と決裁権者の判断になるので、そこは任せられません。
誤った解釈が業務に流れると、後から取り返せません。
また、契約書、係争の情報、未公表の取引といった機密情報も対象に含まれます。
3つとも正しいのですが、これは「使えない」ではなく「設計が必要」ということです。
判断を任せず、確認の工程を残し、扱う情報の範囲を決める。
ここさえ整えれば、十分に使えるようになります。
扱ってよい情報の線引きは生成AIに入れてはいけない情報とは。社内ルールを3段階で線引きするで扱っています。
契約書チェック・法令リスク調査・研修の3領域
契約書チェックの位置づけは、あくまで一次スクリーニングです。
法務が読む前に1回通し、指摘の一覧を手元に置いておくという使い方になります。
用途は3つあり、まずは抜け漏れの確認です。
秘密保持・期間と更新・解除の条件・損害賠償の範囲・管轄といった、通常含まれる条項が入っているかを見て、抜けを列挙させます。
次がリスク条項の抽出で、無制限の損害賠償や一方的な解除権、成果物の権利の帰属といった不利になり得る条項を抽出します。
該当箇所と理由を挙げさせ、判断はさせません。
もう1つがBefore/After比較で、先方から修正版が返ってきたときの差分確認になります。
実務ではここが最も効きます。
差分の抽出は機械的な作業ですし、人が最も見落とす場所でもあります。
着手はこのBefore/After比較からにするのがよく、判断を伴わず、法務担当が最も面倒だと感じている作業だからです。

法令リスクの調査では、新しい取り組みに関係する法令や規制を洗い出します。
注意点は3つで、出典を必ず求めること、断定させないこと、最新の状況を確認することです。
もちろん、条文の番号や公的な資料へのリンクを求め、出典が示されないものは使いません。
「この取り組みは適法です」という結論は求めず、「確認すべき法令と論点」を挙げさせます。
法令は改正されるうえ、AIが持っている情報が古い場合もあるので、挙がった法令の最新条文を確認する工程を残します。
使い方の位置づけは「論点の洗い出し」で、何を調べるべきかが分かれば調査の効率は上がりますが、結論を出すのは人です。
効果の目安は、論点の洗い出しにかかっていた半日が1時間になる感覚です。

研修と社内周知は、見落とされがちですが効果が出る領域です。
法務部門は社内への周知の役割も持っていて、コンプライアンス研修や規程の周知、契約の基本の説明がそれにあたります。
これが後回しになっている組織は、少なくありません。
やることは3つで、まずは研修資料の作成です。
対象と伝えたいことを渡し、構成と資料を作らせます。
動画からの起こし方は動画を渡すだけで業務が変わる。マニュアル化と書類デジタル化の内製にまとめてあります。
次が理解度を確認する問題の作成で、研修の内容から問題を作らせます。
ここの手間が最も減ります。
最後が事業部門向けの説明の言い換えです。
法務の言葉を業務の言葉に変えるもので、たとえば「善管注意義務」を「通常期待される注意を払う義務」と説明します。
この翻訳が、事業部門との齟齬を減らします。
あわせて、問い合わせへの一次回答の型も作っておきます。
よくある質問への回答の型を用意し、「この契約書は法務に回すべきか」といった判断の目安を示しておきます。
効果は、法務への問い合わせの質が上がることで、事前に整理された状態で相談が来るようになります。
この作業に使える業務ツール「契約書チェッカー」は、詳しいページでできることと使い方を紹介しています。
一次スクリーニングに限定する運用
3領域を通じた原則として、運用ルールに1行を入れておきます。
「AIの出力は参考情報であり、法的な判断および契約の可否は法務および決裁権者が行う。」
これを書いておく理由は2つです。
1つは、事業部門が指摘一覧を根拠に話を進めることを防ぐためです。
「AIが問題ないと言ったので」という運用が、生まれないようにしておきます。
もう1つは、法務担当のほうが使いやすくするためです。
判断を委ねられていると受け取られた時点で、法務担当は使わなくなります。
責任が自分に来るのに、道具の精度を自分で保証できないからです。
「参考情報」と明文化されていれば、道具として気軽に使えます。
後者は見落とされがちですが、導入の成否を分けるところです。

事業部門からの依頼フローを整える
法務の負荷を下げるもう1つの経路が、依頼フローの整備です。
事業部門が法務に回す前に、自分で1回見る形にしておきます。
抜け漏れの確認だけを事業部門に渡すと、明らかな抜けがある契約書が減り、法務との往復も減ります。
ただし、渡す用途は絞ります。
リスク条項の判断は、事業部門に持たせません。
判断が事業部門で行われると、法務を通さない契約が生まれるからです。
依頼のときに書く項目も、決めておきます。
契約の相手・取引の内容・金額の規模・特に確認したい点・希望する回答期限の5つです。
この5項目があると、法務の確認が速くなります。
様式を1枚用意するだけですし、事業部門にとっても何を書けばいいかが決まっているほうが楽です。

使わない領域を明示する
一方で、使わない領域のほうも明示しておきます。
扱わない情報は、係争中の案件・M&Aや組織再編に関わる文書・人事の個別の案件です。
未公表の重要事実を含む文書は、対象外にします。
最初に除外しておくことが大切です。
後から線を引き直すと、すでに入力された分が問題になります。
使わない業務は、訴訟の方針の判断・和解の条件の判断・規程の最終的な文言の決定です。
この一覧を1枚にまとめ、法務部門と合意しておきます。

「ここは使いません」が明示されていると、それ以外は使いやすくなります。
避けたくなる失敗は5つで、判断を任せること、法務に相談せず仕組みを作ること、法令の調査で断定させること、係争中の案件やM&Aの文書を含めること、リスク条項の判断を事業部門に渡すことです。
どれも、参考情報と明文化し、法務と一緒に設計し、出典と最新の確認を工程に残し、最初に除外し、抜け漏れの確認だけを渡せば避けられます。
私たちが提供している組織のAIポータル「AI Portalize」では、法務と一緒に作った型のGemを登録すると全社に公開され、使われた回数が作った人に返ってきます。
判断は任せず、材料をそろえるところまでにする
法務が「使えない」と思われる理由は、判断を任せられない・誤りの影響が大きい・扱う情報が機密の3つです。
3つとも正しいのですが、これは「設計が必要」ということに尽きます。
3領域の使いどころは、契約書チェック、法令リスクの調査、研修と社内周知です。
契約書チェックは一次スクリーニングに限定し、着手はBefore/After比較から。
法令リスクの調査は論点の洗い出しまでにし、出典を求め、断定させず、最新の状況を確認します。
研修と社内周知は見落とされがちですが、理解度の問題作成と法務の言葉の翻訳で効果が出ます。
運用ルールには、「AIの出力は参考情報であり、法的な判断は法務および決裁権者が行う」の1行を入れておきます。
事業部門からの依頼フローは、抜け漏れの確認だけを事業部門に渡し、5項目で依頼の様式を1枚用意します。
リスク条項の判断のほうは、渡しません。
使わない領域も明示します。
係争中の案件・M&Aの文書・人事の個別案件は、最初に除外しておきます。
Before/After比較の面倒さを法務部門に直接聞いた組織ほど、導入の優先順位を外していません。
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執筆:寺田昇平
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