
個人情報のマスキング方法。AIに渡す前に名前や連絡先を伏せる手順を標準の工程にする
2026/09/01
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
個人情報のマスキングは、AIに渡す前に、名前・メールアドレス・電話番号などを別の表記に置き換える作業です。
置き換えたら、元に戻すための対応表を手元に残し、置き換えた文章を人の目で確かめてから貼ります。

ただ、マスキングしても個人情報として扱う場合や、マスキングしても渡せない情報があります。
最終的な判断は、社内の法務や情報システムの部門に確認してください。
個人情報をマスキングしてAIに渡す5つの手順
問い合わせの記録を要約させたい、といった場面を例に、貼る前の作業を順に並べます。
1. 文章の中から、個人を特定できる情報を探す
2. 「[顧客名]」や「A様」のような別の表記に置き換える
3. 置き換えの対応表を、手元に残す
4. 置き換えたあとの文章を、人の目で確かめる
5. AIに貼って処理し、結果を対応表で元に戻す
1つ目は、「探す」作業です。
名前、メールアドレス、電話番号、住所、社員番号や口座番号のような数字の並びを見つけます。
名前が書かれていなくても、「〇〇部の課長」のように特定できる書き方が混ざっていないかも見ます。
2つ目は、「置き換え」です。
置き換え方は2つあります。
「山田太郎様」を「[顧客名]」にする削除の形は、いわゆる伏せ字に近く、いちばん安全です。
「山田太郎様」を「A様」にする仮名化の形は、文章の流れが保たれます。
削除すると文章の構造が崩れて、要約の精度が落ちることがあります。
当社では、まず仮名の形をおすすめします。
例を挙げると、次のようになります。
山田太郎様(yamada@example.com、090-1234-5678)から、料金について問い合わせがありました。
A様([メールアドレス]、[電話番号])から、料金について問い合わせがありました。
3つ目は、「対応表」です。
「A様=山田太郎」という対応を手元に残しておけば、処理が終わったあとに元の名前へ戻せます。
集計だけが目的なら、対応表は作らなくて済みます。
4つ目は、「人の目での確認」です。
ここで見るのは、名前の漏れ、文脈から特定できる記述、数字の並びの3つです。
観点を絞るのは、網羅的に確認させると、それだけで工程が重くなるからです。
5つ目は、AIに貼る作業です。
貼る文章は置き換えたあとのものだけで、元の文章は貼りません。
個人情報を取り除いて渡す形は、「入れない」と決めてAI活用の対象から外すより、使える業務を残せます。
マスキングしても、個人情報として扱う場合
マスキングは、個人情報を取り除く作業に見えますが、法律の上でどう扱われるかは別に考えます。
個人情報保護委員会は、2023年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含む文章を入力するときは、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。
あわせて、本人の同意なく個人データを入力し、応答の出力以外の目的で取り扱われる場合は、法に違反する可能性があるとして、サービスの事業者がそのデータを機械学習に利用しないことなどを確かめるよう求めています。
名前や連絡先を取り除いてから渡すのは、この確認が必要な情報を、AIに渡さずに済ませる方法のひとつです。
ただ、取り除いたつもりでも、文章の中に個人が分かる記述が残っていれば、確認の対象は変わりません。
また、同じ委員会のFAQは、他の情報と照合しなければ個人を識別できないように加工した情報を、仮名加工情報としています。
仮名加工情報は、作った事業者が元のデータを通常持っているので、原則として個人情報にあたるとされています。
一方、特定の個人を識別できず、元に戻せないように加工した匿名加工情報は、個人情報にあたらないとされています。
「A様=山田太郎」の対応表を手元に持つ運用は、元に戻せる状態なので、匿名加工情報にはあたりません。
そのため、マスキングしたから個人情報ではなくなる、とは考えずに、社内の取扱いルールの中に置きます。
個別の案件で、どの扱いになるかは、社内の法務に確かめてから決めます。
自動検出で漏れやすいもの
マスキングを自動で行うツールを使うときは、どこまで頼れるのかを先に知っておきます。
ここを誤ると、そのまま事故につながります。
確実に検出できるのは、メールアドレス、電話番号、郵便番号、社員番号や口座番号のような数字の並びです。
どれも形式が決まっているので、機械的に検出できます。
検出はできても漏れが出るのが、人名、会社名、住所です。
形式が決まっていないので、どうしても漏れます。
いちばん検出が難しいのは、文脈から個人が特定できる記述です。
「〇〇部の課長」「先週入社した人」のように、名前が書かれていなくても特定できてしまいます。
そのため、自動検出だけに頼らず、検出したあとに人が確認する工程を残します。
あわせて、自動では検出できないものを配布物に明示します。
「文脈から個人が特定できる記述は、自動では検出されません。ご自身の目で確認してください」と書き添えます。
ここを書かないと、「ツールを通したから安全」という誤解が生まれます。

人名の検出は、実務でいちばん問題になる部分です。
日本語の人名には、一般的な語とまったく同じ表記の名字もあります。
「〇〇様」「〇〇さん」という敬称がついていれば手がかりになりますが、「田中に確認します」のような記述は途端に難しくなります。
対処は3つあります。
社員の名簿を使う方法、顧客の一覧を使う方法、「様」「さん」「氏」の直前を人名として扱う方法です。
最初の2つがいちばん確実ですが、名簿そのものの管理が新たに必要になります。
「入力した情報は学習されるのか」という疑問への答えは、AIに入力した情報は学習される?無料版・法人版・APIの違いを整理にまとめています。
対応表は、作るかどうかを先に決める
マスキングのあとには、結果を元の情報と対応付ける場面が出てきます。
例えば100件の問い合わせを分類したとき、「料金の問い合わせ」に分類された30件が、実際にどの顧客からのものかを知りたくなります。
対応表を作るなら、決めておくのは3つです。
置き場所は、処理する人の手元にして、外には出さないようにします。
削除の時期は、処理が終わった時点とし、残す必要があるなら閲覧範囲を限定した場所に置きます。
管理する人も含めて、この3つを先に決めます。
もうひとつ、「そもそも対応表を作らない」という選択もあります。
集計だけが目的なら、個人を特定する必要はありません。
「料金の問い合わせが30件」という数字で足りるなら、対応表は要らず、管理の負荷そのものがなくなります。
この判断は工程を作る前にやっておきます。

マスキングしても渡せない情報の区分
工程の前提として、扱う情報を3つの区分に分けておきます。
マスキングすれば何でも渡せる、というわけではないからです。
区分1は、マスキングすれば渡せる情報です。
顧客の名前と連絡先が含まれる問い合わせの記録や、商談の記録が当たります。
個人を特定する情報さえ取り除けば、内容そのものは単なる業務の記録だからです。
区分2は、マスキングしても渡せない情報で、人事評価、健康に関する情報、給与が当たります。
内容そのものが機密だからです。
区分3は、そもそも扱わない情報で、未公表の重要事実や、係争中の案件が当たります。

区分2と区分3は、必ず明示しておきます。
「これはマスキングしても渡さない」という一覧がないと、マスキングの工程が「何でも渡せる魔法」として使われます。
入れてよい情報の線引き全体は、生成AIに入れてはいけない情報とは。社内ルールを3段階で線引きするにまとめています。
人事や採用まわりの型は、人事・採用のAI活用を型にする。スカウトから候補者評価までで扱っています。
作らずにすぐ使える業務アプリ
組織のAIポータル「AI Portalize」には、すぐ使える業務アプリが300以上あり、自社の業務に合わせて手直しして使えます。
文章を貼って個人情報を置き換えるところには、個人情報マスキングがあります。
詳しいページで、できることと使い方を紹介しています。
現場に配る3つと、1分で終わる工程
手順を決めたら、現場に渡す形を決めます。
現場からは「これは、そのまま貼ってよいのか?」という声が上がるので、迷う場面に答えを置いておきます。
配るのは3つです。
情報の区分は、3区分を1枚にまとめ、具体例を各3つずつ添えます。
マスキングの手順は、どのツールをどう使うかに加えて、「自動では検出されないもの」を明示します。
確認の観点は、人名の漏れ、文脈から特定できる記述、数字の並びの3つに絞ります。
「対応表を作るかどうかの判断」も、一行入れておきます。
「集計だけが目的なら、対応表は不要です」という一文を添えます。

配る場所は、業務の動線上にします。
問い合わせ対応の手順書や商談記録の様式といった、探しに行かなくていい場所です。
迷ったときの相談先も、そこに書いておきます。
工程が重いと、そもそも使われません。
マスキングに5分もかかるなら、元の作業を手でやったほうが速いからです。
そのため、文章を貼って、ボタンを押して、結果を確認するだけの、1分で終わる形にします。
この工程は、区分1の業務にだけ適用します。
内製の全体像は社内AIツールの内製化。現場が自分で作れる組織にするまで、内製環境での権限の扱いは現場が作ったツールが業務データに触り始めたら。個人利用と法人利用の境界にまとめています。
CSVまわりの内製解決はCSVの文字化けを直す方法。Excelで0落ちを防いで開く手順と2つのリストの突合、情報漏洩が起きる原因と対策の全体はAIの情報漏洩はなぜ起きるか。事例と、禁止だけに頼らない対策で扱っています。
情報区分を決める部門の合意
ここまでのとおり、マスキングの工程そのものは難しくありません。
難しいのは、その手前にある情報の区分を決めるほうです。
業種、扱う情報の性質、顧客との契約、適用される規制によって変わるので、汎用のガイドラインをそのまま当てはめても実務では使えません。
区分を決めるには、複数の部門の合意も要ります。
法務、情報管理、実際にその情報を扱う部門の、それぞれの懸念を調整します。
「区分1」の範囲をどこまで広げるかが、そのままAI活用の範囲を決めます。
保守的に取りすぎると使える業務が狭まり、広く取りすぎるとリスクが残ります。
当社のAIコンサル&伴走支援では、こうした情報の区分の設計と、それに対応する工程の整備を並行して進めています。
個人情報が絡む業務で止まっている場合は、進め方の参考になります。
個人情報は、取り除いて「入れられる形」にして渡す
AIに渡す前の個人情報のマスキングは、探す、置き換える、対応表を残す、人の目で確かめる、貼って結果を戻す、の5つの手順で行います。
置き換えは、削除より仮名のほうが、文章の構造が保たれて実用的です。
自動検出で確実なのは数字の並びで、人名や会社名、住所は漏れが出ます。
文脈から特定できる記述はいちばん難しいので、人の確認を残し、自動では検出されないものを明示します。
マスキングしても、対応表を手元に持つ運用は個人情報として扱う前提で考え、渡せない情報は区分2と区分3として先に決めておきます。
まずは自部門で、個人情報が含まれるために諦めている業務を1つ挙げ、それが区分1に当たるかを確かめるところから始めます。
参照した情報(2026年11月2日に確認)
すぐ使える業務アプリが300以上
開いてそのまま使えて、AIで自社用にも直せます。15の分野から、やりたい作業で探せます。業務アプリを見る
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
お知らせ・組織AI推進ナレッジ一覧










