
AIの情報漏洩はなぜ起きるか。事例と、禁止だけに頼らない対策
2026/10/24
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
「生成AIからの情報漏洩は、うちの会社でも起きるのか」。
2026年10月の報道のあと、推進担当や情報システムの担当が、社内でこう聞かれる場面が増えていると思います。
2026年10月23日、パナソニック オペレーショナルエクセレンスは、従業員や元従業員、その家族の個人情報を含むデータが、外部の生成AIサービスにアップロードされていたと発表しました。
アップロード先は、同社が「利用を禁止している外部の生成AIサービス」でした。
発表にある人数の内訳を足すと、約33万4千人分です。
発表では、この件は「外部からの不正な操作によるものではなく」、プロジェクトメンバーのルール違反によるものとされています。
AIの情報漏洩というと外からの攻撃を思い浮かべがちですが、社内の人がAIに入れた情報から起きる漏洩は、AIを使う会社ならどこでも起こりえます。
この記事では、AIの情報漏洩が起きる経路と事例を先に見ます。
そのあとで、入力の線引き、設定と契約、禁止だけに頼らない正規の道、ルールの見直し、漏れたときの初動を順に書きます。

AIの情報漏洩は、5つの経路で起きます
一口に情報漏洩と言っても、AIを使うときに情報が外に出る道はいくつかに分かれます。
対策を考える前に、どこから漏れるのかを5つの経路に分けて見ておきます。
入力した情報が残る:社員が入れた文書やデータが事業者の側に保存され、設定によってはAIの学習にも使われる
サービス側の不具合:AIのサービスの不具合で、ほかの利用者の履歴や登録情報が見えてしまう
アカウントの乗っ取り:端末に入ったマルウェアなどでログイン情報が盗まれ、チャットの履歴ごと見られる
プロンプトインジェクション:AIに読ませた文書やWebページに仕込まれた指示に従って、AIが情報を外に出してしまう
社内の過剰共有:「リンクを知っている全員」のように広く共有されたままのファイルを社内のAIが読み、見せるつもりのない人への答えに使ってしまう
「生成AIは情報漏洩のリスクがありますか?」と聞かれたら、あると答えたうえで、5つの経路のどれを自社で防ぐかを話すのが近いと思います。
5つのうち、入力と過剰共有は社内の操作から起きるので、ルールと設定で手を打てる範囲が広くなります。
現場からよく出る「入れた情報は学習されるのか」「ほかの会社の人に見えてしまうのでは」という心配は、最初の「入力した情報が残る」経路の話です。
学習に使われるかどうかは契約の形で変わり、AIに入力した情報は学習される?無料版・法人版・APIの違いを整理で整理しています。
共有の範囲の見直し方は、「リンクを知っている全員」共有を自主監査する。AI活用と情報統制に書いています。
事例:利用が禁止されていた外部のAIに、個人情報がアップロードされました
ここでは、2026年10月に発表されたパナソニック オペレーショナルエクセレンスの件を、発表に書かれた事実の範囲で見ます。
そのあとで、AIの情報漏洩の事例として今もよく引かれる、2023年の3件を短く振り返ります。
発表によると、件が起きたのは、同社が子会社のパナソニック デジタルと進めていた人事情報システムの導入プロジェクトです。
そのプロジェクトメンバーが、同社が利用を禁止している外部の生成AIサービスに、個人情報を含むデータをアップロードしました。
対象は「2026年4月時点の人事情報システムに登録されていたデータの一部」で、どの生成AIサービスだったかは発表には書かれていません。
従業員 約7万5千人、元従業員 約17万8千人:社員番号、住所、電話番号、メールアドレス(氏名は含まない)
従業員の家族 約5万5千人、元従業員の家族 約2万6千人:緊急連絡先として登録された家族の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
発覚の直後に、アップロードしたメンバーは、生成AIのチャット履歴と、業務に使ったPCの中の対象のデータを削除しました。
同社は9月29日に個人情報保護委員会へ報告し、生成AIサービスの運営事業者にも照会しています。
事業者の回答では、アップロードの時点で「データをAI学習に利用する機能」は無効でした。
一方で、利用者が削除しても事業者は削除日から30日間データを保持し、10月25日以降は保持しないとされています。
公開や不正利用による具体的な被害は、発表の時点では確認されていません。
再発防止には、「個人情報の取り扱いルール」と「生成AIサービス利用管理」の見直し、関係者への教育と啓発の強化が挙げられています(パナソニック オペレーショナルエクセレンスの発表)。

2023年の3件は、経路がそれぞれ違います。
まずはサービス側の不具合で、OpenAI は2023年3月24日、3月20日に ChatGPT を止めた経緯を公表しました(OpenAI の発表)。
オープンソースのライブラリの不具合で、一部の利用者に、ほかの利用者のチャット履歴のタイトルが見えていました。
同じ不具合で、特定の9時間に使っていた ChatGPT Plus の契約者の1.2%は、氏名やカードの下4桁などがほかの利用者に見えた可能性があるとしています。
カード番号の全桁は、どの時点でも見えていなかったと説明しています。
次は社員の入力で、2023年5月2日に Bloomberg が、サムスン電子が社員による ChatGPT などの生成AIの利用を禁止したと報じました(Bloomberg の記事)。
社員が機密のコードを ChatGPT にアップロードしたことが分かったため、と記事は伝えています。
社内のメモには、外部のサーバーに送ったデータは取り出しや削除が難しく、ほかの利用者に開示されるおそれもあると書かれていたそうです。
記事の要約には、同社が社内向けのAIツールを準備しているとも書かれています。
もう1件はアカウントの乗っ取りで、セキュリティ会社の Group-IB が2023年6月20日に発表しました(Group-IB の発表)。
2022年6月から2023年5月までにダークウェブの市場で売られていた情報窃取型マルウェアの記録から、ChatGPT のログイン情報が保存された感染端末を101,134台見つけたとしています。
ChatGPT は初期設定で質問と答えの履歴を残すので、アカウントに入られると機密の情報が見られるおそれがある、と注意を促しています。
4件を並べると、パナソニックとサムスン電子の件は社内の人がAIに入れたデータ、OpenAI の件は「サービス側の不具合」、Group-IB の件は「アカウントの乗っ取り」にあたります。
社内の人の入力から起きた2件は、外からの攻撃ではなく、仕事でAIを使った人の操作から起きています。
そのため、会社が打てる手の中心は、何を入れてよいかの線引きと、会社が用意したAIの使われ方を見えるようにするところにあります。
入力してはいけない情報は、3段階で決めておきます
入力から起きる漏洩を減らすには、何を入れてよいかを社員が自分で判断できるようにしておきます。
ここでは要点だけを書き、詳しい線引きは別の記事に送ります。
「AIに入力してはいけない情報は?」と聞かれたとき、禁止の一覧だけを渡すと、項目が増えるほど覚えられなくなります。
「機密情報は入れない」と書くだけでも、手元の資料が機密にあたるのかを現場は判断できません。
扱う情報を3段階に分けておくと、手元の資料をそのまま当てはめて考えられます。
段階1(そのまま入れてよい):公開済みの情報、自分で書いた文章、一般的な調べもの
段階2(加工すれば入れてよい):顧客名や取引条件、社内の数字、個人が特定できる記述(仮名に置き換えるなどしてから使う)
段階3(加工しても入れない):パスワードやAPIキーなどの認証情報、マイナンバーなど、未公開の決算や人事異動、秘密保持契約で預かったデータ
名簿や人事システムから書き出したデータのように、多くの人の個人情報がまとまって並ぶものもあります。
こうしたデータがどの段階に入るかを表の例として書いておくと、「これは加工すればいいのか」と現場が迷わずに済みます。
加工の型や職種ごとの例は、生成AIに入れてはいけない情報とは。社内ルールを3段階で線引きするにまとめています。

学習に使われない設定でも、入れたデータは事業者の側に残ります
入力の線引きと並んで、契約と設定で会社が手を打てる範囲もあります。
法人プランで変わることと変わらないこと、Claude を例にした管理者の設定を順に見ます。
無料の個人アカウントは、入力した内容がサービスの改善に使われる設定が初期値になっているものが多く、会社からは使われ方が見えません。
法人プランでは、入力した内容を学習に使わない扱いが契約で示されているものが一般的で、管理者が利用状況を把握し、退職した人のアカウントを止められます。
ただ、「学習に使われない」と「データがどこにも残らない」は別の話です。
事例の件でも、学習に使う機能は無効でしたが、事業者は削除日から30日間データを保持すると回答しています。
「法人プランだから何を入れてもいい」と受け取られないよう、入れたデータは一定の期間は事業者の側に残る前提で、線引きは契約とは別に持っておきます。
Claude の Team・Enterprise プランでは、外部への共有や社外の人の招待を組織の設定で止められます。
Enterprise なら、送る前に自社の検査をはさむ仕組み(ベータ版)や、監査ログで後から操作を追う手段もあります。
設定の中身は、Claudeに機密情報を入れさせない方法。Team・Enterpriseプランの設定で防ぐに書いています。
残る記録と保存期間は、Claudeに入力した内容は会社で確認できるのか。Team・Enterpriseで残る記録と保存期間で扱っています。
もっとも、どの設定も会社のアカウントの中でしか届きません。
社員が個人のアカウントや、会社が認めていない外部のサービスにデータを入れたときは、検査も記録もかからないので、次の節の話になります。

禁止だけでは、外のAIへの持ち出しは止まりません
情報漏洩の対策というと、まず利用の禁止を考える会社が多いと思います。
もちろん、データの扱いが分からないサービスを禁止するのは必要な手立てです。
ただ、禁止したAIに入れられたときには、会社の設定も記録も届きません。
会社が把握していないAIの使い方は、仕事で使えるAIが手元に無いときや、申請の返事を待つ間に生まれやすいと思います。
「会社のAIでは、このファイルが読めない」「申請したけれど返事が来ない」という声が出ているなら、外のAIが使われ始める手前かもしれません。
そうなると、個人の無料アカウントや、会社が審査していない外部のサービスに、仕事のデータが入っていきます。
手を打つ順番は、正規の道を先に用意して、そのあとで使われ方を見えるようにする流れです。
会社が契約したAIを、使いたい人がすぐ使える形で配る
議事録の要約やメールの下書きなど、よく使う用途の使い方を置いておく
標準とは別のAIを使いたいときの申請を、フォーム1枚と短い返答の期限で受ける
部署ごとの利用率を見て、使われていない所に話を聞く
利用率が低い部署は、仕事でAIを使う場面が少ないのか、外のAIを使っているのかが、数字だけでは分かりません。
数字を入口にして「普段の仕事で、どこにAIを使っていますか」と聞いてみると、正規のAIでは足りない用途が見えてきます。

把握できていない利用の見つけ方は、シャドーAI(野良AI)とは。禁止せずに見える化と正規の道で減らす対策にまとめています。
申請の審査の型は、AIツールの利用申請をどう審査するか。希望者を3層に分けて配るで扱っています。
ルールは、守れる形で書いて、定例で見直します
線引きと正規の道を決めたら、それを社内のルールとして書いておきます。
情報漏洩を防ぐために、ルールに入れておきたいのは次の4点です。
線引き:3段階の表と、職種ごとの例
例外の道:表に当てはまらないときに、誰に聞けばよいか
判断する人:迷ったときに決める部署と担当
見直しの定例:新しいAIや機能が出たときに、どこを直すか
「この資料は入れていいですか」という質問が届く先と、答える人が決まっていないと、現場は自分の判断で入れるか、使うのをやめるかのどちらかになります。
最初からすべての項目をそろえなくても、A4の1枚から配って、届いた質問をもとに足していくほうが守られやすいと思います。
ガイドライン全体の組み立ては、生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境にまとめています。
AIのサービスは機能が増えるのが早く、ルールを書いたときの前提が数か月で変わることもあります。
四半期の定例と、大きな変更があったときの臨時の改定で回すやり方は、AI利用ガイドラインの見直し方。四半期の定例と臨時改定で回すで詳しく書いています。
書いたルールが現場で開かれなくなる原因と、原因ごとの手当ては、AIの社内ルールが形骸化する原因と対策にまとめています。
漏れたと分かったら、まず止めて、範囲と事業者の扱いを確かめます
ルールを整えても、入れてはいけない情報が入ってしまうことはあります。
そのときに慌てずに動けるよう、最初にやることの順番を決めておきます。
1. 止める:入れた人に、それ以上の入力と共有をやめてもらう(乗っ取りが疑われるときは、パスワードを変えてログイン中の端末を切る)
2. 控える:「いつ」「どのサービスの、どのアカウントに」「何を」入れたかを記録に残す
3. 範囲を確かめる:どの情報が何人分含まれていたかを、元のデータと突き合わせる
4. 事業者に照会する:「学習に使われる設定だったか」「削除したあと事業者の側に何日残るか」を聞く
5. 報告する:社内の責任者と関係先に伝え、個人情報保護委員会への報告が要るかを確かめる
事業者への照会は事例の会社も行っていて、学習に使う機能が無効だったことと、削除日から30日間保持されることを確かめ、発表に載せています。
「いつ消えるのか」に答えられると、社内や関係先に説明するときの材料になります。
個人情報保護委員会への報告が要るかどうかは、漏れた情報の種類や人数で変わります。
委員会の漏えい等の対応とお役立ち資料では、報告が要る場合を4つ挙げています。
そこには「要配慮個人情報」が含まれる漏えいや、本人の数が1,000人を超える漏えいが入り、いずれも、そのおそれがある場合を含みます。
同じページでは、速報は発覚から3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的で行われたおそれがある場合は60日以内)とされています。
自社の件が当てはまるかは、法務の担当と一緒に、委員会の案内で確かめます。
事例の会社は、9月29日に委員会へ報告し、本人への通知に代わるものとして10月23日の発表を出しています。
申告した人を責める空気があると、次からは入れてしまったことが報告されなくなります。
「入れてしまったら、すぐ推進チームに知らせる」と先にルールに書き、知らせた人を責めずに一緒に手順を進めるほうが、被害を小さく抑えやすいと思います。

よくある質問
情報漏洩の相談で、推進担当がよく聞かれる質問に短く答えます。
Q. AIに入力してはいけない情報は何ですか?
パスワードなどの認証情報、マイナンバーなど、未公開の決算や人事の情報、秘密保持契約で預かったデータは、加工しても入れないものとして決めておきます。
顧客名や個人が特定できる記述は、「A社」「Bさん」のような仮名に置き換えてから使う、という分け方が現場では使いやすいと思います。
Q. 情報漏洩しないAIはありますか?
どのサービスでも、漏洩の心配がまったく無いとは言えません。
法人プランなら学習に使わない扱いと管理者の設定がそろいますが、入れたデータは一定の期間は事業者の側に残るので、入力の線引きは法人プランでも要ります。
Q. 無料版と法人版では、何が違いますか?
大きな違いは、入力した内容を学習に使うかどうかの扱いと、管理者が使われ方を把握できるかどうかです。
API で使う場合は契約の枠組みが別になることもあるので、最初の節で挙げた「無料版・法人版・APIの違い」の記事で確かめてください。
Q. AIを使って、情報漏れを防ぐことはできますか?
個人情報を自動で見つけて伏せ字にする社内ツールや、Claude の Enterprise で送る前に自社の検査をはさむ仕組みのように、入力を仕組みで確かめるやり方はあります。
ただ、検査でも止められないものがあるので、線引きのルールと、社員への説明と組み合わせて使います。
ルールづくりと、使われ方の見える化は、一緒に進められます
どこまでを禁止し、何を正規の道として用意し、使われ方をどう見るかは、契約しているAIや扱う情報によって答えが変わります。
当社のAIガイドライン作成+定着研修では、生成AIの社内ルールを一緒に作り、社内に定着させる研修まで行います。
また、組織のAIポータル「AI Portalize」では、Gemini と Claude の利用について、部署・職種・グレードごとの利用率と前期比が集計の手間なしで出ます。
会社が用意したAIが、どの部署でどれだけ使われているかを、話を聞く前の材料にできます。
漏れる前に、線引きと正規の道と初動の手順をそろえておきます
AIの情報漏洩は、入力した情報、サービスの不具合、アカウントの乗っ取り、プロンプトインジェクション、社内の過剰共有の5つの経路で起きます。
会社の側で手を打てるのは、入力の線引き、契約と設定、正規の道、使われ方の見える化、漏れたときの初動です。
最初の一歩は、社内で使われているAIの契約の一覧と、入れてよい情報の表を、1枚にそろえるところからだと思います。
その1枚があると、入れてはいけない情報が入ったと分かったときにも、どこに何が入りうるかをすぐに確かめられます。
すぐ使える業務アプリが300以上
開いてそのまま使えて、AIで自社用にも直せます。15の分野から、やりたい作業で探せます。業務アプリを見る
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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