
ナレッジマネジメントとは。古いと言われたやり方を、Gemini NotebookなどのAIで変える
2026/11/03
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
ナレッジマネジメントとは、社員が持つ知識を組織で共有・活用し、新しい知識を生み出しながら経営する考え方です。
「古い」と言われるのはこの考え方ではなく、社員に書いて登録してもらい、人が分類して、キーワードで探すという2000年前後のやり方のほうです。
AIが資料を探して要約できる今は、書いてもらう量を減らし、何をAIに探させるかを人が決める進め方に変わってきています。

社内で提案すると、「前にもやったけれど、誰も書かなくなって終わった。また同じことをするのか?」という声が上がります。
その経験がある組織ほど、どこが変わったのかを先に押さえておく必要があります。
ナレッジマネジメントの意味と、似た言葉との違い
野村総合研究所の用語解説では、ナレッジマネジメントは、知識を共有・活用し、新たな知識を生み出しながら経営することと説明されています。
出発点は、1990年代の初めに野中郁次郎氏が発表した組織的知識創造の理論で、同じ解説では「日本発の経営理論」と紹介されています。
土台にあるのは、言葉にしにくい「暗黙知」と、言葉や数字にできる「形式知」を行き来させながら、組織の知識を増やしていく考え方です。
ナレッジという言葉そのものの意味や、暗黙知・形式知とSECIモデルの中身は、ナレッジとは。ノウハウとの違いと、頭の中の知識をAIで書き残す方法で詳しく扱っています。
似た言葉と並べると、ナレッジマネジメントがいちばん広い言葉になります。
ナレッジ共有は、一人が持つ知識をほかの人が業務で使える形で渡すところを指します。
ナレッジ管理は、集めた知識の置き場所を決め、古いものを直す手入れの仕事です。
ナレッジマネジメントは、その2つに加えて、どの業務に知識を生かし、どう次の知識につなげるかまでを、経営の取り組みとして決めて回すところまで含みます。
共有が止まる理由と、管理と活用を仕組みにするやり方は、ナレッジ共有とは。進まない理由と、チャットに流れた答えをGemでFAQにする仕組みにまとめています。
ナレッジマネジメントのメリット
知識が個人の中にとどまっているときと比べると、組織にとっては次のような良いことがあります。
探す時間が減る
詳しい人の手が空く
異動や退職で知識を失わない
担当が替わっても仕事の水準がそろう
新しく入った人が自分で調べられる
規程や過去の提案書を探し回る時間が減り、詳しい人に同じ質問が集まらなくなります。
人が抜けても知識が組織に残るので、同じ仕事を担当者が替わっても同じ水準で進められます。
もうひとつ、ほかの部署の事例や判断の理由が見えるようになると、それを組み合わせて新しい提案ややり方が生まれることがあります。
野中氏の理論が「知識を生み出す」ところまでを含めているのは、この部分です。

ただ、どのメリットも、集めた知識が業務の中で使われたときにしか出てきません。
登録した件数がいくら増えても、使う人が見つけられなければ、探す時間も質問の数も減りません。
ナレッジマネジメントが「古い」と言われる理由
「ナレッジマネジメントは古い」と言われる背景には、2000年前後に多くの企業が取った進め方があります。
当時の報告書を読むと、何がうまくいかなかったのかが具体的に分かります。
2002年3月に日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がまとめた研究部会の報告書では、当時の事例の大半が「情報共有・活用」型で、グループウエアやイントラネットを入れて仕組みにしたケースが多かったと書かれています。
発表されている事例は「構築した」「開始した」が中心で、効果はまだ分からず、専門誌の調査ではあまり良い結果が出ていないようだ、とも書かれています。
同じ報告書は、ナレッジマネジメントを入れたときの問題を、大きく3つに分けています。
効果が上がっていない、分からない
価値のあるナレッジがない、どこにあるか分からない
業務の中に位置づけられていない
1つ目は、目的がはっきりしない、効果を測れない、経営の方針と合っていない、という問題です。
2つ目は、分類・整理されていない、古くなっている、集まらない、使いにくい、という問題で、3つ目は、使い方が決まっておらず、仕事の流れに結び付いていない、という問題です。
報告書は、仕組みを作ったりIT化したりするだけではうまくいかないとしたうえで、知識を選び、分類し、整理し、更新する専任のチームを置くよう勧めています。
つまり当時のやり方は、社員が書き、専任の人が分類と更新を受け持ち、使う人がキーワードで探すという、人手のかかる形でした。
書く人も分類する人も本来の仕事とは別に時間を取られるので、続けるのが難しかったのは無理もないと思います。

野村総合研究所の解説も、欧米では情報システムを入れる「知識管理」として広まったものの、それは本来の知識経営とは言えないとしています。
一言でいうと、古くなったのはシステムに登録させる進め方で、知識を組織で生かすという考え方そのものではありません。
AIで変わった、記録の集め方と探し方
2000年前後に人手が足りずに止まったところの一部は、今はAIが受け持てるようになりました。
集めるところでは、ナレッジを改めて書き起こさなくても、仕事の中でできた記録が材料になります。
Google Meet の自動メモ生成を使える環境なら、会議の要約・決定事項・次のステップ・詳細がGoogleドキュメントにまとまります。
そのドキュメントは、主催者のドライブとカレンダーの予定に残ります。
整えて探すところでは、分類やタグを人が付けなくても、AIが質問の意味から資料の近い箇所を探して答えます。
Gemini Notebook(旧NotebookLM)のヘルプでは、チャットの回答には入れた資料(ソース)に含まれているデータだけが使われると説明されています。
答えに付いた引用を選ぶと、資料の該当箇所に移れます。
例えば、キーワードの検索では、「在宅勤務」と書かれた規程を「リモートワーク」で探しても出てこないことがありました。
意味から探す仕組みなら、言葉が違っても近い箇所にたどり着けます。
質問に合う箇所を探してから答える仕組み(RAG)の中身は、社内文書をAIで検索する方法。RAGの仕組みと、作らずに始めるやり方で詳しく見ています。
直すところも軽くなりました。
Gemini Notebook の別のヘルプでは、Googleドライブから入れた資料は自動で更新され、数分ごとに同期されるとあります。
正本のドキュメントを直せば、ノートブックに入れ直さなくても、次の答えから新しい中身が使われます。

もちろん、AIが受け持てるのは、探して要約するところまでです。
Gemini Notebook のヘルプも、生成された回答は必ず確かめるよう求めています。
AIを使っても人が決めておく5つ
JUASの報告書が挙げた問題のうち、「目的がはっきりしない」「仕事の流れに結び付いていない」の2つは、道具が変わっても同じように起きます。
AIに探させる前に、人が決めておくのは次の5つです。
何の業務に使うか
入れてよい資料か
どれが正本か
誰に見せるか
誰が確かめるか
使う業務は、同じ質問がよく届く業務や、新しく入った人がつまずく業務のように、効果を見られるものを1つに決めます。
入れる資料は、顧客の情報や人事の資料が混ざっていないか、会社が使ってよいと決めているAIかを確かめます。
どの資料まで入れてよいかの最終的な線引きは、社内の情報システムの担当や法務に確かめてください。
同じ規程の古い版が混ざっていると、AIは古いほうをもとにした答えも返すので、正本を1つに決めておきます。
作ったノートブックを共有する相手は社内の人だけにし、社外の人が開ける共有のしかたは、できる場合でもおすすめしません。
中に入れた資料を、社外の人に読まれるおそれがあるためです。
共有の手順は、Gemini Notebook(旧NotebookLM)の共有方法。社内で使える状態にするまでにまとめています。
確かめる人は、答えの出典を開いて確かめる人と、答えられなかった質問を集めて資料を足す人の両方を決めます。
とくに抜けやすいのが、どの業務に使うかを決めるところです。
「全社の知識を集めよう」と始めると、AIのノートブックは作れても、誰がいつ使うのかが決まらないまま、一部の部署でしか開かれなくなります。
こうした止まり方の原因と対策は、課題のページ「社内の資料に答えるAIを作っても、全社で使われない」に整理しています。

AIを前提にしたナレッジマネジメントの始め方
JUASの報告書も、完全な仕組みを最初から作るのは難しく、できるところから走り出して直していく進め方を勧めています。
その順番は今も変わりません。
1. 同じ質問が何度も届いている業務を1つ選び、届いた質問をそのまま一覧にする
2. 規程・手順書・議事録・過去の回答など、今ある資料を集め、正本と古い版を分ける
3. 資料をAIに入れ、一覧の質問をそのまま聞いて、答えと出典を確かめる
4. 答えられなかった質問は、詳しい人に聞いて資料に書き足す
5. 問い合わせの件数や、答えるまでにかかった時間が変わったかを見て、次の業務に広げる
以前のやり方との違いは、社員に書いてもらうのが、AIが答えられなかった所だけになる点です。
書く量が減るので、「書く時間がない」で止まった組織でも始め直しやすくなります。

使うAIの選び方と、AIに入れてよい文書の区分は、社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方にまとめています。
効果を見る数字を、経営の方と先に決める
2002年の報告書が最初に挙げた問題は、「効果が上がっていない、分からない」でした。
効果を見る数字が決まっていないと、AIを使っても同じところでつまずきます。
AI活用の伴走支援では、問い合わせの件数や、新しく入った人がひとりで対応できるまでの期間のように、何が減れば成功と言えるかを経営の方と先に決めます。
そのうえで、最初に取り組む業務とAIに入れる資料を、現場の方と一緒に選んでいきます。
ナレッジマネジメントは、AIが答えられなかった質問から始め直す
知識を組織で共有・活用し、新しい知識につなげるというナレッジマネジメントの考え方は、1990年代から変わっていません。
変わったのは、書いて、分類して、探すという作業の多くを、AIが受け持てるようになった点です。
人が手をかけるのは、どの業務に使うかを決め、入れる資料を選び、AIが答えられなかった所を書き足すところに絞られてきています。
「誰も書かなくなった」で終わった組織ほど、AIが答えられなかった質問を数えるところから始め直すことをおすすめします。
参照した情報(2026年10月29日に確認)
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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