
事前チェックを経営リスク管理に組み込む。炎上・法的問題の早期検知
2026/09/17
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
対外的な発信や資料で問題が起きたとき、その多くは現場で止められたはずのものです。
止められなかった理由は、「確認する仕組みがなかった」か「確認する人の時間がなかった」かのどちらかです。
起きてから対応するコストは、防ぐコストの何十倍にもなります。
今回は、リスクの事前チェックをAIに担わせながら、それを経営のリスク管理に組み込む設計について書いていきます。
推進担当の情報収集と経営判断の全体像はAI推進担当者の情報収集と経営判断。リサーチとROIの設計にまとめてあります。

リスクは現場で止められる
問題は、どの段階で起きるのでしょうか?
作成者が気づかない(自分の文章の問題は、自分では見えません)/レビューでも気づかない(同じ前提を共有しているので、外の視点が入らない)/そのまま公開される、の3段階です。
最初の段階で止まれば、書き直すだけで済むので、コストはゼロです。
2段階目で止まった場合もコストは小さく、差し戻して直せば済みます。
ただ、公開まで行くと、そこからは取り返せません。
削除しても記録は残りますし、削除したこと自体が別の問題になることもあります。
だから、作成者の段階に工程を置くのが、最も費用対効果が高いことになります。
リスクの事前チェックは3つの観点に分ける
確認する観点は、炎上のリスク(読み手によって不快に受け取られる表現で、属性への言及、断定的な優劣、時事的な話題との距離)/法的な問題(表示の規制、他社の権利、契約への抵触、業種固有の規制)/表現のリスク(誤解を招く記述、根拠のない主張、断定してよくないことの断定)の3つに整理できます。
この3つは、それぞれ性質が違います。
炎上のリスクは判断が分かれるもので、何が問題になるかは時期によって変わっていきます。
法的な問題には法令や規制という基準があるものの、専門的な確認が必要になります。
表現のリスクには、機械的に検出できる部分があります。
だから、表現のリスクを先に潰して、人は前の2つに集中するというのが工程の設計になります。

観点ごとに、確認のやり方が変わる
観点ごとに、確認のやり方はどう変わるのでしょうか?
炎上のリスクでは、厳しい読み手を想定して指摘を出させます。
「この文章に不快感を持つ可能性のある読み手を想定して、該当箇所と理由を挙げてください」という形で依頼します。
上位3件に絞るのが要点で、指摘が多すぎると使われなくなります。
理由も一緒に出させるのは、なぜ問題になるのかが分かれば、直すかどうかを人が判断できるからです。
特に時事的な話題には注意が要り、何がいま議論されているかは常に変わっていきます。
過去に問題になった事例を反映すると、精度が最も上がります。
自社、あるいは同業で実際に起きた事例を材料として渡すということです。
画像のほうも、別に確認します。
文章に問題がなくても、画像が問題になることがあるからです。
炎上リスクをスコアで見る具体は炎上リスクを公開前にスコアで見る。広報リスク管理の実装にまとめてあります。
法的な問題では、関係する規制と確認すべき論点を洗い出します。
ここでは、結論を求めません。
「これは適法です」という判断まではさせず、「この記述について、確認すべき法令や規制を挙げてください」という形にして、条文の番号や公的な資料といった出典を必ず求めます。
最新の状況を確認するのは、法令は改正されるので、挙がった規制については現在の内容を見直す必要があるからです。
業種によっては表示や広告に固有の規制があるので、該当する場合は法務か専門家への確認を省けません。
AIの役割は、あくまで論点の洗い出しまでになります。
表現のリスクでは、根拠のない主張(「業界No.1」「最も効果がある」)/断定してよくないことの断定(法令、医療、税務の解釈)/数値の誤り(出典との不一致)/他社への言及(事実に基づいているか)/誤解を招く記述(一部の事実を強調して、全体の印象を変える記述)の5項目を置いておきます。
なかでも誤解を招く記述が、最も判断を要する項目です。
「事実は合っているのに、印象がずれている」という状態だからです。
もっともリスクが高いのは根拠のない主張で、表示の規制に触れる可能性があります。
前の4つは機械的に検出できるので、そのぶん人が確認する時間が短くなります。
根拠そのものの揃え方は発信に根拠を持たせる。PR・SEO・記事の裏付けデータを揃えるで扱っています。

対象は公開・新訴求など4条件、エスカレーションは3段階で判断する
まず、どこまでを対象にすればいいのでしょうか?
必須にするのは、一般に公開されるもの(Webサイト、SNS、プレスリリース)/新しい訴求を含むもの/時事的な話題に触れるもの/業種固有の規制の対象になるもの、の4条件です。
逆に、社内の文書、既存の内容の踏襲、定型の連絡は必須にしません。
なかでも業種固有の規制の対象になるものは、必ず入れておきます。
業種によって規制の対象になるものが違ってくるからです。
対象外を明示するのも要点で、すべてに課すと工程が重くなって、結局は飛ばされてしまいます。
対象の一覧は四半期に一度見直して、新しい形式の発信が増えたら追加していきます。
公開前チェック全体の型は公開前チェックをAIに任せる。機密混入・炎上・顧客視点の事前検知にまとめてあります。

判断のほうは、3段階に分けておきます。
段階1は作成者が直すところで、表現のリスクで検出された項目と明らかな問題です。
段階2は広報か法務に確認するところで、炎上のリスクで判断が分かれる項目と、法的な問題に該当する可能性がある項目です。
段階3が経営に報告するところで、判断が難しい/影響が大きい/既に公開されてしまった、という場合です。
段階3の基準は、明示しておきます。
「法的な問題の可能性がある」「社外から指摘を受けた」「削除や訂正が必要」「報道される可能性がある」、といった条件です。
報告の期限は「気づいたら即座に」としておきます。
遅れれば遅れるほど、対応そのものが難しくなるからです。

「報告しても責めない」と明示しておくのが最も重要で、報告されないと対応が遅れて被害のほうが広がります。
複数の目で見る工程そのものは公開前レビューを複数の目で行う。ペルソナ別レビューを工程に入れるで扱っています。
起きたあとは記録が先、年次の見直しは検出漏れの理由を見る
予防と同時に、事後の設計も要ります。
決めておくのは、誰に報告するか/誰が対応の方針を決めるか/どう対応するか(削除、訂正、説明と、その順序)/記録をどう残すか、の4つです。
なかでも対応の順序が重要で、削除する前にまず記録を残しておきます。
後から経緯を追える状態にしておかないと、説明そのものができなくなるからです。
もちろん、削除が最善でない場合もあり、訂正して残すほうが誠実に見える場面もあります。
そのうえで、対応の方針は経営が決めます。
現場に判断を委ねると、隠す方向に動く可能性があるからです。
年次の見直しでは、検出された件数(観点ごとに)/段階2に上がった件数/公開後に問題になった件数と、検出されなかった理由/自社と同業で起きた事例の4つを見ます。
なかでも重要なのは公開後に問題になった件数で、検出されなかった理由が、そのまま観点の穴を示すことになります。
同業で起きた事例からは、観点そのものを追加します。
同じことが、自社でも起き得るからです。
検出が多すぎる観点については、基準のほうを絞ります。
過検知が多いと、指摘そのものが無視されるようになってしまうからです。
逆に段階2に上がる件数が少ない場合は、判断が必要なものまで作成者が段階1で処理してしまっている可能性があります。

現場で起きやすい失敗は、「気をつけましょう」で済ませる/すべての成果物に課す/結論を求める/業種固有の規制を把握していない/段階3の基準を明示しない/「報告しても責めない」と明示しない/画像を対象に含めない、の7つです。
どれも観点を3つに分けて、対象を明示して、論点の洗い出しまでにして、規制を把握して、基準を書いて、責めないと明示して、画像も別に確認すれば避けられます。
ガバナンス設計を実務レベルで整える
確認の観点と工程そのものは、ここまで書いてきたとおり設計できます。
難しいのは、それを実務で機能させる組織の設計のほうです。
もっとも難しいのは、段階2の設計です。
広報と法務が確認する体制、両者の役割の分担、確認の期限を守れる体制が要ります。
また、広報と法務の負荷を増やさない形にする必要があり、すべてを見る形にすると、そこで詰まります。
さらに業種固有の規制の把握も要ります。
何が規制の対象になるかは業種によって違いますし、法令の改正も追う必要があるからです。
事後の対応の設計も残ります。
起きてしまった場合の判断の経路と、責任の所在は経営の判断になるからです。
この設計は、推進担当だけでは決められません。
広報、法務、経営という三者の合意が要る領域だからです。
社内ルールそのものの作り方は生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境にまとめてあります。
私たちが提供しているAI導入支援では、こうしたガバナンスの設計を実務レベルで整えるところから進めています。
「観点は分かるが、体制が組めない」という状態の場合は、進め方の参考になるかもしれません。
リスクは、作成者の段階で止めるのが最も安い
リスクは、現場で止められます。
作成者が気づく段階で止まればコストはゼロで、公開まで行くと取り返せなくなるので、作成者の段階に工程を置きます。
観点は、炎上のリスク/法的な問題/表現のリスクの3つです。
炎上のリスクは判断が分かれ、過去に問題になった事例を反映すると精度が最も上がります。
法的な問題は結論を求めず論点の洗い出しまでにして、業種固有の規制を把握しておきます。
表現のリスクは機械的に検出でき、根拠のない主張が最もリスクが高い項目です。
表現のリスクを先に潰して、人は前の2つに集中する形にします。
対象は、一般に公開されるもの/新しい訴求/時事的な話題/業種固有の規制の対象の4つで、対象外を明示しておくのが要点になります。
判断は、作成者が直す/広報か法務に確認する/経営に報告する(その基準を明示しておく)の3段階です。
「報告しても責めない」と明示するのが、この設計の中では最も重要な一点です。
起きてしまった場合の設計も必要で、削除する前に記録を残す/削除が最善でない場合がある/対応の方針は経営が決める、の3つを押さえます。
年次の見直しでは、公開後に問題になった件数と、そこで検出されなかった理由が最も重要になります。
同業で起きた事例からは、観点そのものを追加していきます。
自社の対外発信について、対象にすべきものの一覧を作ることが、最初の一歩です。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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