
「あったら便利」を1日で形にする。現場発ツールの作り方と社内配布
2026/08/28
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
社内には、依頼するほどではないが面倒な作業が大量に残っています。
長い動画を分割する、PDFを画像に変換する、操作の録画から手順書を作る。
どれも数分から数十分かかり、しかも繰り返し発生します。
「依頼するほどではない」と判断されて、そのまま放置され続けます。
今回は、ノーコードで社内ツールを開発して、この領域を形にしていく話を書いていきます。
内製化の全体像は社内AIツールの内製化。現場が自分で作れる組織にするまで、入口の設計は現場が業務ツールを自分で作れる組織になる。内製化の入口設計にまとめてあります。

小さな不便は、放置され続ける
なぜ放置されるのでしょうか?
理由は3つあります。
「1回10分の作業を自動化してください」という依頼はそもそも出しにくく、依頼する側が遠慮してしまいます。
そのため、依頼の基準に届きません。
個人がそれぞれ我慢していて、組織として何人が困っているのかが見えないのが、2つ目の理由です。
ただ、「そういう作業なのだ」とそもそも受け入れられてしまっていることも、解決できると思われていない理由になります。
2つ目の理由、つまり誰の困りごとかが見えない点が、いちばん損失が大きいはずです。
同じ作業を10人が我慢していれば合計の時間は相当な量になりますが、1人あたりで見ると小さいので問題として見えてきません。
だから、まず「作ってみて、配ってみる」ことから始めます。
実際に配ってみて初めて、何人がそれを使うのかが分かるからです。
3つの実例は、動画の分割、PDFの変換、マニュアルの生成
どれくらいの規模で作ればいいのでしょうか?
具体的な例を3つ書いておくと、どれも1日あれば作れる規模のものです。
まずは動画の分割です。
1時間の会議の録画を議題ごとに分けたいけれど分割には専用ソフトが必要で、そのソフトが入っておらず困っていました。
作ったのは、ブラウザで動く、動画を指定した時間で分割するツールです。
分割の作業が数分で終わるようになり、ソフトの導入申請そのものが不要になりました。
予想外の効果もあり、分割できるようになったことで、長い会議の録画を要約に回せるようになりました。
分割が障壁になっていたので、そもそも録画を活用していませんでした。
この「予想外の効果」こそが、小さいツールの価値です。
障壁が1つ消えると、その先の業務が動き出します。
次がPDFの画像変換です。
PDFの各ページを画像にして、資料に貼ったり確認用に共有したりしたいのに、それができず困っていました。
作ったのは、PDFを読み込んで全ページを画像にして、一括で保存するツールです。
1ページずつ変換していた作業が、これで1回で終わるようになります。
ここでは「データが外に出ない」ことが重要でした。
外部のサービスで変換すると社内の資料を外に送ることになりますが、ブラウザ内で完結する形ならその懸念がありません。
この「外に出さない」という要件こそが、内製の価値です。
既存のサービスがあっても、社内の資料を扱えないことがあるからです。
もうひとつが操作動画からのマニュアル生成です。
操作の手順書を作りたいが、書くのに時間がかかって困っていました。
作ったのは、操作の録画を読み込んで手順の形に整理するツールで、手順書1本の作成が2時間から30分になります。
「作られていなかった手順書が、作られるようになった」。
これが実質的な効果で、時間の削減よりやれていなかったことができるようになるほうが、価値としては大きいはずです。
「これはどうやるんですか」という質問について手順書があると質問そのものが減るので、問い合わせも減りました。
動画を起点にした内製は動画を渡すだけで業務が変わる。マニュアル化と書類デジタル化の内製にまとめてあります。
サイクルは、作る→配る→改善するの1〜2週間で回る
3つの実例に共通する進め方は、何でしょうか?
まず自分の困りごとを1つ選びます。
他人のためではなく自分のためで、自分が使うものは使い勝手が分かります。
機能を足さず「動画を分割する」だけに絞って、1つの用途だけで作ります。
自分で1週間使ってみると、使いにくい点が見つかります。
チーム内、5〜10人ほどの口頭で使い方を伝えられる範囲に配ります。
使ったか、使いにくい点はあるかを聞くと、想定していなかった使い方が見えてきます。
直して部門に配るところまで、この一連のサイクルは1〜2週間で回ります。
機能を足さないことがいちばん重要で、足してしまうと完成が遠のいて結局は配れなくなります。

配布の段階で決めることも5つあります。
まず、何ができるかを「動画を指定した時間で分割します」のように1行で書きます。
何を入れれば何が出るのかが伝わる使い方の例を1つ添えないと、そもそも試されません。
質問先は作った本人でよいので名前を書いておき、問い合わせ先が書かれていないツールは使われません。
想定する職種も「営業向け」「事務向け」のように書けば、自分に関係あるかを判断できます。
完成度も「試作です」「安定して使えます」のように明示しておきます。
完成度の明示がいちばんの要点で、作り手は自分のツールが荒いことを自覚しているぶん、「試作」と書ける形にしておくと配れるようになります。
配布と権限の設計そのものは現場が作ったAIツールを埋もれさせない。社内配布と権限の設計で扱っています。

作り手は、孤立しない体制があってこそ続く
続けるための設計は、どこまで要るのでしょうか?
月1回・10分の共有の場を作ると、作った人が何を作ったかを話せて、「それ欲しい」という声が次を作る動機になります。
詰まったときに聞ける先を1本に絞っておきます。
複数あると迷って、結局聞かなくなるからです。
利用回数を作り手に見せて「30人が使っている」と分かれば、続けるきっかけになります。
また、四半期に一度、作成者ごとの作成数と累計の利用回数を上司に渡すと、実績が評価コメントに載るようになります。
推進担当が自分の荒いツールを最初に配ります。
整ったものだけが並んでいる場所に、現場は自分のものを載せないからです。
この5つのうち、最後の推進担当が自ら配る動きが地味に効きます。
「これくらいの完成度でいいんだ」と分かると、途端に配りやすくなるからです。

従業員300名の企業では、依頼が月10件から3件に減った
実際にどう変わったのでしょうか?
もともとは、情シスへの依頼が月に10件程度あって、対応できるのは2〜3件ほどでした。
残りは順番待ちか、そのまま流れていた状態でした。
「依頼するほどではない」作業のほうは、そもそも依頼すらされていませんでした。
各部門から1人ずつ、面白がって触る人を選んでもらい、自分の業務の困りごとを1つ形にしてもらいました。
5部門で5本、期間は1か月でした。
あわせて、作ったものを見せる10分の場を月1回設定しました。
3か月後には、作られたツールが18本まで増えていました。
現場が自分で作るようになり、情シスへの依頼は月3件まで減りました。
予想外だったのは、作られたツールのうち他部門でも使われたものが7本あったことです。
同じ困りごとが複数の部門にあったためで、共有の場がなければそれぞれが別々に作っていたはずです。
1本作ってそれで満足し、「作らなくなった人」もいました。
もちろん、続けるかどうかには個人差があるので、全員に期待しないほうがよいはずです。

表記チェックの自動化は対外文書の表記ルールを機械的にそろえる。チェックの自動化にまとめてあります。
カタログ化と利用回数の見える化が、資産に変える
作って配るところまでは、1〜2週間で回ります。
難しいのは、それが全社の資産になるかどうかのほうです。
300名の事例で「他部門でも使われたものが7本」あったのは、共有の場があったからです。
場がなければ、それぞれの部門が別々に同じものを作っていたはずです。
共有の場だけでは、足りません。
月1回・10分の場に出られなかった人には届きませんし、新しく配属された人には過去に作られたものが伝わっていないからです。
いつでも探せる状態になっている必要があります。
職種別に一覧があって、そこから探せます。
利用回数が見えていて、それが作り手に還元されることも必要です。
カタログ化そのものの設計は共有したのに使われない。社内AI資産をカタログ化するにまとめてあります。
当社の組織のAIポータル「AI Portalize」でも、社内で作ったGemやCanvasアプリ、GASのWebアプリを登録すると全社に公開され、使われた回数や使った人数が作った人に返ってきます。
作られてはいるが横に広がらない状態で止まっているなら、考え方の参考になるかもしれません。
小さな不便は、まず1つ作って配るところから消える
小さな不便が放置されるのは、依頼の基準に達しない、誰の困りごとかが見えない、解決できると思われていない、の3つが原因なので、まず作ってみて配ってみます。
実例に共通する価値は、時間の削減だけではありません。
障壁が消えると、その先の業務が動き出します。
動画の分割ができると録画を活用できるようになります。
外に出さないことが要件になり、社内の資料を扱えるようになります。
やれていなかったことができるようになって、手順書が作られるようになります。
一言でいうと、小さく作って早く配るほど、不便は消えていきます。
サイクルは、自分の困りごとを1つ選ぶ→1つの用途だけで作る→自分で1週間使う→チーム内に配る→反応を聞く→部門に配るの並びで1〜2週間で回り、「機能を足さない」がいちばん重要です。
配布時に決めるのは、何ができるか、使い方の例、質問先、想定職種、完成度を明示することの5つで、「試作」と書ける形にしておきます。
作り手が孤立しない体制は、月1回の共有の場、窓口を1本に、利用回数を作り手に見せる、上司に実績を共有、推進担当が自分の荒いツールを最初に配る、の5つです。
全員に続けてもらえるとは期待せず、1本作って満足する人がいるのも当然です。
月に何度も発生している面倒な作業を1つ書き出せば、最初につくるものはもう決まっています。
すぐ使える業務アプリが300以上
開いてそのまま使えて、AIで自社用にも直せます。15の分野から、やりたい作業で探せます。業務アプリを見る
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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