組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

商談内容を全社の資産にする。文字起こし→要約→記録の自動化

商談内容を全社の資産にする。文字起こし→要約→記録の自動化

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

商談で得られた情報は、組織にとって最も価値のある情報の1つかと思います。
ところが、顧客が語った課題、競合の状況、予算の感覚、決裁の構造といった情報は、担当者の頭の中にしかありません。
営業支援のシステムに入力されているのは、たいてい案件の進捗と金額だけです。

「顧客が何に困っていると語ったか」は、記録されていない組織が多いです。
今回は、商談の文字起こしから記録までの自動化を整理していきます。

商談の記録を自動化する3つの工程。録画して文字起こしを取る、文字起こしから決められた項目を抽出する、抽出した内容を表に記録して関係者に通知するを示した図。設計の本体は工程2

会議と議事録の全体像は会議と議事録のAI化。準備から共有・タスク化までの設計にまとめてあります。

商談の中身は、なぜ記録されないのか

商談の中身は、なぜ記録に残らないのでしょうか?
記録されない理由は、入力の手間が大きいこと、何を書けばいいか決まっていないこと、書いても使われないこと、の3つです。

入力の手間が大きく、商談のあとに記録を書く時間が取れないまま、もう次の訪問が始まっています。
何を書けばいいか決まっておらず、記録の項目が「商談メモ」の自由記述だと、書く内容が人によって違ってきます。
書いても使われないと、自分が書いた記録を誰も読んでいないと分かった時点で書く動機が消えます。

ただ、手間は自動化で解決しますし、項目が決まっていない問題は設計で解決します。
最も難しいのは、書いても使われないという部分のほうです。

3工程を自動化して、7項目を記録する

構成は、文字起こし・要約・記録と通知の3工程です。

オンラインの商談を録画して文字起こしを取る工程1は、録画の機能で自動的に作られる環境ならそのまま自動になります。
文字起こしから決められた項目を抽出する工程2が、設計の本体になります。
抽出した内容を表に記録して、関係者に通知するところまでが工程3です。
工程1と3は仕組みの話なので、難しくありません。

対面の商談は工程1が変わり、録画がないので担当者が口頭で話した内容を使うことになりますが、もちろん移動中に音声で残す形にすると負担は小さくなります。

工程2で抽出する項目は7つです。
相手が課題として語ったこと(そのままの言葉で残す)、こちらが約束したこと(提出物、回答の期限)、次のアクション(誰が・何を・いつまでに)、競合の状況(他に検討しているもの、比較されている点)、予算(費目・規模・確定の時期を、分かった範囲で)、決裁の構造(誰が決めるか、いつ決めるか)、聞けていない項目(ヒアリング項目のうち、まだ聞けていないもので、次回の準備に直結します)になります。
課題として語られた言葉と聞けていない項目の2つが、従来の営業記録には入っていない項目で最も価値があります。

商談から抽出する7つの項目。課題として語られた言葉と聞けていない項目の2つが従来の営業記録に入っていない項目で最も価値があり、ほかに約束したこと、次のアクション、競合の状況、予算、決裁の構造がある

ヒアリング項目そのものの設計は商談の質を組織で引き上げる。AIでヒアリング設計を仕組みにするにまとめてあります。

課題は「そのままの言葉で」残す

顧客が語った課題を要約してしまうと、そこで情報が失われます。
「業務効率化に課題」と要約されたものからは、何も読み取れません。

一方で「毎月の請求書の突合に、経理の2人が3日かかっている」という言葉は、要約せずにそのまま使えます。
使いどころは、提案の中で相手の言葉を使う、営業資料の素材にする、顧客像の言語化に使う、の3つです。
もっとも価値があるのは顧客像の言語化のほうで、集めた言葉を並べるだけで顧客像の解像度が上がりますし、想像で作ったペルソナより精度が高いからです。

だから抽出の指定には「相手の発言をそのまま引用してください」と入れておきます。
要約させない、これが要点になります。

顧客が語った「毎月の請求書の突合に、経理の2人が3日かかっている」という言葉を要約せずに残す例。要約すると何も読み取れないが、そのままなら提案・営業資料・顧客像の言語化に使え、顧客像の言語化が最も価値がある

顧客像の作り方そのものは顧客像の解像度を組織でそろえる。AIでペルソナを共通言語にするで扱っています。

通知は目的で分け、機密の扱いは先に決める

誰に、何のために届けるのでしょうか?
工程3の設計は、「書いても使われない」という問題への対処でもあります。

まず通知先を決めておきます。
上司、チームのメンバー、関連する部門といったところです。

「何のために見るか」も、あわせて決めておきます。
上司は支援の判断のため、チームは類似案件の参考のため、マーケティングは顧客像の更新のためです。
目的が違えば見る項目も違うので、上司には次のアクションと決裁の構造を、マーケティングには課題と競合の状況を届け、通知の内容そのものを分けます。
全項目を全員に送るのではなく、目的に応じた項目だけを送るようにします。

商談記録の通知先と見る目的を左右に並べた図。上司は支援の判断のため、チームは類似案件の参考のため、マーケティングは顧客像の更新のために見る。上司には次のアクションと決裁の構造、マーケティングには課題と競合の状況を届ける

長い通知は、そもそも読まれません。
書いた人に「読まれている」と伝わる仕組みも要ります。

上司がコメントを返す、他の営業が「参考になった」と言う。
この反応が、書く動機になります。
ここを設計しないと、記録は溜まるが誰も見ない状態になります。

あわせて商談の記録は扱いにも注意が必要で、確認するのは、録画の許諾(相手の発言を含むので、伝えて了解を得ることを組織のルールにしておく)、記録の閲覧範囲(顧客の情報なので全社に公開せず、営業部門と関係部門に限定する)、相手の担当者名の扱い(役職と部門で足りる場合は個人名を入れない)、保管期間(案件が終わった後、いつまで残すか)の4つです。
「相手が話した機密情報」の扱いも決めておきます。
顧客が自社の未公表の計画を話すこともあるので、記録から除くか閲覧範囲をさらに限定します。
この4つを決めてから始めないと、あとから線を引き直すときに、すでに記録された分が問題になります。

商談の記録を始める前に決めておく4つ。録画の許諾、記録の閲覧範囲、相手の担当者名の扱い、保管期間を示した図

線引きの決め方は生成AIに入れてはいけない情報とは。社内ルールを3段階で線引きするにまとめてあります。

小規模な組織で、決裁の構造が見える形に変わった

着手前は、営業支援のシステムに案件の進捗と金額を入力していて、商談の中身のほうは記録されていませんでした。
担当者が休むと状況が分からず、退職時には案件の経緯が失われていました。

やったのは、オンライン商談の録画から7項目を抽出して表に記録する形です。
通知は上司にのみ、次のアクションと聞けていない項目を送るようにしました。

最初の1か月で分かったのは、聞けていない項目の多さでした。
特に決裁の構造は、10件中7件で聞けていませんでした。
「誰が決めるか」を聞いていない状態で、提案していたことになります。

そこでヒアリング項目に決裁の構造を明示して、毎回聞くことを標準にしました。
3か月後には、決裁の構造が聞けている案件の割合が7割まで上がり、受注までの期間も短くなっています。

決める人が分かっていると、そこに向けた提案ができるからです。
この話で示唆的なのは、記録の自動化そのものより「聞けていない項目が見えたこと」が効果だった点です。

小規模な組織で、決裁の構造を聞けている案件の割合が、最初の1か月の10件中3件から、3か月後には7割まで上がったことを示した図。受注までの期間も短くなった

振り返りの設計は商談の振り返りを個人任せにしない。トップセールスとの差分を可視化で扱っています。

つまずきやすいのは6つです。
課題を要約させる、記録の項目を自由記述にする、全項目を全員に通知する、読まれていることを書いた人に伝えない、録画の許諾と閲覧範囲を決めずに始める、「聞けていない項目」を入れない、という点です。
どれも、発言をそのまま引用させて7項目に固定し、目的に応じた項目だけを送り、反応を返し、4点を先に決めて、聞けていない項目を必ず入れれば避けられます。

蓄積した商談ナレッジは、探せる状態にして初めて使われる

記録の自動化は、工程としては単純です。
難しいのは、蓄積した記録が使われる状態を作ることのほうかと思います。

表に100件の商談記録が溜まっても、それを通して読む人はまずいません。
必要なのは「探せる状態」のほうです。

「製造業向けの提案で、競合として挙がった社名」「経理部門が語った課題」。
こうした問いに答えられる状態にしておくのが要点です。
部門を越えて使えることも重要で、マーケティングが顧客像を更新するとき、人事が採用の訴求を考えるとき、開発が機能の優先順位を決めるとき、顧客の言葉はどの部門にも価値を持ちます。

営業部門の中に閉じた記録は、他部門からは見えません。
つまり、見えないものは使われません。

私たちが提供している組織のAIポータル「AI Portalize」では、社内で作ったGemやGemini Notebookを登録すると全社に公開され、部門を越えて検索できます。
記録は溜まっているが使われていない、という状態で止まっている場合は、考え方の参考になるかもしれません。

商談の記録は、要約せず「そのまま」残すところが起点になる

商談の中身が記録されないのは、入力の手間が大きい、何を書けばいいか決まっていない、書いても使われない、の3つが原因です。

構成は3工程で、文字起こし、要約、記録と通知という並びです。
本体になるのは、工程2の項目設計のほうです。
記録項目は7つで、課題として語られた言葉と聞けていない項目が、従来の営業記録には入っておらず最も価値があります。

要約させず、実際の言葉をそのまま残すこと。
これが要点になります。
通知は目的に応じた項目だけを送り、書いた人には「読まれている」と伝わるようにします。

録画の許諾、閲覧範囲、担当者名の扱い、保管期間は、始める前に決めておきます。
あとから線を引き直すと、すでに記録された分が問題になるからです。

まずは直近のオンライン商談を1件選んで、7項目を抜き出してみてください。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

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