
営業資料・ホワイトペーパーを社内で回す。品質を落とさない分業設計
2026/09/02
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
「営業資料やホワイトペーパーを作れるのは、うちだと1人か2人だけ」。
この状態は、多くの組織で見かけます。
書ける人に依頼が集まって順番待ちになり、急ぎのものが優先されて、計画していた制作のほうが後回しになります。
「ホワイトペーパーもAIで作成すれば誰でも書ける」という話には、実はなりません。
書けるようになるのは初稿までで、品質を担保する工程のほうは残るからです。

今回は、この分業をどう設計するかを整理していきます。
資料作成そのものの工程分解は提案・報告資料の作成時間を半分にする。スライド業務のAI標準化にまとめてあります。
制作が特定の人に集中する構造
なぜ1人に集中するのでしょうか?
理由を分解すると3つになります。
まず、型が共有されていないことです。
書ける人の頭の中に構成の型があるものの、それが文書になっていないので、他の人が書き始められません。
次が、品質の基準が言語化されていないことです。
「これは出せる」「これは直したい」の判断が、その人の感覚に依存しています。
他の人が書いても、判断できるのはその人だけという状態です。
もうひとつが素材集めの属人化で、実績のデータ、顧客の声、他社との違いがどこにあるかを知っているのが、書いている人だけになっています。
本質は、型と品質基準のほうです。
素材集めは資料の整備で解決できますが、前の2つは言語化の作業が必要だからです。
手順や判断の言語化そのものは仕事の手順をAIに覚えさせる。社内の「型」を資産化する考え方で扱っています。
ここで注意したいのは、AIを入れても型と基準が言語化されないままだと、質の低い初稿が量産されるだけという点です。

AIに任せられる部分と、人にしか担えない部分
どこまでを任せるかの切り分けを、最初に明確にしておきます。
AIに任せられるのは4つです。
まず構成案の作成で、テーマと読み手を渡して章構成を複数案出させます。
次が初稿の執筆で、構成と素材を渡して本文を書かせます。
もうひとつが表現の統一で、トーンをそろえる、冗長な部分を削る、専門用語を言い換えるといった作業です。
また、不足の指摘も任せられます。
「この構成で読み手が疑問に思う点」「根拠が示されていない箇所」を挙げさせると、これが意外に価値を持ちます。
一方で人が担うのは3つです。
まず訴求の決定で、何を主張するか、誰に何を伝えるかという事業判断の部分になります。
次が素材の提供で、実績の数字、顧客の言葉、自社の強みの具体例はAIには作れません。
ここを埋めないと一般論の文書になります。
もうひとつが事実の確認と最終判断で、数字、固有名詞、対外的に言ってよいことの判断です。
この切り分けを最初に共有するのが要点です。
「AIで作れます」とだけ伝えると素材の提供が飛ばされて、一般論の資料が出てきます。
AIと人の持ち分を決めてから段階を踏むという進め方を、社内のどの業務から試すかについては、業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順から読み始めると順番がつかめます。
構成だけ→初稿まで→量産、の順に段階を踏む
導入は段階を踏んでいきます。

最初は構成だけです。
テーマと読み手を渡して構成案を3つ出させて、書ける人がその中から選ぶか組み合わせます。
この段階では、本文は従来どおり人が書きます。
この段階の目的は、構成の型を言語化することです。
出てきた3案を見て「これは違う」「この順番のほうがいい」と判断する過程で、頭の中の型が言葉になっていきます。
成果物として残すのは、選んだ構成そのものです。
3〜5本分の構成が並ぶと、共通する型が見えてきます。
期間の目安は1〜2か月で、制作する3〜5本を使います。
型が見えたら、次は初稿まで任せます。
構成の型と素材を渡して初稿を書かせて、書ける人は初稿をレビューして直す形です。
ここで必要になるのが素材の整備で、実績のデータ、顧客の声、他社との違いを1箇所にまとめておきます。
フェーズ1では、書ける人が頭の中から出していたものを文書にする作業になります。
もうひとつ必要なのが、品質基準の言語化です。
レビューで直した箇所を記録して、なぜ直したかを1行で書いておくと、10本分たまるころには基準が形になります。
対外文章の基準そのものは「AIが書いた感」を組織として許容しない。対外文章の品質基準を決めるで扱っています。
この段階で、書ける人の役割も変わります。
書く人からレビューする人になるので、1本あたりの時間が減って扱える本数が増えます。
この段階の期間の目安は2〜3か月です。
基準が言語化できたら、いよいよ書く人を増やしていきます。
構成の型・素材集・品質基準の3つを渡して他の人が書く形にして、書ける人は最終確認だけを担います。
構成の型は資料の種類ごとに1枚です。
「課題提起 → 一般的な対処 → その限界 → 自社の提案 → 事例 → まとめ」のような並びになります。
素材集には実績の数字、顧客の声、他社との違い、使える図表を入れて、更新のオーナーを決めておきます。
品質基準はレビューで直した理由を10〜15項目に整理したもので、「主張に根拠を付ける」「固有名詞は正式表記で」「一般論で終わらせない」といった形です。
レビューの観点は3段階に分けておきます。
必ず直す事実の誤りや機密の混入、判断で直す表現や構成、気になるが許容する好みの範囲です。
この3段階があるだけで、レビューがかなり早くなります。

「作れた数」ではなく「使われた数」を見る
フェーズを進めるうえで最も重要なのは、品質基準を先に決めることです。
基準がないまま量産すると、質の低いものが増えます。
もちろん、量産できたこと自体が成果に見えることもあります。
「月に1本だったものが5本作れるようになりました」と報告できてしまうからです。
ところが、読まれていない、問い合わせにつながっていない、という状態が数か月後に分かります。
だから基準に成果の指標を入れておきます。
ホワイトペーパーならダウンロード数とそこからの問い合わせ、営業資料なら使われた回数と商談での反応といった数字です。
「作れた数」ではなく「使われた数」を見る設計にしておかないと、量だけが増えていきます。

一般論になるのは、素材が入っていないから
品質が落ちる典型は、中身が一般論になることです。
原因は明確で、素材が入っていないからです。
自社の実績、具体的な数字、顧客の実際の言葉がないと、どこの会社でも書ける文書になってしまいます。
防ぐ方法は2つあります。
ひとつが、素材が入っていない箇所を指摘させることです。
初稿ができたら「一般論で書かれている箇所と、具体例が必要な箇所を挙げてください」と聞きます。
この工程を必須にすると、素材の不足が可視化されます。
もうひとつが、素材集に「使える具体例」を溜めることです。
顧客との会話で出た言葉、解決した課題、数字といった、営業が普段聞いている内容がここに集まる設計にしておきます。
ただ、後者のほうが難しく、いちばん価値があります。
素材集が薄い組織では、AIを使っても一般論しか出てこないからです。

つまずきやすいのは、「AIで作れます」と伝える、品質基準を言語化する前に量産する、構成の型を書ける人に「書いて」と依頼する、成果の指標を「作れた数」にする、素材集の更新オーナーを決めない、の5つです。
切り分けを先に共有して、基準を言語化してから量産して、3〜5本作る過程で型を出して、使われた数を見て、オーナーを決めれば避けられます。
量産できる体制の本体は、型化そのもの
ここまで書いてきたとおり、この取り組みの本体は型化です。
構成の型・素材集・品質基準という3つを作る作業が、全体の労力の大半を占めます。
型化が社内だけだと進みにくい理由は2つです。
ひとつは、書ける人の時間が取れないことです。
型化にはその人が自分の判断を言語化する時間が必要になるのに、当人は制作の依頼に追われているので、優先順位が上がりません。
もうひとつが、暗黙の前提が省かれることです。
同じ社内の人が聞き取ると「言わなくても分かること」が省かれてしまうので、外から見ないと何が言語化されていないかが分かりません。
私たちが提供しているAI活用支援では、こうした業務の型化から入って、量産できる体制を作るところまで一緒に進めています。
制作が特定の人に集中していて動かない、という状態の場合は、進め方の参考になるかもしれません。
型化さえ済めば、書く人は増やしていける
資料制作が集中するのは、型が共有されていない、品質基準が言語化されていない、素材集めが属人的、の3つが原因です。
AIに任せられるのは構成案・初稿・表現の統一・不足の指摘で、人が担うのは訴求の決定・素材の提供・事実確認と最終判断です。
この切り分けを最初に共有しないと、素材提供が飛ばされて一般論の資料が出てきます。
進め方は3フェーズです。
構成だけ任せて型を言語化し、初稿まで任せて素材集と品質基準を作り、3点セットを渡して書く人を増やします。
成果の指標は「作れた数」ではなく「使われた数」にします。
ここを最初に決めておかないと、量だけが増えることになります。
一般論を防ぐには、初稿に対して「一般論で書かれている箇所」を指摘させる工程を必須にします。
次に作る資料を1本選び、構成案を3つ出させて選ぶところを、まず体験してみてください。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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