
複雑な自動化の前に取り組むべき「業務の標準化」と再設計
2026/05/28
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
AI活用のレベルが上がると、単一の作業ではなく一連の業務フロー全体を自動化したくなります。
点での効率化に成功すると、次は線でつなぎたくなるのが自然な流れです。
ワークフロー構築のツールも揃ってきて、非エンジニアでも複雑な処理を組めるようになりました。
ところが、点から線へ移るフェーズで、多くのプロジェクトが止まります。
止まる原因は、AIの性能でもツールの難しさでもありません。
既存の業務フローが、そもそも整理されていないからです。

今回は、複雑な自動化に入る前にやっておくべき仕事のやり方の整理と標準化について書いていきます。
自動化の手段全体はAIによる業務自動化の全体像。手段の選び方とコスト設計にまとめてあります。
10人10色のままではAIに渡せない
10人いれば10通りのやり方があるとき、AIには何を渡せばいいのでしょうか?
見込み顧客の事前分析をしている担当者が10人いれば、やり方は10通りあります。
サイトを隅々まで読み込む「詳細派」、フレームワークに当てはめる「戦略派」、公式サイトをざっと見て終える「速さ重視」の人。
出てくるものの粒度も、見ている観点も揃っていません。
ばらつき自体は悪くありません。
担当者が自分なりに工夫した結果、複数のやり方が並んでいるだけです。
問題は、その工夫が共有されないまま各自の手元に残っていることです。
分析業務に限らず議事録ひとつでも、担当者によって何を重要と判断するかは違います。
人間同士なら、そのあたりは察しで通じていました。
ただ、AIにワークフローを組ませる場合、この曖昧さは致命的です。
10通りのやり方があるままだと、AIはどの手順を再現すればいいのか判断できません。
結果として返ってくるのは、「それっぽいけど、これじゃない」出力です。

つまり、複雑な自動化に挑む前にやるべきは、ツールの習得ではなくチームの標準ワークフローを決めることです。
ここを飛ばすと、どれだけ高機能なツールを入れても空回りします。
やり方の食い違いのほかに、例外の多さや手順を説明できる人の数も含めて、AI化する業務を選ぶ前に確かめることを挙げています。
平均ではなく最良のやり方を標準にする
全員のやり方を、平均に寄せればいいのでしょうか?
業務フローを統一すると聞くと、管理側の都合という印象を持たれがちです。
ただ、AIを前提にしたフロー統一には、現場を助けるという目的があります。
狙いは、組織の中で最も成果につながっているやり方を、誰でも再現できるようにすることです。
限られた時間の中で細部までのリサーチと大局的な視点の両方を成立させるのは難しく、どこかを削って済ませる状況が生まれます。
ここで全員のやり方を平均的なレベルに寄せても意味がありません。
標準にすべきは平均ではなく最良です。
成果を出している人のやり方を分解して、その手順を全員の出発点にします。
抽出のやり方は、成果を出している数人に、実際の案件でどう進めたかを順番に話してもらうのが確実です。
何をしたかだけでなく、どの段階で何を見て判断を変えたかまで聞くと、手順の骨格が見えてきます。
誰のやり方が成果につながっているのかは、見極めが必要です。
感覚で決めると、「声が大きい人」のやり方が標準になってしまいます。
成果と手順を並べて確認する作業を先に入れておくと、納得感のある標準が作れます。

「誰がやっても同じ形」になるよう、出てくるものの品質をそろえる仕組みはAIアウトプットの品質を組織でそろえる。標準化とレビュー体制、手順そのものを資産として残す考え方は仕事の手順をAIに覚えさせる。社内の「型」を資産化する考え方で扱っています。
人間の手順をそのままなぞらせない
人間の手順を、そのままAIになぞらせていいのでしょうか?
標準を決めたあと、そのまま自動化に移ると、またつまずくことがあります。
人間に最適化された手順は、AIにとって最適ではないからです。
人間は時間が有限なので、調べる対象を絞り込みます。
どの情報を取るかの取捨選択そのものが、スキルとして扱われてきました。
一方でAIには時間の焦りがないので、取れる情報は全部取ってから判断させる組み方ができます。
人間の絞り込みの手順をそのまま再現させると、AIの強みを削ることになります。
また、AIは背景や判断基準を言語化して渡すほど精度が上がります。
人間向けの手順書には「適宜判断する」といった記述が残りがちですが、ここを具体的な条件に書き下すだけで出力の安定度がかなり変わります。
判断基準を書き下すコツは、境目の例を添えることです。
「この条件なら通す」「この条件なら止める」という両側の実例を1つずつ書いておくと、言葉の解釈で揺れにくくなります。
この言語化の作業は、標準化の副産物としても効いてきます。
新しく入った人への説明が一気に楽になるからです。
AIのために書いた手順は、そのまま人間の教育資料にもなります。
また、出力形式の扱いもあります。
既存のフォーマットにAIを無理やり合わせようとすると、連携のエラーが増えて開発の手間が跳ね上がります。
そのため、AIが出力しやすい形に社内のフォーマット側を作り変える、逆の発想が有効になります。
既存の様式に強いこだわりがないなら、こちらのほうが圧倒的に速いです。

フォーマットを変える判断は、関係部署への影響を確認してからにします。
その様式が他部署の処理や社外への提出に使われている場合、こちらの都合だけでは変えられません。
部署内で完結している様式なら、変えない理由はほとんどありません。
標準化は一度で終わらせない
標準ワークフローは、決めた時点で完成なのでしょうか?
決めた時点が完成ではありません。
実際に動かし始めると、想定していなかった分岐が必ず出てきます。
そのため、最初の標準は7割の精度で走らせる構えがちょうどいいです。
全部の例外を洗い出してから始めようとすると、いつまでも着手できません。
よくある8割のケースを先に固めて、残りは運用しながら足していきます。
運用の形としては、標準から外れた対応をしたときにその理由を記録してもらう仕組みを作っておくと、改訂の材料が自然に溜まります。
例外が3回同じ形で出てきたら標準に取り込む、という判断基準を決めておくと迷いません。

もうひとつ、標準を決めたあとに現場が勝手に元のやり方へ戻る事態も起きます。
これはたいてい、標準のほうが手間が増えているのが原因です。
守られていない標準を見つけたら、守らせる前に、「なぜそのほうが早いのか」を聞くほうが早く改善します。
作って動かしながら直す進め方は完璧な仕様を待たない。「作って動かす」を組織の作法にするにまとめてあります。
可視化そのものにAIを使う
目に見えない業務フローを、どうやって図に落とせばいいのでしょうか?
図に落とすのは、それなりに大変な作業です。
一から全員にヒアリングして図形を並べていると、それだけで数週間が溶けます。
そこでおすすめなのが、可視化のプロセス自体にAIを使うことです。
ホワイトボードの手書きの図、作業中の画面録画、業務についてのヒアリング会議の音声。
こうしたものをAIに読み込ませて、フロー図のたたき台を作ってもらいます。
ゼロから書き起こすより、たたき台を直すほうが圧倒的に速いです。
実際の作業録画から起こすと、本人が説明を省いた手順まで拾えることもあります。
口頭のヒアリングでは出てこない例外処理が見つかるのは、この方法の利点です。

録画を使う場合は、事前に本人の同意を取る運用にしておきます。
「評価のために見るわけではない」と伝えておかないと、普段と違う丁寧なやり方をされてしまい、実態が取れません。
そのうえで、出てきた図を本人に見せて、違うところを直してもらいます。
ゼロから聞くと何を話せばいいか分からない人でも、「ここが違う」という図を見せられると的確に指摘してくれます。
業務の洗い出しを全社規模でやる場合の設計はAI化する業務が見つからない。全社一斉の業務棚卸しの設計、実装に落とすまでの流れは業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順に整理してあります。
私たちのAI伴走支援でも、業務の洗い出しとAI化の優先順位づけから入り、標準化したフローをAIワークフローとして実装するところまで、現場の担当者と一緒に進めています。
自動化の前に、最良のやり方を標準として決めておく
点から線への自動化で詰まる原因は、ツールでも性能でもなく、業務フローが整理されていないことです。
やり方が10通りあるままだと、AIはどれを再現すればいいのか判断できません。
だから先に標準ワークフローを決めます。
標準にするのは、平均ではなく最良のやり方です。
標準ができても、人間向けの手順をそのままなぞらせません。
取捨選択はAIには不要ですし、判断基準は言語化して渡します。
出力形式は、AIが出しやすい形に社内側を寄せるほうが速いです。
可視化の作業自体にもAIを使います。
録画や音声からたたき台を作って、本人に直してもらう。
この順番なら、現場の負担も抑えられます。
標準は一度で完成させず、8割のケースを先に固めて運用しながら足していきます。
例外が繰り返し出てきたら取り込む、という基準を決めておくと改訂が止まりません。
まずは自動化したい業務をひとつ選び、担当者3人にやり方を書き出してもらうことから始めましょう。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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