
AI化する業務が見つからない。全社一斉の業務棚卸しの設計
2026/08/25
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
推進を始めて数か月経つと、必ずこの相談が来ます。
「最初のいくつかはやったのですが、次に何をAI化すればいいか分からなくなりました」。
現場に聞いても「特に困っていることはない」と返ってきて、研修で活用事例を紹介しても、自社に当てはまるものが見つかりません。
これはネタが枯れたのではなく、探し方の問題です。
つまり、業務棚卸しのやり方を変えれば、対象はいくらでも出てきます。
ここでは、全社で業務を棚卸しする設計を整理します。
棚卸しから実装までの流れ全体は業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順にまとめてあります。

個人に聞いても、AI化のネタは出てこない
「自分の業務でAI化できそうなものを挙げてください」という依頼は、まず機能しません。
理由は何でしょうか?
まず、自分の業務を工程に分けて見ていないことです。
「見積を作る」という業務は、実際には情報収集・条件確認・計算・様式への転記・確認依頼という複数の工程でできていて、分けないとAIが効く箇所が見えてきません。
また、慣れた作業を面倒だと思っていないことです。
毎日やっている作業は体に染み込んでいるので「これに30分かかっている」という自覚がなく、時間がかかっている作業ほど実は改善の余地があります。
もう一つが、AIで何ができるかを知らないことです。
知らないものと自分の業務を結びつけられないので、議事録の要約に使えると聞いても自分の業務の中の該当箇所が思い浮かびません。
職種ごとの当てどころは職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころにまとめてあります。
3つとも、聞き方を変えるだけで解決します。
「AI化できるものを挙げて」と聞くのをやめて、業務を工程と時間で書き出させ、AI化の判断は書き出した後に別の人がやります。
書き出した業務から最初の1件を選ぶまでの考え方は、AI化する業務の選び方で原因ごとに整理しています。
12週間で全社を回す。棚卸しシートは7項目に絞る
全社の棚卸しは12週間で設計します。
期限を切らないと、まず終わりません。
Week1-2が棚卸しシートの設計と試行、Week3-6が部門ごとの洗い出し、Week7-10がインパクト評価と優先順位付け、Week11-12が着手テーマの決定と発表です。
Week1-2を丁寧にやるのが要点で、シートの設計が悪いと集まったものが使えません。

シートに入れる項目は7つに絞ります。
業務名、工程、頻度、1回あたりの所要時間、関与人数、使っているもの、面倒だと感じる工程の7つです。
業務名は「見積作成」のような単位、工程はその業務を3〜7に分けたもの、頻度は1日・週・月に何回かです。
1回あたりの所要時間は工程ごとに感覚で構いません。
関与人数は社内で何人がやっているか、使っているものは参照する資料・使うシステム・やり取りする相手です。
工程が最も重要な項目で、最後の「面倒だと感じる工程」を入れるのが効きます。
該当する工程に印を付けてもらうだけで、理由の記入は求めません。
合理的な判断ではなく感覚で選ばせると、たいてい改善の余地があるところが挙がってきます。

AI化の可否は書かせません。
ここを書かせると現場が自分の知識の範囲で判断してしまい、可能性のほうが狭まるからです。
判断は、集まったものを見て推進チームがやります。
設計したら、まず推進担当が自分の業務で書いてみます。
これをやらないと書きにくさに気づけないからです。
確認するのは、15分で書けるか・工程に分けるところで詰まらないか・時間の記入で迷わないかの3つです。
15分を超えるようなら項目を減らします。
もちろん、現場が1業務あたり15分で書ける設計にすることが、そのまま回収率を決めます。
また、記入例を1つ作っておくのも効きます。
空欄のシートを配ると粒度が人によってばらつきますが、記入例があると揃います。
Week3-6|部門30分、その場で書かせると数が集まる
配って集める段階は、ここでの設計が回収率を決めます。
個人に配らず部門単位でやり、30分のミーティングを設定してその場で書いてもらいます。
持ち帰り宿題にすると、まず出てきません。
その場で書かせるのには理由が2つあります。
持ち帰ると優先度が下がって出てこないことと、複数人で話すと「それ私もやってる」という重複が見つかることです。
同じ集計を2人が別々にやっている、という発見がよく出ます。
1部門で挙げる業務数は10〜20件を目安にします。
全部を挙げようとすると終わらないので、「時間がかかっているもの、面倒なもの」から10件挙げてもらう形にします。
部門長のほうも同席させます。
現場が挙げにくい業務があるのは確かで、「これは無駄だと思っている」という話は部門長がいると出ないこともあります。
とはいえ部門長の承認がないと改善に着手できないので、同席させたうえで匿名で書ける欄を1つ用意するのが現実的な折衷です。
Week7-10|削減時間・着手のしやすさ・失敗の影響の3軸で見る
集まったものを評価していきます。
全部に着手できるわけではないので絞りますが、見る軸は3つです。
削減できる時間は、頻度×1回あたりの時間×関与人数を、月あたりの時間で出します。
着手のしやすさは、データが揃っているか、権限の調整が要るか、部門をまたぐかを3段階で評価します。
失敗の影響は、誤った結果が出たときに何が起きるかです。
ここが大きいものは、いったん後回しにします。
削減時間が大きく、着手が容易で、失敗の影響が小さいものから着手します。
当たり前の話ではありますが、実際にやると削減時間だけで判断しがちなので、3軸で見る形を明示しておきます。

評価すると、着手しないものが大量に残ります。
ここの扱いを決めておかないと、次が続きません。
まず「今回は着手しない」と明示して返します。
挙げたのに何も返ってこないと、次の棚卸しで出てこなくなるからです。
次に理由を1行だけ書いて返します。
「データの整備が先に必要」「月1回のため優先度が低い」といった形で、理由が分かれば現場も納得します。
そして、次回見直す時期を、半年後にもう一度見るというように添えておきます。

着手しない理由が「データの整備が必要」であるものは、別のリストにまとめます。
これが前提工事のリストになり、文書の整備、ドライブの整理、台帳の一元化が並びます。
AI化のリストと前提工事のリストを分けて管理すると進めやすく、ドライブ側の前提工事はファイルサーバをAIの参照先にする。ドライブ整理はAI活用の前提工事で扱っています。
Week11-12|3〜5件に絞って発表し、余った業務も価値になる
最後に決めて伝える段階では、着手するのは3〜5件に絞ります。
10件を並行で進めると、どれも終わらないからです。
発表する内容は4つで、着手するテーマ・それぞれの担当・いつまでに何を作るか・挙げてもらった件数と着手しないものの扱いです。
この最後の項目を必ず入れるのが要点です。
「200件挙がって、そのうち5件から始めます」と伝えると、参加した人が自分の記入は無駄ではなかったと分かります。
ここを言わないと、次回の協力が得られません。
この作業をやると、AI化のネタ以外のものも見つかります。
業務の重複は、同じ集計を複数の部門でやっているケースで、AIを使うまでもなく片方をやめるだけで解決します。
そもそも不要な業務も見つかります。
誰も見ていない報告書や、廃止された制度のための作業で、AI化する前にやめる判断ができるものです。
前提工事のリストと、属人化している業務も副産物です。
1人しかできない業務が可視化されるので、引き継ぎのリスクとして別に管理します。
「やめる」が最も費用対効果が高いこともあり、AI化の検討の中でやめる判断が出てくるのは良い兆候です。

起きやすい失敗は5つあります。
「AI化できるものを挙げて」と聞くこと、個人に配って持ち帰らせること、シートの項目を増やすこと、削減時間だけで優先順位を決めること、着手しないものに返答しないことです。
どれも、工程と時間を書かせて部門単位でその場で書いてもらい、7項目に絞って3軸で評価し、理由を返せば防げます。
棚卸しの設計より、効きどころの判断のほうが難しい
ここまで見てきたとおり、棚卸しの設計そのものは難しくありません。
難しいのは、集まった業務を見てAIの効きどころを判断することのほうです。
判断には、AIで何がどこまでできるかの実感が要ります。
「この工程はAIに任せられる」「この工程は前に整備が必要」という切り分けは、複数の事例を見た経験に依存するので、社内だけで判断すると知っている使い方の範囲に収まります。
もう一つ、社内だけだと進みにくい理由があります。
現場が「これは業務として当然」と思っている作業が見えないことです。
外から見ると明らかに無駄な工程が、内部では前提になっています。
ここは、同じ組織の中にいる人にはなかなか見えません。
私たちが提供している業務のAI化を伴走で進める支援では、この業務の棚卸しと効きどころの発掘から入って、実装まで一緒に進めています。
着手するネタが見つからない状態で止まっている場合は、進め方の参考になるかもしれません。
業務棚卸しは、聞き方を変えれば出てくる
一言でいうと、「AI化するネタがない」は探し方の問題です。
個人に「AI化できるものを挙げて」と聞くと、工程に分けて見ていない・慣れた作業を面倒だと思っていない・AIで何ができるか知らない、の3つの理由で出てきません。
聞くのは業務名・工程・頻度・所要時間・関与人数・使っているもの・面倒だと感じる工程の7項目で、AI化の可否は書かせず判断は推進側でやります。
進め方は全部で12週間です。
シート設計と試行が2週、部門ごとに30分のミーティングでその場で書くのが4週、削減時間・着手のしやすさ・失敗の影響の3軸で評価するのが4週、3〜5件に絞って発表するのが2週という並びです。
着手しないものには、理由と次回見直す時期をセットで返します。
「データの整備が先」と判断したものは、前提工事のリストとして分けて管理します。
まずは自分の業務を1つ選んで工程に分けて、7項目のシートに書いてみませんか?
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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