
組織のAI推進を加速させる2つの実働チームの構築
2026/05/18
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
AI推進のコアメンバーは決まりました。
ガイドラインも整えました。
それでも全社への展開が進まない、という段階で止まっている企業をよく見かけます。
原因はだいたい同じで、数名のコアメンバーだけで全社のAI活用を回そうとしていることにあります。
最新ツールの検証から個別部署の業務改善まで、少人数で全部こなすのは物理的に無理があります。
ここを突破するには、各事業部から兼務メンバーを集めて、組織横断の体制へ広げていく必要が出てきます。
今回は、その拡張した体制をどう使うかという話です。
全社活用支援チームとAIタスクフォースという2つの実働チームに役割を分ける考え方を書いていきます。
担当者のアサインと稼働の話は組織におけるAI推進担当者の専任化と体制構築にまとめてあります。

コアメンバーだけでは、全社に届かない
コアメンバーだけで進めると、何が起きるのでしょうか?
まずそこを見ておきます。
コアメンバーが優秀であるほど、最初のうちは物事が速く進みます。
ツールの選定も、ルールの整備も、少人数のほうが決めが早いところです。
問題は、その次の段階で起きます。
「全社展開」のフェーズに入ると、やることが一気に増えます。
新しいツールの検証、部署ごとの相談対応、研修の設計と実施、使われていない部署へのテコ入れ。
これらを並行して回そうとすると、コアメンバーの時間がボトルネックになって推進全体が詰まります。
相談の中身も変わってきます。
最初は「どのツールを使えばいいか」という質問が中心だったのが、展開が進むと「この業務にこう使いたいが、この部分だけ精度が出ない」という具体的なものに変わります。
前者は一度答えを作れば使い回せますが、後者は業務ごとに中身を見ないと答えられません。
よくあるのが、コアメンバーの誰かが「窓口」として全部署の相談を受けている状態です。
最初は回っていても、相談が増えるにつれて返答が遅くなり、現場は待たされます。
待たされた側は自分で調べるか、そもそも聞くのをやめてしまうので、結果としてAI活用の相談が表に出てこなくなります。
もうひとつ厄介なのが、「現場の解像度」の問題です。
コアメンバーは推進の専門家ではあっても、経理の月次処理や、カスタマーサポートの一次対応の実務を知っているわけではありません。
そのため、現場から上がってくる課題を額面通りに受け取ってしまい、本当のボトルネックを外してしまう事態が起きます。
兼務メンバーを各事業部から集めて、横断体制にする
全社の課題を、コアメンバーだけで拾いきれるでしょうか?
そこで、推進のハブになるコアメンバーと、現場の最前線にいる兼務メンバーを混ぜた体制を組みます。
理想を言えば、すべての事業部から兼務メンバーが1人は入っている状態です。
全社の課題を偏りなく吸い上げるには、この網羅性が効いてきます。
ある部署だけメンバーがいないと、その部署の課題は誰の目にも触れないまま残り、半年後に「うちは何も聞かれていない」という反応が返ってきます。
人選については、部長クラスを「形式的に並べる」形にしないほうがよいです。
会議には出られても実務は動かないので、実際に手を動かす立場の人を各部署から1人ずつ出してもらうほうが機能します。
そのうえで、参加が「本人の持ち出し」にならないよう、上長との合意を推進側から取りにいく段取りまでを設計に含めます。
なお、コアメンバー自身が本来の所属部署と「兼務」、というケースも実際には多いです。
専任が理想ではあるものの、そこが整わないからといって体制拡張を待つ必要はありません。
この混成体制をベースに、役割の違う2つの実働チームを組んでいきます。
もちろん、ビジネスサイドでの活用推進とは別に、情報システム部門によるセキュリティ環境の整備は前提として必要です。
どこまでのデータをどのツールに入れてよいかが決まっていないと、現場は手を止めます。
全社活用支援チームは、広く浅く進める
1つ目の軸が、全社のAIリテラシーを底上げして、日常的な活用をサポートする全社活用支援チームです。
新しいツールの検証、うまくいったプロンプトの共有、部署をまたいだ事例の横展開などを担当します。
現場が自発的に使い始める状態をつくるボトムアップ型の役割です。
誰を選べばいいのでしょうか?
このチームの兼務メンバーを集めるときの基準は、役職でも社歴でもなく、アンテナの高さです。
AIの進歩が速いぶん、普段から情報を追っている本人の興味が原動力になります。
選ぶ人数は、最初から全部署を埋めにいかなくても構いません。
3〜4部署から始めて、うまく回っている様子を社内に見せてから広げるほうが、参加のハードルが下がります。
見つけ方としては、利用ログを部署別に割って、「突出して」利用回数が多いメンバーを探します。
社内チャットのAI関連チャンネルで頻繁に発信している人や、誰にも頼まれていないのに「自作のツール」を共有している人が該当します。
利用データの取り方は組織におけるAI利用データの可視化と共有手法で扱っています。
チームの動かし方としては、隔週30分程度の共有会を定例にして、そこで各自が試したことを持ち寄る形が続きやすいです。
報告資料を作らせると途端に負荷になるので、チャットに貼ったものをそのまま話してもらうくらいの軽さにしておくのがコツです。
大事なのは、トップダウンで「無理に任命」しないことです。
すでに社内で誰よりもAIを楽しんでいる人を巻き込むほうが、活動が続きます。
指名された義務感で動く人は、半年で発信が止まります。
AIタスクフォースは、狭く深く入り込む
2つ目の軸が、特定の部署・特定の業務にターゲットを絞って、自動化や効率化を実現するAIタスクフォースです。
全社活用支援チームが広く浅く進めるのに対し、こちらは狭く深く攻める「局地戦」の実働部隊になります。
営業部のリスト作成を完全自動化する、カスタマーサポートの一次回答フローにAIを入れる、といった単位で動きます。
成果が数字で出やすいぶん、社内で推進の価値を説明する材料にもなります。
進め方としては、いきなり部署全体を対象にせず、1つの業務プロセスに絞って3ヶ月で成果を出す単位で区切るのがおすすめです。
範囲を広げるほど関係者が増えて調整が重くなり、途中で止まったときに何が原因だったのかも分からなくなります。
1つの業務で成果を出してから隣の部署へ広げる流れは、生成AIを社内で推進する順番の後半にあたります。
このチームには、変革対象となる現場の業務を誰よりも熟知しているメンバーを優先して配置します。
ツールに詳しい人ではなく、「その業務の例外処理まで説明できるか」で入れる人を決めるのがポイントです。
どの業務から手を付けるかの決め方は業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順に整理してあります。

AIタスクフォースは、業務の整地に最初にぶつかる
このチームが最初にぶつかる壁は、AIの技術でしょうか?
実は違います。
AIを入れる前に、業務そのものが整地されていない問題があります。
いざ特定の部署に入ると、今の業務フローが明文化されていない現実に突き当たります。
手順は「担当者の頭の中」にしかなく、例外処理だらけでルールが統一されていません。
この状態のままAIツールだけを導入しても、現場が混乱するだけで終わります。
例えば、「請求書の処理をAI化したい」という相談があったとして、実際に手順を書き出すと、取引先ごとにフォーマットが違い、担当者が目視で読み替えていた、という実態が出てきます。
この読み替えのルールを言語化するところが本丸で、そこさえ決まればAIに任せる部分は自然と決まります。
つまり、タスクフォースに求められるのは、AIの知識以上に業務を分解して再構築するPM力です。
現場に入り込んでプロセスを可視化し、「ここまでは人間、ここから先はAI」と切り分けていきます。
その部署専門の社内コンサルタントとして業務フローをリノベーションする仕事で、難易度はかなり高いです。

逆に言うと、この整地さえ済めば、あとの実装は驚くほど素直に進みます。
時間がかかるのは技術の部分ではなく、いつも手前の「合意形成」のほうです。
そのため、このチームには組織の中でも特に「エース級」の人材を集めるべきだと考えています。
現場が自分でツールを作れるところまで持っていく話は社内AIツールの内製化。現場が自分で作れる組織にするまで、業務の洗い出し方はAI化する業務が見つからない。全社一斉の業務棚卸しの設計が参考になります。
こうした業務の整地は、私たちのAI伴走支援でも中心に置いている部分で、現場の担当者と一緒に業務を洗い出し、AI化の優先順位を決めるところから進めています。
AIタスクフォースの本当の仕事は、業務の整地です
コアメンバーだけで全社は回りません。
各事業部から兼務メンバーを集めて横断体制にしたうえで、役割の違う2チームに分けます。
全社活用支援チームは広く浅く。
アンテナの高い人を利用ログから見つけて巻き込み、ボトムアップでリテラシーを底上げします。
また、AIタスクフォースは狭く深く。
業務を知り尽くした「エース級」を配置して、特定業務の自動化を仕上げます。
タスクフォース側の本当の仕事は、AI導入ではなく「業務の整地」です。
ここを飛ばすと、ツールだけが入って現場が混乱します。
まずは自社の推進体制がどちらか片方に偏っていないかを確かめ、足りていないほうの人選から動き出しましょう。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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