
組織におけるAI推進担当者の専任化と体制構築
2026/05/16
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
AI導入のプロジェクトを立ち上げたものの、数ヶ月で止まってしまう。
そういう相談を受けるとき、体制の話を聞くとほぼ共通しているのが、既存業務と兼務のまま推進担当をアサインしている点です。
一般的なシステム導入であれば、兼務でも問題なく回ることは多いです。
ただ、AI推進の担当者を専任にするかどうかは、プロジェクトが進むか止まるかを分ける分岐点になりやすいところです。
AIは正解の決まっていない領域で、手を動かして確かめる時間そのものが仕事の中身になるからです。
今回は、兼務で限界が来る理由と、推進体制に誰を置き、どれだけの稼働を確保すればいいかを整理していきます。
全体の進め方はAI推進の進め方。組織にAIを定着させる10の段階と着手順にまとめてあります。

兼務のままだとAI推進は後回しになる
兼務のままで、AI推進はうまく回るのでしょうか?
まず、失速しやすい理由を見ておきます。
新しい取り組みを既存業務との兼務で始めるのは、リソースの都合上ごく自然な判断です。
とはいえAI推進に限っては、この形はかなり高い確率で失速します。
理由はシンプルで、兼務の場合、緊急度の高い本業が必ず優先されるからです。
AI推進の仕事には締切のある差し込みがほとんどなく、期日が決まっている請求処理や顧客対応に押し出されていきます。
半年経って振り返ると、「アカウントを配っただけ」で終わっている状態が多いです。
分かりやすい兆候として、「AI推進の定例」が月1回になり、その月1回も他の会議と重なって流れていく進み方があります。
参加者は集まるものの、前回からの進捗が「検討中」のまま並んでいます。
誰かがサボっているわけではなく、単に手を付ける時間が確保されていないだけのケースがほとんどです。
もうひとつ、AIという技術の性質も効いています。
会計ソフトのようにマニュアル通りに設定すれば動くものと違い、同じプロンプトでも部署が違えば結果の使い勝手が変わる世界です。
道なき道を切り拓くタイプの活動なので、本業のついでの時間で進めるには無理があります。
検証に時間がかかるから、専任が要る
なぜ専任でなければならないのでしょうか?
ここでは、その理由をもう少し掘り下げます。
推進担当が専任であるべき最大の理由は、情報の更新速度が速すぎることにあります。
新しいモデルや機能が毎週のように出てきて、去年の判断が今年は通用しない事態が普通に起きます。
ただ、ニュースを追いかけるだけなら隙間時間でも足ります。
推進担当に求められるのは、「自社で本当に使えるか」を判断することで、ここが重くなります。
話題になっている機能が自社のセキュリティ基準を満たしているか、実際の業務データを入れたときに使える精度が出るか、既存の業務フローのどこに差し込めるか?
こういった点は、記事を読んだだけでは分かりません。
自分のアカウントで動かして、自社のファイルを入れて、うまくいかないパターンまで含めて確かめて、ようやく判断材料になります。
検証の記録を残すかどうかでも差が出ます。
試した結果を「個人のメモ」に留めておくと、担当が別のツールを見ているあいだに同じ検証を誰かがやり直すことになります。
使えなかった結果こそ組織の資産になるので、判断の理由まで含めて社内に置いておくのがおすすめです。
この触って試して判断するプロセスには、思っている以上に時間がかかります。
片手間でやると、検証が終わった頃には次の技術が出ている状態になり、常に周回遅れのまま走り続けることになります。
情報収集と投資判断の考え方はAI推進担当者の情報収集と経営判断。リサーチとROIの設計で詳しく扱っています。
手を動かさないと、現場と会話が噛み合わない
自分でAIを触らずに、現場と同じ目線で話せるでしょうか?
担当者が触る時間を確保することは、現場との距離を保つうえでも効いてきます。
カタログスペックだけで計画を立てると、現場のリアリティから離れた指示が出るようになるからです。
ありがちなのは、「AIを使えば一瞬で終わるはずなのに、なぜ現場はやらないのか」という不満の持ち方です。
実際に自分でやってみると、社内のPDFが画像形式で読み込めなかったり、共有ドライブの構造が入り組んでいて参照先を指定できなかったりと、手前の工程で詰まっていることが分かります。
つまり、現場が動かない理由は意識の低さではなく、具体的な引っかかりが取り除かれていないことにあるケースが大半です。
ここを体感していないと、「研修をもう一回やりましょう」という打ち手しか出てきません。
そのため、試行錯誤の時間を担当者の業務として正式に保証する意味でも、専任という形が必要になります。
現場がどこでつまずくかは「AIは使えない」と離脱する人を減らす。つまずき7パターンとサポート設計に整理してあります。
推進体制は、3つの要素を分担して組む
では、誰を推進担当に据えるか?
理想を言えば、AIへの強い「熱量」があり、業務を分解できる「PM力」を持ち、現場を動かす「決裁権」も持っている人材です。
とはいえ、この3つを一人で兼ね備えた人を社内から見つけるのは、まず不可能です。
そのため、コア体制は個人の能力ではなく、複数人で要素を補完し合う形で組むのが現実的です。
まず3つの要素を誰が持っているかを紙に書き出して、空いているマスを埋めにいく進め方が分かりやすいです。
全員を最初から揃える必要はなく、欠けている要素を認識したうえで走り出すだけでも、判断が止まる場所が事前に読めるようになります。
体制を組んだあとにAI推進プロジェクトで何をするかは、ルールから全社展開までの順番として整理しています。
まずは、圧倒的な「熱量」を持つ人の抜擢です。
日々出てくる情報を自分で検証し続けるのは、好きという動機がないと続きません。
指示されていないのに業務でAIを息をするように使っている人を探すイメージです。
利用ログやアンケートからこうした人を発掘して推進の火種にすると、自律的に動く組織の起点ができます。
次に、既存の仕事の流れを分解して再構築できる「PM力」です。
最新ツールを見つけてくるオタク気質と、業務全体を俯瞰して設計図を描ける力は別物であることが多く、同じ人に両方を求めると破綻します。
業務の切り出し方はAI化する業務が見つからない。全社一斉の業務棚卸しの設計が参考になります。
最後が、既存のフローを変更できる「決裁権」です。
AI化は、場合によってはこれまでのやり方を根本から作り直すことになります。
現場の摩擦を受け止めて、それでも進めると言い切れる役員クラスがいないと、体制はすぐ形骸化します。
実働部隊をどう組むかは組織のAI推進を加速させる2つの実働チームの構築で書いています。

稼働は、最低でも業務時間の50%を確保する
体制を組むとき、決裁権を持つスポンサー役員のほうは稼働が少なめの兼務でも問題ありません。
判断が必要な場面で出てきてもらえれば機能します。
一方、実務を牽引する推進担当については、AI推進室のような部署を作って専任で配置するのがベストです。
企業規模にもよりますが、「複数名の専任チーム」が組めるとスピード感は明確に変わってきます。
確保した時間の使い道も、決めておいたほうが安全です。
ツールの選定や研修の準備だけで埋めてしまうと、結局は検証の時間が消えます。
目安としては、半分を自分で手を動かす検証と試作、残りを現場のヒアリングと展開の設計に充てるくらいの配分にしておくと、判断の質が落ちにくくなります。
いきなりの専任化が難しい場合でも、最低でも業務時間の50%の稼働を確保することをおすすめします。
逆に失敗しやすいのが、「今の業務を持ったまま10%から20%でやってみて」というアサインの仕方です。
この配分では、既存業務に押し流されてAI推進が必ず後回しになります。
あわせて決めておきたいのが、担当が異動したときにどう引き継ぐかという点です。
専任化すると属人性が高まる面もあるので、担当が変わってもAI業務が止まらない。引き継ぎパッケージの設計のような形で、作ったものと決めたことを残す仕組みを最初から用意しておくと安心です。

こうした推進体制づくりは、私たちのAI伴走支援でも扱っており、推進担当の方と一緒に手を動かしながら、検証と展開の進め方を組み立てています。
AI推進の停滞は、専任かどうかで決まる
AI推進が停滞する原因の多くは、担当者の能力ではなくリソースの配分にあります。
兼務のままだと、締切のある本業に押し出されて後回しになる構造から抜け出せません。
専任が必要な理由は2つあります。
「自社で使えるか」を判断するには、実際に触って検証する時間が要ることです。
そして自分で手を動かしていないと、現場がどこで詰まっているかが見えなくなることです。
体制は、「熱量」「PM力」「決裁権」の3つを複数人で分担して埋めます。
一人に全部を求めません。
稼働は専任がベストで、難しければ最低50%。
10〜20%のアサインは避けます。
社内の利用ログやアンケートを見返したとき、誰に言われるでもなくAIを使い倒している人は、もう見つかっているでしょうか。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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