
AI推進のKPIの決め方。全社一律ではなく1人の業務時間を半分にする
2026/09/28
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
「それで、AIの効果はどれくらい出ているの?」と経営会議で聞かれて、答えに詰まった経験のある推進担当者は少なくないと思います。
AI推進のKPIを「全社の業務時間を10%削減する」のような全体目標に置いていると、この質問にはまず答えられません。
予算も体制も、この問いに答え続けられるかどうかで決まるので、KPIの置き方は推進の寿命をそのまま左右します。
今回は、AI推進のKPIを全社一律ではなく「特定の1人の業務時間を30〜50%減らす」に置き換える考え方と、そのあとの横展開の順番を整理します。
経営への説明を含めた全体像は、AI推進担当者の情報収集と経営判断。リサーチとROIの設計で扱っているので、あわせて読むと位置づけがつかみやすくなります。

「全社で10%削減」は、測れず持ち主もいない目標になる
全体目標がうまく働かない理由は、たいてい3つに集約されます。
まず、労働時間は取れても、どの業務に何時間使ったかまで記録している会社はほとんどないので、削減幅そのものが測れません。
次に、全社目標は全員の目標なので、裏を返せば誰も自分のものとして持たず、「自分が動かなくても誰かがやるだろう」と考える空気が生まれます。
もうひとつが、期間内に数字が出ないことです。
全社の業務時間が動くには相当な人数の働き方が変わる必要があるので、半年や1年の単位では結果として表に出てきません。
つまり、測れず、当事者がおらず、期間内に出ない目標を掲げている以上、効果を説明できないのは担当者の力量の問題ではありません。
KPIは「1人の業務時間を半分にする」に置き換える
そこで提案したいのが、まったく逆の置き方です。
特定の1人を選び、その人の業務時間を30〜50%減らすことをKPIにします。
全社ではなく1人に絞り、10%ではなく30〜50%を狙います。
ただ、小さすぎる目標に見えても、この置き方にすると先ほどの3つの問題がすべて裏返ります。
1人分であれば業務を棚卸しして作業ごとの時間を実測できるので、手を入れる前と後をそのまま比べられます。
当事者はその本人と、支援する推進担当の2人に絞られるので、誰が責任を持つのかもはっきりします。
また、1人の業務なら数か月で目に見える変化を作れるので、期間内に結果を示すことも現実的になります。
削減幅は、周りが気づく大きさで決める
対象を1人に絞るのと同じくらい大事なのが、削減幅を30〜50%と大きく置くことです。
10%の削減は本人にとっても「多少は楽になったかな」という程度で、周りにはほとんど伝わりません。
一方で業務が半分になると、「あの人の仕事、本当に半分になったらしい」と社内で自然に話題になり始めます。
薄く広い成果よりも、狭くても大きな成果のほうが、組織の受け止め方を変えます。
例えば営業事務の担当者であれば、見積書の作成や受注データの転記のように毎日繰り返している作業から手を付けると、削減幅が出やすくなります。
選ぶ相手は、繰り返しの作業が多く、本人が変わることに前向きな人がよいと思います。
もちろん、どの作業から手を付けるかは推進担当が決めるのではなく、本人と一緒に業務を書き出したうえで選びます。
本人が「これが減ると助かる」と感じる作業から始めたほうが、途中で止まりにくくなります。
浮いた時間は、その人の推進活動に回すと決めておく
この置き方には、もうひとつ欠かせないルールがあります。
減らして浮いた時間は、その人がAI推進に使う時間として確保しておくことです。
これを決めていないと、空いた時間にすぐ別の通常業務が入り、外から見ると何も変わっていないように見えてしまいます。
本人にとっても「頑張って効率化したのに、仕事が増えただけ」と感じてしまうので、次に協力をお願いしにくくなります。
浮いた時間を推進に回すと先に決めておけば、効率化で空いた時間を使ってさらに効率化を進める循環が回り始めます。
1人目で生まれた時間は、そのまま2人目を支援するための時間として使えるようになります。

「みんな忙しくてAIに時間を割けない」と言われる組織ほど、高度な活用より先に、時間を空ける活用から始めるのが順番として正しいのではないかと思っています。
1人の業務時間を減らす目標を、ルールから全社展開までの順番の中に置いたものは、組織のAI活用の進め方で説明しています。
1人の実測値は、そのまま費用対効果の説明になる
この設計のもうひとつの利点は、経営に説明するための材料がそのまま手に入ることです。
「この1人の業務時間が月◯時間減り、人件費に換算すると月◯万円。ツールにかかっている費用は月◯万円」と報告できます。
全社の曖昧な効率化率を示すより、1人の実測値を示すほうが、聞く側にとってずっと具体的に受け取れます。
外部の支援やツールの費用が見合っているのかを問われたときも、まず1人の成功例を示すのが最短の説明になります。
2人目は、違う職種から選んで「作り方」を広げる
1人で成果が出たら次は横展開ですが、ここで急がないことが大事です。
よく起きるのが、1人の成功を見てすぐに全社へ広げようとし、その人が作ったツールをそのまま配ってしまうパターンです。
ほかの人の業務には合わないので、配ったツールは使われないまま終わります。
広げるべきなのはツールではなく、業務を棚卸しし、例外を言葉にし、ツールにして検証する、作り方の手順のほうです。
業務の棚卸しから実装までの進め方は、業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順にまとめています。

もうひとつ、2人目と3人目は1人目とは違う職種から選びます。
同じ職種で3人がうまくいっても「あの部署だからできた」で終わりますが、違う職種で成果が出ると「うちでもできるかもしれない」に受け止め方が変わります。
成功例を別の部署に移すときの考え方は、特定部署のAI成功事例を全社へ展開する抽象化アプローチでも扱っています。
最初の1人を選ぶところから一緒に考える
誰を1人目にするか、どの業務から減らすかは、組織の状況によって答えが変わります。
私たちが提供しているAIコンサル&伴走支援でも、まず1人の業務時間を大きく減らす成功例をつくるところから進めています。
KPIの置き方で止まっている場合は、進め方の参考になるかもしれません。
AI推進のKPIは、続けるための信頼を集めるために置く
AI推進のKPIは、成果を管理するためというより、推進を続けるための予算と信頼を確保するためにあると考えたほうが実態に合っています。
だからこそ、測りやすく、期間内に出て、周りから見て大きい数字を選びます。
その数字が出たら次の投資を引き出し、2人目、3人目へと広げていくことを繰り返します。
きれいな全社目標を掲げて説明に詰まるより、1人の実測値を手元に持っているほうが、経営との会話ははるかに前に進みます。
最初の一歩は、「この人の業務を半分にする」と言える相手を、1人だけ決めることです。
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執筆:寺田昇平
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