組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

バックオフィスのAI活用は守りから入る。請求・集計・リスクチェック

バックオフィスのAI活用は守りから入る。請求・集計・リスクチェック

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

バックオフィス部門へのAI導入は、たいてい慎重な反応から始まります。

「間違えたら誰が責任を取るのか」「監査で説明できるのか」といったところです。
この慎重さは、この部門の職能として正しいものです。
正確性と統制を守るのが役割なので、新しい道具に慎重であるのは当然だからです。

ここで推進担当が「効率化しましょう」と押すと、対立が生まれます。
慎重さを活かす順序で入る必要があります。

なぜ順序が要るのでしょうか?
今回は、この設計について書いていきます。

バックオフィスにAIを持ち込む文脈を、作業を速くする・件数を増やす・人手を減らす攻めの使い方と、見落としを減らす・異常を検知する・リスクを事前に見つける守りの使い方に分けた図。守りの使い方は部門の役割と一致する

経理に絞った使いどころは経理のAI活用を型にする。集計・照合・チェックの標準セットにまとめてあります。

バックオフィスは、攻めではなく守りから入ると受け入れられる

順序の原則は1つで、攻めではなく守りから入ることです。
攻めの使い方とは、作業を速くする、処理の件数を増やす、人手を減らす対応です。
バックオフィスにこの文脈で持ち込むと、警戒されます。

守りの使い方は、見落としを減らす、異常を検知する、リスクを事前に見つける対応です。
この文脈だと、部門の役割と一致します。
同じ道具でも、どちらの文脈で持ち込むかで結果が変わります。

具体的には、「請求書の処理を速くしましょう」ではなく「請求書の処理で、抜けや異常を検知する仕組みを作りましょう」と持ち込みます。
処理の速さのほうは、結果として付いてきます。
最初に「計算はさせません」と言っておくと、話が前に進みます。

計算の役割分担そのものはAIに計算させない。数字を扱う業務での役割分担を組織ルールにするにまとめてあります。

請求書処理・集計・リスクチェックは、守りから攻めの順で効く

この部門で使いどころが大きいのは3領域です。
順番はあるのでしょうか?
請求書と経費の処理では、まず抜けの検知から入ります。
「例年この時期に発生している処理で、今月まだ入っていないもの」を挙げさせるもので、人の記憶に依存していた確認がそのまま仕組みになります。

次が異常の検知で、集計が終わった後に「前月と比べて不自然な項目」を挙げさせます。
金額の大きな変動、初めての取引先、通常と違う費目といったところが挙がってきます。

最後が転記の削減で、形式の違う書類から項目を抜き出すものです。
これが「攻め」に当たる部分ですが、抜けと異常の検知の後に入れるのが重要な順序です。
そのため、抜けと異常の検知で「見落としが減った」という実感が出てから、転記の削減に入ります。
逆順にすると、警戒されたまま進みません。

もちろん確認の工程は必ず残し、抜き出された金額と原本を突き合わせるところは省けません。

請求書と経費の処理でAIを入れる順序を、抜けの検知、異常の検知、転記の削減の3つで示した図。転記の削減は攻めに当たるため、守りの2つの後に入れる

集計と月次のレポートでは、まず数字の変化の説明があります。
前月・前年同月との差分について、変化した項目とその要因の仮説を挙げさせるものです。

また、見るべき観点の提示も効きます。
数字を見る前に「この数字で確認すべき観点」を挙げさせると、見落とす項目が減ります。
もうひとつが報告文の作成で、数字が固まった後の報告文はそのまま任せられます。

ただ、集計そのものは数式でやり、AIには計算させないこと。
この線を守ることが、部門の信頼を得る条件です。
1回でも計算の誤りが出ると、その後の提案が通らなくなるので、ここは徹底します。

リスクチェックは、この部門で最も価値が出る領域です。
取引先の状況の確認では、公開情報から事業の状況・直近の発表・注意すべき情報を調べ、出典は必ず求めること。
契約書の抜け漏れの確認では、通常含まれる条項が入っているかを見ます。
判断はさせず、抜けの列挙までにします。

規程との整合の確認では、社内の規程と実際の処理が合っているかを見て、内部統制の観点で効きます。
定期的な監査の補助では、共有設定が広くなっているファイル、権限が残っている退職者のアカウント、更新されていない台帳といったところを見ます。
これは情シスと共同でやる領域になります。

共有設定の点検そのものは「リンクを知っている全員」共有を自主監査する。AI活用と情報統制で扱っています。

なかでも取引先の状況確認と監査の補助が、特に効きます。
「やっていなかった確認ができるようになる」という形の効果なので、部門の役割の拡張として受け取られます。

バックオフィスのリスクチェックの4つの使いどころ。取引先の状況確認、契約書の抜け漏れの確認、規程との整合の確認、定期的な監査の補助を示した図。取引先の状況確認と監査の補助が特に効く

失敗するのは、だいたい同じ3パターン

この部門で導入が失敗するパターンも書いておきます。
何が共通しているのでしょうか?

まず、効率化の文脈で持ち込むことです。
「人手を減らせます」という説明は部門の役割を軽く扱うことになり、警戒されるので、守りの文脈で入ります。

次に、計算に使ってしまうことです。
1回でも数字の誤りが出ると信頼が失われ、次の提案が通らなくなるので、この線は徹底します。
もうひとつが、監査での説明を考えずに進めることです。
「この処理はどうやって行われたか」を監査で問われる可能性があるので、AIが介在している処理について説明できる状態を作っておきます。

この対処としては、何をAIに通しているか、確認の工程がどこにあるか、誰が最終確認しているかを文書に残しておくこと。
この文書があるかどうかで、監査への対応が変わります。

バックオフィスのAI導入が失敗する3つのパターンと、それぞれを防ぐ方法を左右に並べた図。効率化の文脈で持ち込むなら守りの文脈で入る、計算に使うなら集計は数式で行う、監査での説明を考えないなら通している処理を文書に残す

法務側の線引きは法務のAI活用を型にする。契約書チェックと法令リスク調査で扱っています。

段階を踏むほど、部門の納得感が上がる

進め方の設計です。
段階はいくつあるのでしょうか?
段階1では守りの使い方を3つ試します。
抜けの検知、異常の検知、取引先の状況確認で、いずれも既存の処理に追加する形のため、業務そのものを変えません。

段階2で効果を記録し、見つかった抜けの件数、検知された異常の件数を数え、「これがあったから気づけた」という事例を3件集めるのが目的です。

段階3で転記の削減に入ります。
ここで初めて業務のフローに手を入れることになりますが、段階2の事例があるので部門の側から見ても納得感があります。
段階4が確認の工程の再設計で、転記が自動化されたことで確認の工程が変わるので、ここを部門と一緒に設計します。

段階1から2までで2〜3か月が目安です。
急がないほうが、結果的に速くなります。

バックオフィスへの導入を4段階で示した図。守りの使い方を3つ試し、効果を記録して事例を3件集め、転記の削減に入り、確認の工程を部門と一緒に再設計する

「作業がなくなるのか」に答えると、協力が得られる

補足として、伝え方の要点も書いておきます。
バックオフィスの担当者が気にしているのは、「自分の仕事がなくなるのか」という点です。

ここに答えないまま進めると、協力は得られません。
答えの方向は1つで、転記の作業が減って確認と判断の仕事の比重が上がるということです。
確認と判断のほうが専門性が高い仕事です。

転記は誰でもできますが、異常を見つけて原因を特定するのは経験が要るので、この説明を最初にしておきます。
「作業を減らして、確認と判断に時間を使えるようにする」という方向であれば、部門にとって望ましい変化になります。

浮いた時間の振り向け先も、上司と合意しておくこと。
やれていなかった監査、台帳の整備、規程の見直しといったところで、ここが決まっていないと時間が空いただけになります。

定型業務の削減幅の見積もり方は事務・アシスタント業務のAI活用を型にする。議事録・マニュアル・書類にまとめてあります。

つまずきやすいのは5つです。
効率化の文脈で持ち込む、計算に使う、転記の削減から始める、監査での説明を考えずに進める、「人手を減らせます」と説明する、の5つです。
どれも、守りの文脈で入って計算は数式で行い、守りの3つから始めて通している処理を文書に残し、確認と判断の比重が上がると説明すれば避けられます。

部門ごとに、守っているものが違う

ここまで書いてきたとおり、この部門は入る順序が成否を分け、その順序は部門によっても違います。
経理は計算の正確性が最優先なので、守りから入る必要があります。

一方で総務は比較的自由度が高く、情シスは技術の理解があるので別の入り方ができます。
同じ「バックオフィス」でも、設計が変わります。
順序を決めるには、その部門が何を守っているかを理解する必要があります。
経理は数字の正確性、法務は責任の所在、情シスは統制と可用性です。

経理や法務を含め、職種ごとに入り方を変える前提で使いどころを並べたのが、職種別AI活用まとめ。営業・マーケ・人事・経理・法務の使いどころです。

ここを踏まえない提案は、その部門の役割を軽く扱うことになります。

私たちが提供しているガイドライン策定から支援するAIコンサルでは、部門ごとの導入順序の設計から、実装と運用の定着までを一緒に進めています。
バックオフィスで話が進まない状態で止まっている場合は、進め方の参考になるかもしれません。

バックオフィスは、守りの実感があって初めて攻めに進める

バックオフィスの慎重さは、この部門の職能として正しいものです。

だから「効率化しましょう」ではなく、守りの文脈で入ります。
3領域の使いどころは、請求書と経費の処理(抜けの検知から異常の検知、転記の削減の順序)、集計とレポート(数字の変化の説明・見るべき観点の提示・報告文で、集計は数式で)、リスクチェック(取引先の状況確認と、共有設定や権限の監査補助が特に効く)の並びです。
失敗するのは3パターンで、効率化の文脈で持ち込む、計算に使ってしまう、監査での説明を考えずに進める、というものです。

進め方は、守りの使い方を3つ試し、「これがあったから気づけた」という事例を3件集めてから転記の削減に入り、確認の工程を再設計する順序です。
段階1から2で2〜3か月、急がないほうが結果的に速くなります。
「転記が減って、確認と判断の比重が上がる」という説明を最初にしておきます。
確認と判断のほうが、専門性が高い仕事だからです。

月次の締めで「例年発生しているが今月まだ入っていない処理」を挙げさせてみたら、何件出てくるでしょうか。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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