組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

問い合わせ対応を記録・判定・通知まで自動化する。一次対応の設計

問い合わせ対応を記録・判定・通知まで自動化する。一次対応の設計

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

問い合わせの取りこぼしは、気づかれないまま起きます。

受信箱に埋もれた、担当が休んでいた、営業の問い合わせだと判断されなかった。
そして数週間後に「あの件はどうなりましたか」と別の経路で連絡が来て、初めて分かります。
取りこぼしの件数は、起きたこと自体に気づかないのでどこにも測られておらず、集計のしようもありません。

今回は、この一次対応をAIで自動化して仕組みにする話を整理していきます。
メール対応そのものの標準化はメール対応の品質と速度を組織でそろえる。返信・要約の標準化にまとめてあります。

問い合わせの一次対応を、記録・判定・通知の3工程で組むことを示した図。記録は受信を表に1行追加するだけで効果があり、AIが必要なのは判定の部分だけで、通知は担当へ件名と要約とリンクを送る

取りこぼしは、記録・担当・期限が決まっていないから静かに起きる

なぜ気づかれないのでしょうか?
理由は3つあります。

ひとつが記録の問題で、受信箱の中にあるだけで一覧になっていないので、対応済みかどうかが分かりません。
次が担当の問題で、共有のアドレスに来た問い合わせを誰が見るかが曖昧なまま、「誰かが見ているだろう」というところで止まります。
もうひとつが期限の問題で、いつまでに返すかが決まっていないと、遅れていること自体が分かりません。
この3つを解くことが施策の中身で、AIが必要なのは判定の部分だけ、あとは記録と通知の仕組みです。

記録・判定・通知の3工程で組む

構成そのものは3工程だけで、記録・判定・通知の順に組むだけのシンプルな設計です。

工程1が記録で、受信した問い合わせを表に1行追加します。
日時・送信者・件名・本文・対応状況を並べる形で、ここが土台になります。
記録がなければ、後の工程は意味を持ちません。
表の作り方そのものはスプレッドシートを社内DBとして扱う。AI自動化の土台設計にまとめてあります。

工程2が判定で、内容から種類を判定して列に入れます。
営業の問い合わせか、既存顧客からの質問か、採用の応募か、営業を受ける側の連絡か、といった分類です。

工程3が通知で、判定に応じた担当へ件名と要約、記録へのリンクを送ります。
このなかで、工程1を作っただけでも効果があります。
一覧になるだけで対応済みかどうかが分かるので、判定と通知はその上に足していくものです。

判定基準は過去100件の分類から決める

工程2の設計が、施策全体の要点になるところです。

最初にやるのは過去の問い合わせを分類することで、直近100件を見て種類に分けてみると実態が分かります。
そのうえで、分類の選択肢を5つ程度に絞ります。
営業の問い合わせ、既存顧客の質問、採用、営業を受ける側、その他、といった形です。

「その他」は必ず入れておきます。
当てはまらないものが無理に分類されるのを防げますし、「その他」の件数を見るのが分類の精度を測る最も簡単な方法になるからです。
ここが多ければ、選択肢の設計が実態と合っていません。
分類そのものの作り方はスプレッドシートのAI関数で終わる業務・終わらない業務で扱っています。

過去100件の問い合わせを見て決める分類の例を示した図。営業の問い合わせ、既存顧客の質問、採用、営業を受ける側の連絡の4種類に加え、必ず入れる「その他」の件数が分類の精度を測る最も簡単な方法になる

ただ、判定の精度そのものは、完璧でなくて構いません。
重要なのは判定が違っていても担当が直せる形にしておくことで、表の列を手で書き換えられるようにしておきます。

営業の問い合わせだけは、判定を甘めにします。
営業の可能性があるものは営業に通知するという設計で、取りこぼしのコストのほうが余分な通知のコストより大きいからです。

通知のほうで決めておくことも3つあります。
まず通知先を名前で決めることで、「営業部」ではなく個人名にしておきます。
部署に通知すると、誰も自分の担当だと思わないからです。
また、担当が不在のときの代替を決め、通知先が2人になる形にしておくと、片方が休んでいても止まりません。

もうひとつが対応の期限を決めることで、営業の問い合わせは当日、既存顧客の質問は翌営業日、それ以外は3営業日というように、種類ごとに違って構いません。

最後に期限を超えたものを検出する仕組みを置きます。
記録の表で、対応状況が空欄のまま期限を超えた行を抽出するものです。
つまり、ここが取りこぼしの検出そのものになります。
週1回この一覧を出すだけで、静かな取りこぼしは減ります。

テスト実行から本番移行までは4段階で進める

自動化を本番に入れるときの順序で、ここを飛ばすと事故が起きます。

段階1は記録だけを動かすことで、通知は出さず記録だけを1〜2週間溜めます。
この段階で、記録が正しく取れているかを確認します。

段階2で判定を追加しますが、ここでも通知はまだ出しません。
判定の列が埋まる状態にして精度を確認する形で、100件ほど溜まったら判定が妥当かを人が見ます。
「これは営業だろうか」と判定が割れた行の傾向を見て、指定を直します。

段階3で通知を追加して、ここで初めて通知が飛びます。
最初は担当1人に絞って、通知が多すぎないか内容が十分かを確認します。

段階4が全体への展開です。
この4段階のうち、段階2で必ず止まって確認するのが要点です。
判定の精度を確認せずに通知を出すと、誤った振り分けの通知が飛んで現場の信頼を失うことになります。

自動化を本番に入れる4段階を示した図。段階1は記録だけを動かす、段階2で判定を追加して精度を人が確認する、段階3で通知を追加する、段階4で全体に展開する。段階2で必ず止まって確認する

問い合わせに限らず、AI化を実装まで運ぶときの前後の工程は、業務のAI化の進め方。棚卸しから優先順位付け・実装までの手順に並べてあります。

小規模な組織での話を書いておきます。
着手前は問い合わせが共有のアドレスに来ていて、代表と営業担当の2人が受信箱を見ている状態でした。
記録のほうは残っておらず、対応済みかどうかは記憶に依存していて、たまに「返信したつもりで返信していなかった」が起きていました。

まず記録だけを動かしたところ、2週間で40件ほど溜まり、そこで分かったのが問い合わせの半分が営業を受ける側の連絡だったことです。
感覚では「営業の問い合わせが多い」と思われていましたが、実際は違っていました。

次に判定を追加して、選択肢は営業・既存顧客・採用・営業を受ける側の4つにしました。
100件ほどで確認したところ、営業と営業を受ける側の判別で数件の誤りがありましたが、担当が手で直せる範囲でした。
通知は、営業の問い合わせを代表と営業担当の2人に、既存顧客の質問は営業担当に、採用は代表に、営業を受ける側の連絡は通知しない設定にしています。

小規模な組織で、判定した種類ごとに通知先を分けた例を示した図。営業の問い合わせは代表と営業担当の2人、既存顧客の質問は営業担当、採用は代表、営業を受ける側の連絡は通知しない。通知しないものを決めたことで通知の件数が半分以下になった

結果として通知の件数が半分以下になり、営業の問い合わせに気づくのも速くなりました。
通知が絞られたことで、通知を見る習慣ができたからです。

この話で示唆的なのは、通知を減らすことが効果だった点です。
全部を通知すると通知を見なくなるので、通知しないものを決めるのが、実は最も効く設計でした。

記録が溜まるほど、業務の削減につながる

記録が溜まってくると、今度は集計ができるようになります。
ひとつが種類別の件数の推移で、どの種類が増えているかが分かります。
次が問い合わせの内容の傾向で、「またこの質問か」という繰り返しが見えると、案内の文書を作ることで問い合わせ自体が減ります。

もうひとつが対応までの時間で、種類別の平均を見ていきます。
もちろん期限を超えている種類があるなら、それは体制のほうの問題です。
最後が流入の経路で、どこから問い合わせが来ているかはマーケティングの判断材料になります。

このなかで内容の傾向が、業務の削減に直結します。
件数が多い質問についてあらかじめ案内を用意すれば、問い合わせが減って対応の時間も減るからです。

記録が溜まると集計できる4つを示した図。業務の削減に直結するのは問い合わせの内容の傾向で、よくある質問に案内を用意すれば問い合わせが減る。ほかに種類別の件数の推移、対応までの時間、流入の経路がある

つまずきやすいのは6つです。
判定から作り始める、判定の精度を確認せずに通知を出す、通知先を部署にする、全部を通知する、期限を決めない、判定を修正できない形にする、です。
どれも、記録から作って段階2で止まり、名前で決めて通知しないものを決め、種類ごとに期限を置いて手で直せる形にすれば避けられます。

判定基準の設計と実装は、セットで進めたほうが速い

ここまで書いてきたとおり、仕組み自体は3工程で単純です。
難しいのは、その手前にある判定基準の設計のほうです。

基準を作るには、過去の問い合わせを分類する作業が要ります。
100件を見て種類に分けて、選択肢を決めて、「その他」に落ちる件数を見て調整する。

「時間ができたらやります」で着手が延びるのが、最も多い停滞の理由です。
対象を洗い出す設計そのものはAI化する業務が見つからない。全社一斉の業務棚卸しの設計で扱っています。

もう1つ、実装と設計を分けると進まないという事情もあります。
基準を決めてから実装しようとすると、実装の段階で「この条件は組めない」が出てくるので、設計と実装を並行して動かしながら基準を調整するほうが速いです。

私たちが提供しているAIコンサルでは、こうした判定基準の設計と実装をセットで進めています。
仕組みは分かるが着手できない、という状態なら、進め方の参考になるかもしれません。

通知しないものを決めることが、いちばん効く設計になる

問い合わせの取りこぼしは、記録が残っていない、担当が決まっていない、期限が決まっていない、の3つから静かに起きます。
構成は3工程で、記録、判定、通知という並びです。
記録は表に1行追加するだけですが、これだけでも効果があります。

判定基準は過去100件を分類して、選択肢を5つ程度に決めます。
「その他」を必ず入れて、その件数で精度を測ります。
判定は完璧にならないものなので、手で直せる形にしておきます。

通知先は名前で決めて、2人にしておきます。
期限は種類ごとに決めて、期限を超えた行を週1回抽出します。
ここが取りこぼしの検出になります。

通知しないものを決めるのが、最も効く設計です。
全部を通知すると、通知そのものを見なくなるからです。
問い合わせを表に記録するところまでできれば、2週間で一次対応の実態は見えてきます。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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