組織のAI活用をAIポータルと伴走支援で加速

社内AIの「単位」をどう切るか。ナレッジ分割を決める3つの軸

社内AIの「単位」をどう切るか。ナレッジ分割を決める3つの軸

執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。

社内資料をもとに答えるAIを作り始めると、最初に迷うのがここです。
どこまでを1つにまとめるのか、NotebookLMのような仕組みでどう分割するかという話です。
社内の全資料を1つに入れれば、どんな質問にも答えられそうに見えます。
ただ、実際にやってみるとそうはならず、答えが曖昧になって関係のない資料を根拠に答え始めます。

ここでは、その分割の単位をどう決めていくかを整理していきます。
作る側の進め方はGemini Notebook(旧NotebookLM)の社内活用。部門の一次対応から全社に広げる進め方にまとめてあります。

社内資料をもとに答えるAIの分割の単位を決める3つの軸。まず業務で大きく分けて5〜10個、次に読者で閲覧範囲が異なるものだけ分け、最後に更新頻度で作業が重くなっているものだけ分ける。結果は10〜15個程度に収まる

全部入りのAIは精度が落ちる

なぜ全部入りだと精度が落ちるのか、理由は3つあります。

ひとつは、似た記述が複数あっても、どれを根拠にするか決まらない点です。
就業規則と各部門のローカルルール、過去の運用メモに、それぞれ違う記述がある。
どれも社内の正式な文書だと、優先順位が判断できません。

次に、質問の意図そのものが絞りきれなくなります。
「申請の期限は」という質問が、経費なのか休暇なのか稟議なのか分からない。
参照範囲が狭ければ文脈で決まりますが、広いと決まらなくなります。

もうひとつは、古い資料が混ざる確率がそのまま上がる点です。
資料の数が増えるほど、更新されていないものが混ざりやすくなります。
鮮度をどう保つかは古い情報で答えるAIを作らない。社内ナレッジの更新体制のつくり方で扱っています。

また、重要なのは、精度が落ちても気づきにくいことです。
答え自体は返ってくるので、間違っているかどうかは検証しないと分かりません。
つまり、「使ってみたけど微妙だった」という評価だけが残ります。

社内の全資料を1つに入れると精度が落ちる3つの理由。似た記述が複数あると根拠が決まらない、質問の意図が絞りきれない、古い資料が混ざる確率が上がる。精度が落ちても答えは返ってくるので気づきにくい

単位の切り方は情報基盤づくりの一工程なので、その前後にある文書の選定や置き場の設計は、社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方で順を追って見られます。

分割は業務・読者・更新頻度の順で決める

分割の単位は3つの軸で決めますが、最初に考えるのは業務の軸で、ここが第一になります。
人事、経理、情シス、製品情報、営業資料といった切り方で、質問する人の頭のなかでカテゴリが分かれている単位に合わせます。
こうすると、使う側が「これはどこに聞けばいいか」で迷わない粒度になります。

次が読者の軸で、全社員向けか管理職向けか特定部門向けかなど誰が使うかで分けます。
同じ業務領域でも閲覧範囲が違う資料があるので、この軸が効きます。
人事の資料には全社員が見てよいものと管理職だけが見るものがあり、ここを1つにまとめると権限の管理ができません。

もうひとつが更新頻度の軸で、頻繁に変わるものとほとんど変わらないものを分けます。
価格表や制度の運用ルールは頻繁に変わりますが、会社の理念や基本方針はほとんど変わりません。
混ぜると更新の作業が重くなります。
3つを同時に考えると混乱するので、順番を決めておきます。

まず業務で大きく分け、ここで5〜10個程度の単位になるのが普通です。
次に読者で必要なものだけ分け、全部を読者で分ける必要はなく閲覧範囲が異なる資料が含まれるものだけに絞ります。

最後に更新頻度で、同じく作業が重くなっているものだけを分けます。
この順で進めると、最終的に10〜15個程度に収まります。
管理できて、しかも使う側が迷わない範囲だと考えています。

部門横断のナレッジは独立させ、分けすぎたら統合を検討する

分割していくと、どの部門にも属さない、あるいは全部門に関わるナレッジが必ず出てきます。
会社全体のルール、就業規則や情報管理の方針、経費の基準は、業務の軸で「全社共通」という単位を1つ作って置きます。
読者が全社員で更新頻度も低いので、単位として素直に成立します。

製品やサービスの情報は、営業・開発・サポートのすべてが参照します。
これも独立した単位にして、複数部門から参照する形にします。
部門ごとにコピーを持たせると、どれが最新か分からなくなるからです。

過去の議事録や案件の記録は、扱いが難しい領域です。
量が多く、更新はされず、参照もまれで、答えを得るためではなく過去の経緯を追うために使うものだからこそ、用途が違う以上は単位も分けておきます。
逆方向の失敗もあり、細かく分けすぎると別の問題が起きます。

部門をまたぐナレッジの置き方。会社全体のルールは全社共通の単位を1つ作る、製品やサービスの情報は独立した単位にして複数部門から参照しコピーを持たせない、過去の議事録や案件の記録は用途が違うので別扱いにする

選ぶ場所が多いとどこに聞けばいいか分からなくなり、30個並んでいると選ぶ作業が発生して、「探せない」という問題がそのまま再発します。
分割が細かいと、同じ資料が複数の単位にまたがって入り、片方だけが更新されて答えが食い違います。
管理そのものも回らなくなりがちで、単位の数だけオーナーが必要になった結果、誰も見なくなります。
判断の目安はシンプルで、1つの単位に入れる資料が3件を下回ったら統合を検討し、少なすぎる単位は独立させる意味がないと判断します。

戻す判断も必要で、統合してよいのは読者が同じで更新頻度も近い場合です。
この2つが揃っていれば、業務の軸で細かく分けていたものを1つにまとめても問題は起きにくいです。
逆に読者が違う場合は統合してはならず、ここを統合すると権限の問題が発生します。
「更新頻度が近いから」という理由だけで統合しないよう、順序は守ります。

資料が3件を下回る単位は統合を検討する。読者が同じで更新頻度も近い場合は統合してよい。読者が違う場合は権限の問題が起きるので統合しない。更新頻度が近いという理由だけでも統合しない

統合するときは、資料の重複を先に解消しておきます。
同じ内容の資料が複数の単位に入っていた場合、統合するとその重複が1つの中に並びます。
これは精度を落とす原因そのものなので、先に片方を消しておきます。

設計は表1枚に残し、答えられない範囲まで書く

分割の設計は表1枚に残しておき、書く項目は5つです。
単位の名前、含める資料、想定する読者、更新オーナー、更新頻度。

残す理由は3つあり、ひとつは担当が変わっても引き継げる点です。
設計の意図が残っていないと、次の担当は「なぜこう分かれているのか」が分からず、勘で追加していく流れになります。
引き継ぎの様式は担当が変わってもAI業務が止まらない。引き継ぎパッケージの設計にまとめてあります。

次に、新しい資料が来たときの置き場所がすぐ決まります。
設計がないと毎回判断が必要になり、しかもその判断がぶれます。
もうひとつは、そのまま棚卸しの単位になる点で、この表が四半期の見直しのチェックリストになります。

設計を残す作業は、作るときにやれば5分で済みます。
後から書こうとすると、なぜそう分けたかを思い出せません。

分割の設計と一緒に、その単位が答えられない範囲も明示しておきます。
使う側には範囲が分からず、人事のナレッジに給与計算の詳細を聞いて答えが返らないと「使えない」という評価になりますが、実際には範囲外を聞いているだけです。
だから説明欄には2行書き、答えられる範囲と答えられない範囲とに分けます。

「答えられること:就業規則・休暇・各種申請の手続き」「答えられないこと:個人の給与額、評価の内容、労務の個別相談(人事部に直接お問い合わせください)」という形です。
後者に代替の窓口を添えるのがコツで、範囲外だと分かっただけではその人の問題は解決しません。
どこに聞けばよいかまで書いておけば、範囲を絞っても不便にはなりません。
この2行があるかないかで、同じ精度のものが「便利」と評価されるか「使えない」と評価されるかが変わります。

答えられないときの行き先が無いと聞いた人が離れていく点は、社内チャットボットが失敗する原因にも挙げています。

人事のナレッジの説明欄の書き方の例。答えられることは就業規則・休暇・各種申請の手続き。答えられないことは個人の給与額・評価の内容・労務の個別相談で、人事部に直接問い合わせるよう窓口を添える

AIボットの単位にも同じ3軸が効く

ここまではナレッジの話ですが、社内で作るAIボットの単位を決めるときも、同じ3軸が使えます。

業務の軸では、1つのボットに複数の業務を詰め込まないようにします。
議事録の要約と企業リサーチを1つにすると指示が複雑になり、どちらも精度が落ちるからです。
部品化の考え方は万能AIボットを作らない。社内AIツールを部品化して組み合わせるで扱っています。
読者の軸では誰が使うかで分け、営業向けと管理職向けでは必要な出力の形が違います。

更新頻度の軸では、頻繁に手を入れるものと固まって動かないものを分けます。
混ぜると、安定しているはずの部分まで壊すリスクが出てきます。

そしてナレッジとボットの単位をそろえておくと、運用がかなり楽になります。
人事のナレッジと人事向けのボットが同じ担当の管轄になり、更新のタイミングも合うからです。

逆にここがずれていると、ナレッジは更新されたのにボット側の指示は古い前提のまま、という不整合が起きます。
設計表を作るときは、ナレッジとボットを同じ表に並べておくのがおすすめです。

失敗は、境界を決めずに混ぜるところに集まる

多いのは、社内の全資料を1つに入れてしまう失敗で、精度が落ちるうえにその低下自体に気づけません。
次に多いのは、業務・読者・更新頻度を同時に考えてしまう失敗です。
混乱するので、業務で大きく分けてから必要なものだけ他の軸で分けます。

部門ごとに製品情報のコピーを持たせるのもよくある失敗で、どれが最新か分からなくなります。
細かく分けすぎる失敗もあり、選ぶ作業が発生して「探せない」問題が再発するので、資料3件未満の単位は統合を検討します。
最後に、設計そのものを残さない失敗で、担当が変わった時点で分けた意図が失われます。

ナレッジとボットの設計表づくりは、当社のAI伴走支援でも、AIツールの実装の一部として現場の担当者と一緒に進めています。

単位は精度ではなく、境界の設計で決まる

社内の全資料を1つにまとめると、根拠が決まらない、質問の意図が絞れない、古い資料が混ざるという3つの理由で精度が落ちます。
分割は3軸で決めます。
まず業務で大きく分け、次に読者で必要なものだけ、最後に更新頻度で必要なものだけ。

結果として10〜15個程度に収まり、部門横断のものは「全社共通」「製品情報」として独立させてコピーは持たせません。
過去の議事録や案件記録は用途が違うので、別扱いにします。

分けすぎにも注意し、資料3件未満の単位は統合を検討します。
統合してよいのは、読者が同じで更新頻度が近い場合だけです。

最後に、単位名・資料・読者・オーナー・更新頻度の5項目の設計表を必ず残します。

いま作っているものの資料一覧は、業務の軸で分かれているでしょうか?
分かれていなければ、まずそこから整理してみてください。

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執筆:寺田昇平

AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事

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