
万能AIボットを作らない。社内AIツールを部品化して組み合わせる
2026/08/17
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
社内AIボットの設計を始めると、多くの人が機能を足していく方向へ同じように進んでいきます。
議事録を要約するボットを作ったら、次は決定事項の抽出も入れよう、タスクの一覧も出せるようにしよう、関係者への共有文も作れるようにしよう、と広がっていきます。
「せっかく作るなら1つで全部できたほうがいい」。
気持ちとしては自然です。
ところが実際にこの方向へ進むと、使われないものができあがります。
今回は、部品化という設計の考え方を整理します。
内製化そのものの進め方は社内AIツールの内製化。現場が自分で作れる組織にするまでにまとめてあります。

詰め込むと精度が落ち、直せなくなり、使われなくなる
なぜ詰め込みたくなるのかが分かると、対策の伝え方も決まってきます。
動機は主に3つあって、作る手間を1回で済ませたい、使う人に「どれを使えばいいか分からない」と言わせたくない、そして充実したものを作りたいという達成感です。
どれも動機としては妥当なので、「詰め込むな」と言うだけでは現場は変わりません。
詰め込んだ結果どうなるかを、先に伝える必要があります。
複数の判断を同時に処理させると、それぞれが浅くなるので、まず精度が落ちます。
つまり、要約と抽出と文章作成を1回で頼むと、どれも中途半端になるということです。
指示が長く複雑になると1箇所を直したときに他の部分の挙動まで変わるので、次に直せなくなります。
動いていた機能が壊れる経験をすると、触るのが怖くなっていきます。
入力する項目が多く、出力も長く、使い方の説明まで要るとなると、業務の合間に使うものとしては単純に重すぎます。
重いものは、忙しい時期から順に使われなくなっていきます。
使われないものが増えるほど、カタログ全体の信頼のほうが落ちていきます。
3つのうち、いちばん効いてくるのがここです。

部品の粒度は「1つの業務の1工程」で決まる
では、どこで切るのか?
目安になるのは「1つの業務の1工程」です。
議事録の例で考えます。
部品Aは、文字起こしから決定事項・宿題・懸案を分類して抽出するものです。
部品Bは、抽出した内容を指定した相手向けの共有文にするものです。
部品Cは、宿題をタスクの一覧に整えるものです。
3つに分けると、それぞれの指示が短くなります。
抽出さえできればそのあとは自分で書くほうが速いという人がいるので、部品Aだけを使う人も出てきます。
1つに詰め込むと、この使い方ができません。
粒度に迷ったら、「この機能だけを使いたい人がいるか」「この機能を単独で直したくなることがあるか」の2つを問います。
どちらかがイエスなら、そこで分けます。
もちろん、細かく分けすぎると今度は組み合わせる手間が増えるという、逆方向の失敗もあります。
1つの業務を終えるのに部品を4つ以上通す必要があるなら、分けすぎです。
3つまでなら現場は回しますが、4つを超えると途中で面倒になって使われなくなります。
入力と出力の形が同じ部品は、分ける意味が薄いので統合を検討します。
分けるときの原則は、判断の種類が変わる位置で切ることです。
抽出と文章化は判断の種類が違うので分けますが、要約と短縮は同じ種類なので分けません。

組み合わせは「セット」で教え、入力は狭めない
部品化すると、使う側に「組み合わせる」という考え方を伝える必要が出てきます。
どう伝えるか、ここが説明の難所です。
効くのは、業務単位の使い方の順序を1枚で示すことです。
部品の一覧を渡すのではなく、「議事録を作るときは、A→Bの順に使います」という手順のほうを示します。
また、よく使う組み合わせは、部品の名前ではなく業務名で呼びます。
「議事録セット」「商談準備セット」といった呼び方にしておかないと、組み合わせを毎回考えることになります。
最初の1回は、一緒にやります。
手順書を渡すだけでは、部品を渡り歩く操作が想像できません。
15分付き合って1回通すと、以後は自分で回してくれるようになります。

部品化の最大の利点は、他の業務でも使えることなので、ここを設計に入れておきます。
「決定事項と宿題を抽出する」部品は議事録だけでなくメールのやり取りや商談の記録にも使えますし、「指定した相手向けの共有文にする」部品は、あらゆる報告に使えます。
再利用できる状態にするには、2つやることがあります。
1つは、入力の前提を狭くしないことです。
特定の形式を前提にすると他の業務で使えなくなるので、「会議の文字起こしから」ではなく「テキストから」にしておきます。
もう1つは、カタログに再利用の候補として書くことです。
「この部品は議事録以外にも、メールのやり取りや商談記録にも使えます」と添えておきます。
ここを書いておかないと、同じものが別の名前で作られます。

カタログや置き場所そのものの設計は社内ナレッジをAIで活用する方法。ツール導入・RAG・手持ちのAIの選び方で扱っています。
棚卸しのときに似た部品が並んでいないかを見て、重複が見つかったら利用回数の多いほうを残し、差分だけ取り込みます。
設計は表に残し、標準部品は利用回数で決める
部品化を進めると全体の構成が把握しにくくなるので、だからこそ設計を表に残しておきます。
書くのは、部品名・何をするか・入力と出力の形・使われている業務の4項目です。
最後の「使われている業務」がいちばん重要で、どの業務で使われているかが分かれば直すときの影響範囲まで分かります。
ここが分からないまま1つの業務のために直すと、他の業務のほうが壊れます。
この表は、統合と廃止の判断材料にもなります。
使われている業務がゼロの部品は廃止候補ですし、同じ入出力の形の部品が並んでいれば統合候補になります。

部品化を組織で回すなら、用途ごとに標準の部品を1つ決めておくのも有効です。
決めておかないと各部門が同じ用途の部品をそれぞれ作り、「テキストから決定事項を抽出する」部品が5つ並ぶという状態になります。
どれも8割は同じで、残りの2割だけが違います。
標準は、既にあるものの中から選びます。
出来のよさで選ぼうとすると主観の議論になってしまうので、利用回数の多いものを標準に昇格させるのがいちばん揉めないやり方です。
標準を決めたからといって、それ以外を消す必要はありません。
標準を明示して新しく作る人がそこから始められるようにするだけで十分で、ゼロから作る人が減れば重複は自然に減っていきます。
標準として置きたい部品は、だいたい共通しています。
テキストからの要点抽出、指定相手向けの文章化、表形式への整形、事実確認の観点出しです。
この4つを先に用意しておくと、現場は組み合わせから始められます。
もう1つ、部品化の効果として押さえておきたいのが保守です。
指示が長くてどこが何に効いているか分からないので、詰め込んだボットは作った本人しか直せません。
作成者が異動すると、誰も触れないものが残ります。
部品化されていれば1つあたりの指示が短いので、他の人でも読んで直せます。
直したときの影響範囲も、設計表を見ればすぐ分かります。
属人化を防ぐ手段として部品化を位置づけると、推進側の説明としても通りやすくなります。
「1つで全部できるものを作らないでください」ではなく、「あなたが異動しても使い続けられる形にしましょう」と言うということです。
担当が変わったときに止まらない形の作り方は担当が変わってもAI業務が止まらない。引き継ぎパッケージの設計にまとめてあります。
1つの巨大なボットだと担当は1人ですが、3つの部品なら3人で分担できるので、部品ごとに更新オーナーを分けられるのも利点です。
失敗の型は、動機を無視するところから始まる
動機のほうが妥当である以上、「詰め込むな」とだけ伝えても変わりません。
詰め込むと直せなくなって使われなくなる、というところまで先に伝える必要があります。
部品の一覧だけを渡すのも、よくある失敗です。
使う側が組み合わせを毎回考えることになるので、業務単位の手順と「セット」の名前のほうを渡します。
4つ以上の部品を通す業務は途中で使われなくなるので、細かく分けすぎるのも同じ失敗で、3つまでにします。
入力の前提を特定の業務に固定するのも失敗の型で、再利用できなくなり同じものが別の名前で作られます。
どの業務で使われているか分からないまま直すと他を壊すことになるので、設計を残さないことも失敗につながります。
私たちが提供しているAI伴走支援でも、業務単位の手順と部品の組み合わせを決めるところから、AIツールの実装までを現場の担当者と一緒に進めています。
部品化は、異動しても止まらない仕組みをつくる
機能を詰め込みたくなる動機そのものは、妥当です。
ただ、詰め込むと精度が落ち、直せなくなり、重くて使われなくなります。
粒度の目安は「1つの業務の1工程」で、「この機能だけを使いたい人がいるか」「この機能を単独で直したくなるか」のどちらかがイエスなら分けます。
分けすぎにも線があって、1つの業務に部品が4つ以上必要になるなら統合し、分ける位置は判断の種類が変わるところにします。
使う側には、部品の一覧ではなく業務単位の手順と「議事録セット」のような呼び名を渡し、最初の1回は一緒に通します。
入力の前提は狭くせず、再利用の候補をカタログに書いておきます。
いま使っているボットの中に機能が2つ以上入っているものがあれば、そこから分ける余地があります。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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