
AIが「できません」と返す時。回避策を社内ナレッジにする
2026/08/19
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
「AIに聞いてみたけど、できないって言われました」という報告が、推進を進めていると上がってきます。
そして多くの場合、そこで止まります。
本人は一度試して断られたので、その業務はAIでは無理だと結論づけ、周りにも「あれはできないらしい」と伝わっていきます。
実際には依頼の仕方を変えれば通ることが多いのですが、そのノウハウは試した人の頭の中にしか残りません。
ということで、生成AIに断られたときの対処を社内のナレッジとして溜める仕組みを整理していきます。
つまずき全体の分類は「AIは使えない」と離脱する人を減らす。つまずき7パターンとサポート設計にまとめてあります。

一度の「できません」で現場が降りる
この問題の本質は技術ではなく、再挑戦されない点にあります。
現場の人にとってAIに依頼するのは業務の合間の試みなので、一度断られたらそれ以上時間をかける理由がありません。
だから、原因を探らず、言い方を変えて試しもしないまま終わります。
厄介なのは、この結論が広がる点です。
「うちの業務ではAIは使えない」という認識が、実際には言い方の問題だったケースから生まれてしまいます。
推進担当がこれを覆すのは、最初に導入するより難しくなります。
だから対策は2段構えで、回避の方法を知らせるのと、誰かが見つけた回避策が他の人に届く経路を作るのとの2つです。
断られる理由は3パターンで、言い換えれば大半は通る
実務で遭遇する「できません」は原因で3つに分かれ、原因が違うので対処も変わります。
では、何を見れば原因が分かるのでしょうか?
安全側の制約に触れた場合は、法務・医療・税務の判断を求めた、人物の評価を求めた、リスクの高い表現を含んでいた、といったものであり、AIは方針として答えを出しません。
依頼の意図が曖昧な場合は、何を出せばよいかが読み取れないと、断りに近い応答になります。
「情報が不足しています」「具体的に指定してください」という返り方をするのがこれです。
依頼の書き方そのものは全社共通のプロンプト作法を決める。押さえるべき7つの基本で扱っています。
制約に引っかかっている場合は、扱えるファイルの形式、読み込める分量、そのサービスで提供されていない機能といったもので、依頼の仕方を変えても通らないので手段を変えるしかありません。
だから判別が重要で、分量の問題であればファイルが大きくてAIに読めない。分割の作法を社内標準にするが対処になります。
現場が混乱するのは、この3つが同じ「できません」という文面で返ってくるためで、見分け方のほうを配ります。
安全側の制約に触れている場合は、目的を変えずに求める形を変えると通ります。
「この契約書は法的に問題ないか判断してください」を「この契約書で、一般的にこの種類の契約に含まれる条項が抜けている箇所を挙げてください」に変えます。
判断を求めるのをやめて、抽出を求める形にします。
「この社員の評価を書いてください」なら「この業務記録から、事実として確認できる行動を時系列で整理してください」に変えます。
評価を求めるのをやめて、材料の整理に変えるわけです。
共通するのは、判断を求めるのをやめて判断の材料を求める置き換えで、業務としてもこの形のほうが正しい使い方になります。

依頼の意図が曖昧な場合は足りない要素を補い、誰向けか・何のためか・どんな形式で・どのくらいの分量かの4つを書き足すだけで大半は通ります。
制約に引っかかっている場合は諦めるのではなく手段を変え、分量が大きすぎるなら分割し、ファイル形式が扱えないなら変換し、機能がないなら別のサービスか自動化のフローで処理します。
回避の型を配るだけでなく読み方も伝え、断り文の中に理由が書かれている場合が多いので、そこを読みます。
「判断が必要な内容です」と書かれていれば安全側の制約、「情報が不足しています」なら依頼が曖昧、「このファイル形式は対応していません」なら機能や分量の制約になります。
ただ、これ以上覚える必要はありません。
現場に配るのは、この1行で足ります。
「断られたら、断り文をもう一度読んで、方針・曖昧・制約のどれかを見てから言い換える」。
2回試して通らなければ相談する、という目安を引いておきます。
自力で30分粘る人と1回で諦める人に分かれてしまうので、ここを決めておかないといけません。
2回で切り上げて相談に回すのが、時間の使い方として合理的です。
相談に回す目安や窓口を社内の決まりとして書き残すなら、生成AIの社内ルールの作り方。ガイドラインの項目サンプルと守れる環境が手がかりになります。
回避策は3行で貯め、窓口も1本に絞る
ここが本題なのですが、回避策は個人のメモに残っても組織には効きません。
場所は1つに決めます。
チャットのチャンネルか、社内の共有文書か、AIボットのカタログの備考欄か。
どれでも構いませんが、分散させない点が条件になります。
置き場そのものの作り方は共有したのに使われない。社内AI資産をカタログ化するにまとめてあります。
書式は3行に収めます。
やりたかったこと:
断られた依頼文:
通った依頼文:
これ以上増やすと、投稿されません。
原因の分析や解説は不要で、通った依頼文がそのまま書かれている点が最大の価値になります。
読んだ人が、そのままコピーして使えるからです。

溜める前に、場所と書式を決めておきます。
後からルール化しても、すでに個人のメモに溜まったものは出てきません。
この順序は内製化やボットのカタログと同じで、置き場を先に作るのが原則です。
回避策が溜まる前提として詰まった人が相談する先も必要で、窓口は1本にします。
「AIで詰まったらここ」というチャンネルを1つ作ります。
情シスと推進チームで分担していても、現場からは1つに見せます。
窓口を1本にすると、副産物としてどこで詰まっているかのデータが集まります。
同じ質問が繰り返し来ていれば配布物が足りていない証拠ですし、特定の部門からしか来ていなければ他の部門では使われていない可能性があります。
相談に答えたら、その内容を先ほどの3行書式でナレッジに転記し、答えて終わりにしない点がナレッジが溜まる条件です。
ここを回答者の手間として設計しておかないと、同じ質問に何度も答える羽目になります。
回り始めたかどうかを見る指標は3つあり、相談件数は増えることが良い状態です。
詰まった人が声を上げるようになった証拠で、諦めて降りていた層が動き出しているからです。
同じ質問の再発率は、減っていればナレッジが読まれていて、減らないなら置き場所が業務の動線から外れています。

投稿者の人数、つまり相談する人ではなく回避策を投稿する人の数も欠かせません。
ここが増えていれば、受け取る側だった人が提供する側に回り始めています。
この数が最も、ナレッジが資産になっているかどうかを表します。

失敗の多くは、共有を怠るところから生まれる
「AIは万能ではない」で締めるのはよくある失敗で、そう言うと現場が納得して降りてしまうので、伝えるべきは限界ではなく回避の方法です。
回避策を推進担当が個人的に持つのも失敗です。
詳しい人に聞けば解決する状態が続き、その人が異動すると全部消えます。
引き継ぎの設計は担当が変わってもAI業務が止まらない。引き継ぎパッケージの設計で扱っています。
書式を作り込みすぎるのも失敗で、項目が10個あるフォームには誰も投稿しないので、3行に絞ります。
窓口を複数作るのも失敗で、「ツールのことは情シス、使い方は推進チーム」と分けるとどちらに出すか迷って結局出さなくなります。
個人のメモに埋もれると全社に効かない
ここまで書いてきたとおり回避策そのものは難しくなく、難しいのは誰かが見つけたものが他の人に届く状態を作る点です。
同じ業務で同じ壁に当たっている人が社内に何人もいて、1人はもう解決しています。
この状態で情報がつながっていない点が、AI活用が広がらない理由の多くを占めているはずです。
見つけた使い方を手順つきの見本にして社内の1か所に置く進め方は、社内で生成AIが浸透しない原因と対策で書いています。
回避策を一人で探す前に当たれる場所として、私たちの組織のAIポータル「AI Portalize」には検証済みの見本が500以上あり、やりたいことから検索して、自分用に直して使えます。
詳しい人に聞けば解決するが全社には効いていない、という状態で止まっている場合は、考え方の参考になるかもしれません。
窓口を1つに絞り、3行で溜めれば組織に効く
「できません」で現場が降りるのは、原因が3種類あるためで、それぞれの回避の仕方が配られていないからです。
見分けるのは安全側の制約・依頼が曖昧・機能や分量の制約の3つで、安全側の制約なら判断を求めるのをやめて材料を求める形に置き換え、依頼が曖昧なら誰向け・目的・形式・分量を足し、機能や分量の制約なら手段そのものを変えます。
2回試して通らなければ、相談に回します。
回避策は場所と3行の書式を先に決めてから溜め始め、相談窓口は1本にして答えた内容は必ずナレッジに転記します。
まずは詰まったときの窓口を1つ作り、そこに来た質問を3行で残していくところから始めます。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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