
組織のAI推進における課題と機会を特定する分析アプローチ
2026/05/15
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
AIの利用データを現場に公開して、活用を促す動きが増えてきました。
現場向けの公開で優先されるのは、直感的な分かりやすさです。
ただ、推進担当や経営層が同じデータを見るときは、求められるものがまったく違います。
「全体平均」の数字だけを眺めていても、次に打つ施策は見えません。
突出して活用している部署と、まったく動いていない部署が、平均の裏に混ざっているからです。
一言でいうと、推進側がデータを見る目的は、組織に潜む課題と機会を特定することです。
今回は、最適な施策を選び取るための指標設計と分析のアプローチを書いていきます。
現場向けの公開のほうは組織におけるAI利用データの可視化と共有手法にまとめてあります。

現場向けの数字と推進側の数字は、目的から違う
現場に見せる数字と、推進側が見る数字は、何が違うのでしょうか?
まず、そこを整理しておきます。
現場に見せる数字は、行動を変えてもらうためのものです。
だから分かりやすさが優先され、指標は1つか2つに絞ったほうが効きます。
一方で推進側が見る数字は、どこに手を打つかを決めるためのものです。
同じ粒度の数字を見ていると、打ち手が全社一律になります。
「全社一律」の施策は、すでに使えている層には不要で、止まっている層には届きません。
そのため、推進側は数字を意図的に細かく持ちます。
部署別、職種別、役職別に割り、指標も複数持って掛け合わせます。
この違いを最初に理解していないと、「現場向けの数字」をそのまま経営会議に出す形になり、どちらの目的も果たせません。
推進担当としての数字の設計はAI推進担当者の情報収集と経営判断。リサーチとROIの設計にまとめてあります。
組織の状態は、6つの指標で診断する
単一のデータだけで、組織の状態を正しく診断できるでしょうか?
ひとつの指標だけを見ると、その指標が動かない理由を説明できず、推測で施策を選ぶ羽目になります。
ここで、測るべき代表的な指標を6つ見ていきます。
まずは「実行回数」です。
月に何回AIを使ったかという行動量を表す基礎的なデータで、活用度と比例しやすいので必ず取ります。
この指標の利点は、解釈の余地が小さいところです。
「回数は少ないが活用できている」ということは基本的にありません。
ただし、どのツール上で使われているかという内訳まで見ないと判断を誤ります。
本人はプロンプトを打っていなくても、会議の自動文字起こしが動いて実行回数が跳ね上がる場合があるからです。
総回数の推移を追いながら、内訳の構造もあわせて把握しておきます。
内訳とあわせて使った日数も見る生成AIの活用度を段階で見る方法は、別のページにまとめています。
次が「アンケート」による定性・定量データです。
ログからは出てこない「なぜ使わないのか」を拾える手段なので、実行回数とセットで持っておきます。
現場の熱量を聞くと同時に、後述する工数削減やコスト削減といった成果指標も直接聞いてしまうと効率的です。
また、メインで使っているAIツールを聞くと、状況の把握が楽になります。
3つ目が「テスト点数」、正しく使えているかを測るものです。
ただし記述式は採点が難しく、選択式は実務とかけ離れた暗記問題になりがちです。
そのため全社で定期実施するより、研修の効果測定としてスポットで使うほうが現実的です。
研修の測り方は研修の理解度を測れる状態にする。テストとクイズを自動化するで扱っています。
4つ目が「工数削減」です。
これを全部きれいに計測するのは無理があるので、客観的なログである実行回数に、ツールごとの係数を掛けて概算します。
例えば、議事録の要約を1回使うごとに10分削減したとみなして、組織全体の削減時間を推計する形です。
5つ目が「コスト削減」、外注費の削減額のように損益計算書へ直結するものです。
これも自動計測が難しいため、アンケートで現場に申告してもらう形式が現実的になります。
最後が「全社指標」で、従業員一人あたりの売上高や残業時間の推移です。
経営としては最も追いかけたい数字ですが、AI以外の変数が多いので、短期の評価指標として使うのは危険です。
ここは年単位で眺める数字だと割り切ります。
無理に計測しないと割り切る
6つ並べましたが、全部を同じ精度で取ろうとしていないでしょうか?
そこで推進が止まります。
取りやすさと意思決定への効きやすさで、優先順位をつけるのが要点です。
実行回数はログから機械的に取れるので毎月、アンケートは四半期に一度、テストは研修のタイミングだけ、という頻度にします。
工数削減は係数で概算し、一度決めた係数を変えないことのほうが精度より重要になります。
係数を毎回見直すと、前月との比較が成立しなくなるからです。
コスト削減と全社指標は、数字が動いたときだけ拾う扱いで構いません。

毎月きれいに埋めようとすると、「埋めること」自体が目的になり、肝心の打ち手に時間が回らなくなります。
数字を日常業務の中で扱える状態にする話は数字を見える状態にする。データ集計と分析をAIで日常業務化するにまとめてあります。
クロス分析で組織の濃淡を見つける
指標と属性が揃ったら、掛け合わせてクロス分析を行います。
漫然とグラフを作るのではなく、組織のどこに濃淡があるかを見つけ出すのが目的です。
利用率が高い部署を深掘りして、「これは使える」という成功事例や便利なプロンプトが見つかれば、それを全社に横展開します。
逆に利用率が低い部署は、要因を特定して重点的にフォローします。
ここまでは分かりやすいのですが、もっと価値があるのは、指標どうしの食い違いを探すほうです。
アンケートでは「自分は活用できている」と答えているのに、実際の利用回数が伴っていない層がいます。
この「できているつもり」の層は、放っておくと研修の対象からも外れ続けます。
ここを洗い出して再教育の対象にできるのが、クロス分析の効きどころです。
「クロス集計」そのものは難しくありません。
縦に部署、横に指標を置いた表を1枚作って、上位3つと下位3つに色を付けるだけで濃淡は見えてきます。
凝ったグラフを作る前に、まず表で外れ値を探すほうが速いです。
さらに、同じ職種でも部署によって活用度に差が出ることがあります。
職種が同じなら業務も近いので、活用が進んでいる部署のやり方を、遅れている部署にそのまま移植できる可能性が高くなります。
全社一律の施策より、こちらのほうがはるかに速く効きます。

集計と可視化そのものを仕組みにする話はデータ可視化を誰でもできる状態にする。分析レポートの自動生成で扱っています。
施策の優先順位は、データで決める
推進担当がデータを細かく見る目的は、課題と機会への解像度を上げることです。
限られたリソースをどこに投下するか、その優先順位を決めるために使います。
全社一律の施策を打つのではなく、成功事例の横展開を優先するのか、止まっている層の教育を急ぐのか、そもそも使い道の提示から始めるのかをデータで判断します。
利用率が高い部署が複数あるなら横展開が先、全体的に低いなら使い道の提示が先、ばらつきが大きいなら差の要因の特定が先、という順序になります。

「なんとなく」の感覚ではなく、カルテをもとに患部を特定してから処置する順序です。
対象業務の見つけ方はAI化する業務が見つからない。全社一斉の業務棚卸しの設計にまとめてあります。
失敗のパターンは、「全体平均」だけを見る、現場向けの数字をそのまま経営に出す、6指標を全部同じ精度で取ろうとする、工数削減の係数を毎回変える、全社指標で短期の成否を判断する、「分析して満足」して打ち手に落とさない、の6つです。
どれも、属性で割り、目的別に数字を分け、取りやすさで優先順位をつけ、係数を固定し、年単位で眺め、必ず1〜2件の施策に落とせば避けられます。

こうした属性で割った数字は、私たちの組織のAIポータル「AI Portalize」なら、部署・職種・グレードごとの利用率と前期比として、集計の手間なしで出ます。
数字は、目的で使い分けて初めて効く
現場に見せる数字と、推進側が見る数字は目的が違います。
現場は分かりやすさ、推進側はどこに手を打つかの判断材料です。
測るのは6つ。
実行回数はツール別の内訳まで、アンケートは成果指標も一緒に、テスト点数は研修の効果測定としてスポットで、工数削減は係数で概算して固定、コスト削減は申告ベース、全社指標は短期の評価には使わない、という運用にします。
全部を同じ精度で取ろうとしないこと。
取りやすさと意思決定への効きやすさで、優先順位をつけます。
クロス分析では、部署ごとの濃淡に加えて、「できているつもり」の層と、同職種なのに部署間で差がある箇所を探します。
後者はノウハウをそのまま移植できるので、最も速く効きます。
まずは実行回数を部署別・職種別に割り、上位と下位の部署を3つずつ書き出してみましょう。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
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