
業務システムを内製するか買うか。判断基準を組織のフレームにする
2026/08/24
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
現場が業務ツールを作れるようになると、次の段階の判断がやってきます。
「これ、自分たちで作れるのでは」。
工程の管理、案件の台帳、簡単な業務システムと、思いつくものは色々あります。
既存のサービスを契約するより自分たちで作ったほうが業務に合っている気がしますし、費用も安く見えるからです。
ところが、内製するかどうかの判断を誤ると、後から取り返せません。
その判断、勢いや感覚だけで決めていないでしょうか?
今回は、この判断をフレームにしていく話を書いていきます。
内製化そのものの全体設計は社内AIツールの内製化。現場が自分で作れる組織にするまでにまとめてあります。

「自分たちで作れるのでは」という誘惑には、本当の理由がある
まずは、なぜそう思ってしまうのか整理しておきます。
理由のなかには、正当なものも含まれています。
誘惑の正体は、だいたい4つに分かれます。
業務に合わせられる、費用が安く見える、待たなくていい、作れる自信がある、の4つです。
既存のサービスは汎用なので自社の業務と合わない部分が出てきますが、内製ならそこを合わせられます。
もちろん、月額の利用料が不要になり人数分の費用もかからない点も見逃せません。
契約の稟議や導入の作業、設定の依頼といった工程が要らないので、内製なら明日から作り始められます。
また、小さなツールを作った経験があると大きなものも作れる気がしてくるものです。
このなかで、業務に合わせられる点と待たなくていい点は、本当の利点だと思います。
ただ、費用が安く見える点には見落としがありますし、作れる自信のほうは過大評価になりがちです。

費用は「作る時間」だけでは測れない
この費用の見積もりこそが、判断を誤る最大の要因になります。
目に見えている費用は「作る時間」のぶんだけだからです。
見えていない費用は、実は4つあります。
不具合の修正や仕様変更への対応、使い方の質問への回答といった保守の時間で、年間で合計すると作った時間と同じくらいかかることがあります。
「作った人が辞めたら、誰が直すんですか」に答えられないまま作ると、異動した瞬間に誰も触れなくなって、結局は一から作り直しになります。
使い始めると必ず要望が出るので、機能を追加し続けるコストもかかりますし、対応しなければ使われなくなっていきます。
そのうえ、その人以外が対応できない属人化の状態そのものが、業務のリスクになります。
「作る時間」のほうも、過小評価されがちです。
動くところまでは早く作れても、実務で使える水準にするにはその数倍かかるからです。
誤った入力への対応、権限の設定、データの整合性といった備えは、後から確実に効いてきます。

判断は4つの軸で行い、内製が成立する条件も4つ
内製するかどうかの判断は、頻度と規模、独自性、保守できるか、業務の重要度という4つの軸で見ていきます。
使う人が多いほど購買のほうが有利で、保守の負荷が人数に比例していくからです。
独自性は、その業務が自社固有か一般的かで測ります。
一般的な業務には既存のサービスがあり、たいていそちらのほうが完成度が高いので、「経費精算くらい、うちで作れるのでは」と思っても、経費精算や勤怠管理、会計といった領域を自前で内製する理由はほとんどありません。
保守できるかどうかは、「これ、誰が保守するんですか」に社内で2人以上が答えられるかで見ます。
1人しかいなければ、その人の異動でそのまま止まってしまいます。
業務の重要度は、止まったときの影響の大きさで測り、基幹業務は購買、補助的な業務は内製が向きます。
この4軸のなかで最も重要なのは、独自性と保守できるかどうかです。
独自性が高く、かつ保守できる人が複数いる場合にだけ、内製が成立するからです。
この4軸から、内製が成立する条件も見えてきます。
まず業務が自社固有で、既存のサービスがない、あるいは合わない状態です。
とはいえ「合わない」の程度は確認が必要で、8割合うなら購買して残り2割を運用で吸収したほうが安く済みます。
次に、使う人数が限定されていることです。
部門内、あるいは数十人までが目安で、全社で数百人が使うものは保守の負荷が大きすぎます。
さらに、保守できる人が2人以上いて、その2人が異動しても後任が読める形になっていることも条件です。
最後に、止まっても業務が止まらないこと、あるいは、手作業で回せる代替があることです。
この4条件が揃わない場合は購買を検討しますし、揃っていたとしても「本当に必要か」をもう一度確認します。
既存の表計算で足りることが、実際にはよくあるからです。

手段そのものの選び方は業務自動化はどのツールで作る?Gem・GAS・Canvasの判断基準にまとめてあります。
内製か購買かではなく、段階で止める判断をする
ここで判断の幅も広げておきます。
そもそもこれは、内製か購買かの二択ではありません。
段階1は既存の表計算で回すことで、台帳と数式だけで足りる場合が多く、最も安く済みますし社内の誰でも触れます。
段階2は表計算に自動化を足すことで、集計や通知、転記といったところまでは内製の範囲として無理がありません。
段階3は画面のあるツールを作ることで、現場が入力しやすい形にする代わりに、このあたりから保守の負荷が上がり始めます。
段階4は業務システムとして作ることで、複数の機能や権限の管理、データの整合性まで含んでくると、購買を検討する領域になります。
「段階3で止まる判断」が、最も実務的だと思います。
段階4に踏み込んだ時点で、開発と保守の性質そのものが変わってしまうからです。
一言でいうと、多くの場合は段階2で業務の問題が解決します。
段階4が必要だと感じたら、そもそも業務の設計のほうを見直したほうがいい場合があります。

表を土台として使う設計はスプレッドシートを社内DBとして扱う。AI自動化の土台設計で扱っています。
保守できなくなるリスクに備え、判断は記録に残す。起きやすい6つの失敗
内製を選んだ場合の設計についても、書いておきます。
まず作り方を文書に残します。
何をする仕組みか、どこを直せば何が変わるか、作った直後であれば30分もあれば書けます。
次に、2人以上が読める状態にしておきます。
作った本人以外が1回読んで理解できるかを、確認しておきます。
手作業での代替手順も残しておき、止まったときにどう回すかを先に決めておきます。
移行の判断基準も決めておきます。
「使う人数が〇人を超えたら購買を検討する」「保守できる人が1人になったら見直す」という形にしておくと、判断のタイミングを逃しません。
このなかで、移行の判断基準がいちばん飛ばされがちです。
飛ばしてしまうと、保守できない状態がそのまま固定化していきます。

内製に限らず、自動化の仕組みを誰が作り誰が保守するかを組織として決める考え方は、AIによる業務自動化の全体像。手段の選び方とコスト設計で扱っています。
あわせて「いつでも捨てられる状態にしておく」ことも欠かせません。
内製したものを購買に移行するとき、データが取り出せる形になっているかを、いちばん最初に確認しておきます。
運用の設計をもう1つ挙げると、判断そのものの記録です。
なぜ内製にしたのか、なぜ購買にしたのか、4軸での評価を1枚にまとめて残しておきます。
後から見直せて、同じ議論を繰り返さずに済んで、担当が変わっても引き継げる。
記録を残す理由は、この3つです。
「これは買ったほうがいいのでは」という議論は定期的に出ますが、記録があれば前回の判断を確認できます。
四半期に一度はその記録を見直して、移行の判断基準に達したものがないかを確認します。
社外に出す場合の審査は社内AIツールを社外に公開する時の審査フローとチェックポイント、レポートの自動化は週次レポートを自動生成する。マネジメントの定型業務を外すにまとめてあります。
失敗は6つあって、費用を「作る時間」だけで見ること、一般的な業務を内製すること、保守できる人が1人の状態で作ること、段階4の業務システムに踏み込むこと、移行の判断基準を決めないこと、判断の記録を残さないことです。
どれも保守の時間まで含めて見て一般的な業務は購買し、書ける人を2人確保して段階3で止め、基準を先に決めて1枚の記録を残せば避けられます。
内製したものが、事業になることもある
最後に、もう一段先の話も書いておきます。
社内向けに作ったものが、外に出せるだけの価値を持っていることがあります。
同じ課題を持つ会社が他にもあるというのは、十分にあり得ることです。
特に業界固有の業務では、既存のサービスがない領域がまだ残っているからです。
ただし社内ツールと提供するプロダクトのあいだには、設計・運用・責任の面で大きな差があります。
社内ツールは、使い方を知っている人が使う前提で成り立っています。
外に出すとなると、問い合わせ対応や不具合の修正、機能の追加、提供を止めるときの手続きまで必要になり、これはもう業務ではなく事業の運営そのものになります。
社内ツールの延長のまま始めると、本業の業務まで巻き込んで止まってしまいます。
もし「これは事業になるかもしれない」と思う段階に来たなら、社内ツールとしての設計を一度作り直す判断が必要です。
私たちが提供しているAIプロダクト開発の伴走支援では、事業として成立するかの見極めから、PoCやMVPとしての作り直しまでを一緒に進めています。
内製したものに手応えがある場合は、考え方の参考になるかもしれません。
内製の判断は、4軸の記録が支える
「作れるのでは」と思う理由のうち、業務に合わせられる点と待たなくていい点は本当の利点です。
費用が安く見える点には見落としがあり、作れる自信のほうは過大評価になりがちです。
見えていない費用は4つで、保守の時間、担当者の異動のリスク、機能を追加し続けるコスト、属人化のコストです。
判断は、頻度と規模、独自性、保守できるか、業務の重要度という4つの軸で行います。
なかでも独自性と保守できるかどうかが、最も重要になります。
内製が成立する条件も4つあって、業務が自社固有、使う人数が限定される、保守できる人が2人以上いる、止まっても業務が止まらない、という並びです。
繰り返しになりますが、内製か購買かの二択ではありません。
段階1の表計算から段階2の自動化、段階3の画面、段階4の業務システムという並びで、段階3で止まる判断が最も実務的ですし、多くの場合は段階2で業務の問題が解決します。
内製を選んだら、作り方を文書に残し、2人以上が読める状態にして、手作業の代替を残し、移行の判断基準を決めます。
このなかで、移行の判断基準がいちばん飛ばされがちです。
判断の記録も、1枚残しておきます。
後から見直せて、同じ議論を繰り返さずに済んで、担当が変わっても引き継げるようになるからです。
検討している対象について、4軸での評価を1枚書いてみるところから、始めてみませんか?
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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