
退職・異動でAI自動化が止まる。オーナー権限の引き継ぎチェックリスト
2026/10/24
執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
仕組みとコンサルティング伴走支援の両面で、組織のAI活用の加速を支援。
作った担当者が退職して数日たったころに、誰かが「あれ、毎朝のレポートが来ていない」と気づく、という話は珍しくありません。
AI活用が進むほど、退職や異動のたびにオーナー権限の引き継ぎが必要になり、それを忘れると業務がそのまま止まります。
最初は「あると便利」だった自動化も、半年もすれば「ないと業務が回らない」ものに変わっているからです。
ここでは、止まりやすい資産の見分け方と、置き場所・実行アカウント・一覧・退職時チェックリストの4つで事故を防ぐ手順を順に見ていきます。

自動化の手段とコストの全体像は、AIによる業務自動化の全体像。手段の選び方とコスト設計にまとめています。
止まるのは、個人のアカウントに紐づいた3つの資産
AI活用で社内に生まれるもののうち、作成者がいなくなると止まるのは主に3種類です。
まず、スクリプトやワークフローのように自動で実行される処理です。
作成者の権限で動いているので、アカウントが停止されると一緒に止まります。
次に、ファイルのオーナー権限です。
共有はされていても、オーナーが個人のままだと、その人がいなくなったあとは誰も権限を変更できなくなります。
もうひとつが、カスタムAIやボットです。
作成者に紐づくものが多く、大元が消えると、使っていた人全員が同時に使えなくなります。
例えばMeetの録画や文字起こしも、主催者のマイドライブに保存されるので、主催者の退職とともに失われるおそれがあります。
作った人の異動や退職でツールが止まる事態は、AIツールが社内で共有されないままだと起きることの1つとして挙げています。
いちばん困るのは、止まったことに誰も気づかないこと
止まるだけなら、気づいた時点で直せます。
問題は、止まったことがなかなか表に出てこない点です。
自動処理のエラー通知は、たいてい作成者のメールに届く設定になっています。
本人のアカウントが止まっていれば、その通知は誰の目にも入りません。
数日たってから誰かが異変に気づいても、何をしていた仕組みなのか、どう直せばいいのかが分からないこともあります。
中身を見る権限すら残っていない場合は、業務だけが止まったまま、原因を調べる手がかりもありません。
つまり、止まる前提で「誰が気づくか」と「誰が直せるか」を決めておかない限り、同じ事故は退職のたびに繰り返されます。

業務のファイルは、最初から組織の領域に置く
対策の土台になるのは、個人の領域に業務のファイルを置かないことです。
業務で使うファイルは共有ドライブなど組織が所有する場所に置き、個人のドライブに置いたまま共有する形をやめます。
いまの状態は、「便利だから自分のフォルダに置いた」の積み重ねでできているので、ルールとして明文化して周知するしかありません。
ドライブの運用ルールの標準化と、フォルダの作り直しを並行して進めると、あとの引き継ぎがずっと軽くなります。
個人フォルダに散った業務データを移す進め方は、個人フォルダの業務データを共有領域へ。AI活用の前提整備で扱っています。
自動処理は、実行アカウントと通知先を個人から切り離す
自動で動く処理については、個人のアカウントで動かさないのが理想です。
業務用の共通アカウントを用意してそこで処理を動かし、エラー通知も個人ではなくチームの窓口に届くようにします。
通知先にチームの共有アドレスやチャットのチャンネルを指定しておけば、担当が替わっても設定を触らずに済みます。
ただ、共通アカウントはパスワードを誰が持つか、誰がアクセスできるかが緩いと、それ自体がセキュリティのリスクになります。
そのため、共通アカウントの管理方法は情シスと相談しながら決めるのが安全です。
もちろん、小規模な組織では共通アカウントを用意できないこともあります。
その場合でも、エラー通知を複数人に届けるだけで、止まったことに気づける確率は大きく変わります。
動いているものの一覧は、7つの項目で足りる
退職の連絡が来た日に、その人が何を動かしていたかをすぐに答えられますか?
根本の問題は、社内で何が動いているのかを誰も把握していないことで、一覧が無いと退職の連絡を受けてから慌てて探すことになります。
一覧に入れる項目は多くなくてよく、名前、用途、作成者、動いている場所、実行タイミング、止まったときの影響、代替の担当者の7つで足ります。
見落としやすいのは「止まったときの影響」と「代替の担当者」で、ここが埋まっていれば、退職時に何から手を付けるかがすぐに決まります。

AIツールの管理シートがすでにあるなら、別の表を作らずに同じシートへ列を足して、1枚にまとめるほうが更新が続きます。
退職・異動のチェックリストに、AI資産の項目を足す
最後に、ここまでの対策を人事と情シスの退職フローに組み込みます。
チェックリストの持ち主は人事や情シスのままにしておき、推進担当は項目の中身を決める側に回ります。
多くの会社には、備品の返却やアカウントの停止を並べた退職時のチェックリストがあります。
そこに、次の項目を足します。
作成した自動処理の一覧を出す
ファイルのオーナー権限を組織のアカウントへ移す
カスタムAIを、共有できる形に移す
動いている仕組みの説明を残す
異動の場合も同じ項目を使います。
むしろ異動のほうが「まだ社内にいるから聞ける」と油断して、引き継ぎが甘くなりがちです。

説明を残す作業は、AIに任せられます。
コードを渡して「何をしている処理か、非エンジニアにも分かるように説明を書いて」と頼めば、以前なら「書く時間がない」で終わっていた資料が数分で形になります。
引き継ぎ資料そのものの作り方は、担当が変わってもAI業務が止まらない。引き継ぎパッケージの設計で詳しく書いています。
動いているAI資産を、一か所で見える状態にする
一覧を作っても、置き場所がばらばらだと更新が止まり、退職のときにはまた古くなっています。
私たちが提供している組織のAIポータル「AI Portalize」では、使われていないツールやアカウントも、よく使われているツールも分かるので、引き継ぎの前に影響の大きいものから確かめられます。
作成者が不在になったときに影響の範囲をたどれない場合は、考え方の参考になるかもしれません。
作るときに「残す設計」を入れておけば、止まる事故は防げる
AI活用の目的のひとつは属人化をなくすことですが、AI活用そのものが、作った人にしか分からない仕組みを新しく生みます。
これは避けにくい副作用なので、作ることを勧めるのと同じ熱量で、残す仕組みを最初から組み込んでおきます。
作ったときに一覧へ1行足す、個人の領域に置かない、説明を1つ残す、の3つだけでも、多くの事故は防げます。
一覧の最初の数行は、推進担当者自身がいま作って動かしている自動化から書き始められます。
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執筆:寺田昇平
AI Portalize株式会社 代表取締役/AI Digital Community 代表理事
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